幕間 少女たちのファッションショー

〇リーゼ視点


 あたしは、リーゼ。


 魔法使いで冒険者ランクの『シルバー』に上り詰めた実力者よ。


 このヘイムダル王国の魔法使いで、あたしに勝てるやつはいないんじゃないかしら?


 え、ミツキ?


 アイツはダメよ。


 純粋な魔法使いじゃないから除外。


 超人とか怪物の枠でお願いしたいわ。


 さて、今日のあたしだけど、装備を扱う店に来て、ついでにドレスを選んでいた。


 ちょっと前に救ったバーラの街で、祝いの席を用意してくれるみたいだから、そのためのドレスが必要ってわけ。


 だけどそれだけじゃなくて……ミツキが勝手にどこかのパーティに引き抜かれないように、あたしの魅力で虜になってもらうつもりなの。


 ミツキとはいえ、所詮は男。


 このあたしが、キレイな格好をすれば、イチコロよ!


 そんなわけで、店の者に頼んでドレスを着させてもらった。


 まずは赤を基調としたパーティドレス。


 ところどころに黒が入っていて、あたしにぴったりな大人びた色合いになっているわ。


 ふふふ、大人の色気で、落としてみせる。


 待ってなさい、ミツキ!


「「あっ……」」


 ミツキのところへ向かう途中……ルナと出くわした。


 そりゃあ同じお店で選んでいたんだから、会うのは当然だけど、同じタイミングになるなんて……


 ルナは、淡い紫色のドレスを着ている。


 裾が短いタイプで、控えめだけど華になるドレスだ。


 そして、雪のように白い髪のルナにはよく似合っている。


 くっ……大人しいけどキレイなドレスも男に人気なのよね。


「リーゼ、似合ってるわよ」


「ルナこそ、よくわかってるじゃない」


 ルナはこれまでドレスを着たことはなかったはず……


 それでもぴったりのものを選べたのは、たぶん知恵を借りた人がいるに違いない。


 ……アグハトと婚約したっていう女性かしらね。


 ルナってば、ミツキと一緒に会いに行って、メモみたいなものを持ってるんるんで帰ってきてたから。


 ……フフン、面白いじゃない。


「せっかくだから、一緒にいきましょう」


「そうね。

 ミツキがどんな反応するか楽しみだわ」


「ええ、本当に。

 リーゼ、先に言っておくけれど、どちらを気に入っても恨みっこなしよ」


「あら?

 それは、自制するって宣言かしら?

 あたしのほうが魅力的なのに、アンタを恨む展開になんてならないと思うけど」


「そう……ふふふ、楽しみね。

 慰めるくらいはしてあげるから」


「そうね。

 あたしも準備しておいてあげるわ、ふふふ」


 あたしとルナのドレスは、ほぼ正反対。


 だけど、ルナに魅力で負けるはずないわ。


 で、その宣言をするミツキは……


 スーツを選んでいるところみたい。


「ミツキ、待たせたわね!」


「私たちは先に着替えてきました」


 あたしとルナが同時に声をかける。


 ミツキが顔を上げ……そして、目を丸くした。


「リーゼと、ルナか……

 似合ってるじゃないか」


「それだけ?

 ほら、もっと言うことあるでしょ?」


「そうだな。

 ふたりとも、すごくキレイだぞ」


「フフン、当たり前でしょ!」


 このあたしがドレスを着ているんだから。


 崇めてもいいのよ?


 ふふふ。


「…………」


 ルナのほうを見ると、笑顔のまま固まっていた。


 嬉しくないのかと一瞬思ったけど、首が真っ赤になっているから、たぶん照れているのね。


 キレイって言われなれていないのかも。


 お礼の言葉が出てこないほど、混乱しちゃって。


 ルナをからかういい話の種が手に入ったわ。


 それはそうと、ミツキにはちゃんと確認しなくちゃいけないわね。


「ミツキ、どっちがいい?」


「どっちって……ドレスの話か?

