第86話 お祝いの席の準備

 パーティメンバーの装備を揃えた翌日、アグハトがやってきた。


 この間会ったときは、ベッドに寝かされていが……ケガの具合はよくなったようだな。


 快復を見せるためか、アグハトは無言でポーズを取って、全身の筋肉をアピールしている。


 うん、本当に大丈夫そうだ。


 それで、ここに来た要件はなんだろう?


「バーラを救ってくれた礼に、感謝の宴を開かせてくれ」


 正式に街を上げての宴をやることになったらしい。


 最初に話題を出されたのは、魔族のエンプサから人質を助けたときだったか?


 それから元『魔王軍』幹部のシトリーが襲って来たこともあって、ずっと延期されていたようだ。


 街の復興の目途が立ち、再出発のための区切りにもしたいのだろう。


「つーわけで、兄ちゃんのご高説を楽しみしてるぜ!」


 アグハトは親指を立てて、すごくいい笑顔を見せてきた。


 前にその話が出たとき、大勢に向かって話すのは苦手って言わなかったか?


 俺のスピーチで式典の成功が決まるようにされても困るんだが……


 そうそう、その祝いの宴だが……アグハトの話を聞いたところ、いつの間にか『式典』規模になっていた。


 俺は、ヘイムダル王都でやったバーベキューみたいに、冒険者や街の人が集まって、食ったり飲んだりするだけのつもりだったんだけど、グレードアップしたらしい。


 理由は、俺たちが『魔王軍』を倒したのが、王都にも知れわたったから。


 王都から、アレクシア──ヘイムダル王国のお姫様まで招くとのこと。


 さらに追加で、王都からも参加したい住民がやってくるらしい。


 そんな人たちが注目する前でスピーチをやると……


 なんでそんなにハードルが上がっているんだ。


 せめてもの抵抗して、スピーチの内容は短めにしてやろう。




 アグハトは頼むだけ頼んで帰っていった。


 式典まではいろいろと準備があるようだ。


 俺たちも暇なので、朝と昼は式典の料理に使う食材調達の手伝いをすることにした。


 食材になるのは、バーラの周辺や西の森にいるモンスター──ホーンラビットやランページボアやメナスバードだ。


 今のレベルなら、俺でなくても問題なく狩れるので、5人で手分けして狩る。


 みんな、買ったばかりの装備を試している。


 様子を見た感じだと、すぐに馴染んだようだな。


 …………


 アイーダが「練習なのだ」とか言って、炎ブレスを吐いてランページボアをその場で焼いて食べていた。


「むぅ、味が薄いのだ……」


 そりゃあ、街で食べている香辛料たっぷりの料理と比べたらそうだろう。


 舌が肥えたんだ。


 まあ、ひとりが食欲に走ったが、問題はない。


 ルナとマイアは主に地上のモンスターを、俺とリーゼは空中のモンスターを倒していく。


 あっという間に、かなりの食材が集まった。


 すべてアイテム欄に入れる。


 これを渡せば、式典では参加者全員が満足できるくらいの量が食べられるだろう。




 そのあと、ルナとマイアに練術を教えることになった。


縮地速影しゅくちそくえい』。


 移動用の練術で、俺がシトリーとの戦いで使ったやつだな。


 移動系の練術は、移動距離などの制限はあるものの、発動中のフォームにさえ慣れてしまえば素早く移動できるので、覚えておいて損はない。


 ルナとマイアのレベルなら習得できるはずなので、フォームを教えておく。


 リーゼには、魔法だ。


 ふたつの属性の魔法を同時に使ってもらう。


 レベルが上がれば、スキルで使えたり、そもそも2属性の魔法を覚えたりできるけど、今から感覚を覚えておいて損はない。


 水と風を同時に使えば、簡単に洗濯物だって洗えるぞ。


「そういうのはいいわよ」


 む、出した例が悪かったか……


 ちゃんと生活でも使えるように設計したんだけどなー。


 まあ、使い方はいろいろあるし、魔法の出力の練習にもなるのでやってもらう。


 昼すぎくらいから始めて、夕方くらいにはルナとマイアは『縮地速影しゅくちそくえい』で、リーゼは風と炎の混合魔法で、競走を始めていた。


 3人ともうまくなっていた。


 ちなみに、1番速かったのはリーゼだったが、木に頭から突っ込んでいたので、制御という意味では最下位だった。


 ルナに回復魔法をかけてもらったが、まだ頭が痛いとリーゼが言ったので、俺が背負おうとしたら、ルナとマイアに止められた。


 ミツキがやるなら、自分たちがやると。


 そこになぜかアイーダが参戦し、最終的にアイーダがリーゼを背負って帰ることになった。


「出発なのだー!」


「ちょっ、アンタ!

 無駄に動き回らないでよ!

 ぴょんぴょん跳ねない!

 って、人の姿なのに翼出して飛ぼうとしないで!

 落ちる、落ちちゃうからぁぁぁ!!」


 アイーダがやけに張り切って空まで飛ぼうとしたせいか、リーゼが慌てていた。


 最終的に落ちても魔法でなんとかするだろうから見守っておく。


 それにしても、アイーダとリーゼも仲がよくなったなー。


 バーラでの平穏な1日だった。

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