 うーん……ふたりとも似合っていて、素敵だぞ。

 ドレスがふたりの魅力を引き出している感じだ。

 だから、片方選べとかは……難しいな」


 くっ、引き分けってことね。


 ……まあ、いいわ。


 本当はアタシの圧勝で終わりたかったけど、ドレス姿のルナはあたしの目から見てもキレイだからね。


 決着は次にしましょう。


「ミツキがそこまで言うなら、このドレスを買うことにするわ。

 他にもよさそうなのがあったから、もう少し付き合ってくれる?」


「いいぞ。

 好きなだけ持ってこい」


「ありがとう。

 ほら、ルナ、いつまで呆けてるのよ。

 次の服も選びましょう」


「──ハッ!?

 す、すみません、ミツキ、ありがとうございます。

 私もこのドレスに……」


「そういうのもう終わったから、着替えるわよ」


「え、ちょっと、リーゼ……」


 ルナの腕を引っ張って、店の奥へと戻る。


「勝負は引き分けだったけど……目的は達成ね」


「目的?」


「忘れちゃったの?

 ミツキをパーティに引き留めたいって、昨日泣きながらあたしに頼んだじゃない」


「泣いてはいないわ。

 事実を捻じ曲げないで」


「そうだったかしら?

 細かいことはいいのよ。

 でも、これでわかったでしょ?

 キレイなドレス姿を見せれば、男なんてあっさり落とせるんだから」


「……そうね。

 これでミツキが私たちに魅力を感じて、パーティにずっといてくれるなら……

 それにしても……

 ふふふ、『キレイ』か」


 普段すまし顔のルナが、にやけている。


 やっぱりミツキの言葉は、この子にとってかなり効くわね。


 さっきの件と合わせて、今度ルナをからかうときに、ミツキにも頼んでみようかしら。


「──なぁ、お前たち」


 ルナを引っ張って試着室まで行こうとしていると、角とシッポを生やした少女に声をかけられた。


「チビ竜じゃない。

 どうしたのよ?」


「マイアを知らないか?

 さっきから姿が見えないのだ」


 マイア?


 そういえば、見てないわね。


「アンタと一緒じゃないなら、どこかの試着室でしょ。

 今はあたしたちしかいないみたいだし、片端から声をかけてみれば?」


「そうだな……

 やってみるのだ」


 竜神の少女は試着室のあるほうへパタパタと走っていった。


「……マイアか」


 あの子、スタイルいいのに、スカートとか苦手なのよね。


 今ごろはドレスじゃなくて、スーツとか着ているのかもしれないわ。


 って、他の人を気にしている余裕はないわね。


 時間には限りがある。


 次の服を選ばないと。


 今日中に、ミツキをメロメロにしてやるわ!



 

 10分後。


 あたしは別の服に着替えて、試着室を出た。


 今度のドレスは日常でも着られるワンピース。


 だけど、生地が高級だから安っぽい感じはしないわ。


 日常的なところにも、華がある──そんなハッとさせられる気分をミツキには味わわせてあげる。


 試着室を出るとルナと鉢合わせた。


 ルナもワンピース?


 村娘みたいな感じね。


 やっぱり、アグハトの婚約者にドレスの選び方を聞いたみたい。


 それじゃ今度こそ、ミツキに勝敗を決めてもらいに……


 って、チビ竜がミツキのいる方向を覗いているわね。


 何をやっているのかしら?


「マイアを引っ張り出してやったのだ」


 マイアを連れてきたのね。


「あの子、どんなスーツを着てきたの?」


「スーツ?

 マイアが着ているのはドレスだぞ」


 へぇー、ちゃんとドレスを着られたのね。


 普段、スカートもはいたことがないのに。


 フフン、面白いわ。


 どんなものを着たか見てあげましょう──


「っ!!!!?」


 あの子、なんてドレス着てるの!?


 マイアが着ているのは、青地に金色の刺繍ししゅうが入った薄手のドレス。


 体にぴったりとくっついている作りのせいか、ボタンがはち切れんばかりのバストと引き絞ったウェストの、メリハリのあるボディラインが鮮明になっていて、それぞれの良さを極限まで見せつけてくる。


 そして、腰から下も恐ろしい。


 腰のくびれからヒップに続くなめらかな曲線、スカート割れ目からは、これまた引き締まったしなやかな脚がこれでもかというほど露出している。


 マイアを、甘く見ていたわ。


 あの子は、近接戦を主体とするだけあって、自分の体を鍛えるのに余念がない。


 本人が元々ソレを苦にしていないこともあって、鍛えられた体はすごいことになっている。


 普段はボーイッシュな格好を好んでいるから忘れていたけれど、パーティの中では1番、健康的で美しい肢体の持ち主だった。


 引き締まった肉体美を最大限に表現し、さらにより美しく見せるドレスがあれば……あたしたちみたいな、きらびやかなドレスを着ただけじゃあ太刀打ちができるわけがなかった。


 そんな色気の権化となったマイアに、ミツキも賛辞を送っている。


 え、それ専用の装備を探す?


 あのドレスって戦闘用なの!?


 あんなので戦ったら、刺激が強すぎて近くにいる男連中がぶっ倒れるわよ……!


「あ、あ……」


 ミツキがマイアを連れて装備エリアに向かった直後、隣にいたルナが崩れ落ちた。


「……私が、ドレスの話をしたから……

 眠れる竜を呼び覚ましてしまったというの……?」


 ……なんか、わけのわからないこと言い出した。


 確かにマイアのドレスには金色の刺繍ししゅうで竜は描かれていたけど。


「しっかりしなさいよ!

 よかったじゃない。

 これでミツキがパーティを抜ける可能性は、完全になくなったわ。

 あんなの見せられたら、男は絶対に離れなくなる。

 ううん、それだけじゃなくて……アンタのドレス姿だって、キレイだって褒めてくれてたじゃない。

 だから、あたしたちの当初の目的は達成したのよ」


 なんであたしがルナをなぐさめることになってるんだか……


 まあでも、あんなもの見せられたんじゃ、ミツキとの距離を縮めたいルナにとっては、尋常じゃないショックだったはずよね。


 だけど、いつまでも落ち込ませているわけにはいかないわ。


「立ちなさい、ルナ!

 あたしたちだって、まだミツキに見せてない服とかあるでしょ!」


「うぅ……どれだけ見せても、マイアには敵わないわよ……」


 とことん弱気になっているわね、この子。


「しっかりしなさい!

 マイアが一着のドレスであれだけ化けたんだから、あたしたちにも似合う服があるわ」


 そうよ、マイアの魅力を完璧に引き出すドレスがあったんだもの。


 あたしやルナにだってぴったりのドレスがあるはずだわ!


「チビ竜」と、マイアたちの後を追おうとしたアイーダに声をかける。


「マイアのあのドレスってアンタが選んだの?」


「いや、違うぞ。

 店の者にでも頼んだのではないか?」


「店か……」


 それならあのセンスも納得できる。


 あのドレス、あたしがこの店のドレスをざっと見たときにはなかったのよね。


 別の部屋に掘り出し物として保管されていたのかもしれないわ。


「ほら、ルナ。

 新しい服を選ぶわよ」


 あたしはルナを立たせて、他の服を店員に持って来てもらうことにした。


 ルナと勝負だなんて言っていられない。


 あんなとんでもない強敵が現われたんだからね。


 危うさで言ったら、ヘイムダル王都の近くにいた元『魔王軍』以上の脅威だわ。


 本当に、ミツキがやられてしまう。


 今着ているドレスは、ミツキが戻ってきてから見てもらうとして……次の服も先に用意しておきましょう。


 真新しい服をミツキに見せまくってて、落としてやるわ!


 


 それからあたしとルナは、新しい服を着るたびに、ミツキに見てもらったんだけど……


 カワイイとかキレイとか、いろいろ言ってくれたけど……マイアのドレスほどの感想は引き出せなかったわね。


 だけど、最後に着た服──ジャケットと薄手のブラウス、それにプリーツスカートを組み合わせた服には、今までとは違う反応が返ってきた。


「学校の制服か……

 俺も高校のころを思い出すなぁ。

 友達とバカなことやりながら、将来の夢とかわからないなりにも考えてて……

 その数年後に、家に帰れない日々が続くなんて思ってもなかったなー」


 ミツキはどこか遠い目をしていた。


 だから、着替えてこようとしたんだけど、


「待て待て……!

 その制服はリーゼたちにぴったりなんだ。

 だから、しばらくその服でいてほしい」


「そこまで……

 ふふっ、わかったわ。

 アンタのために、たまにはこの服に着替えてあげる」


 どうやら、ミツキの心に刺さったようだ。


 マイアのドレスとはまた違うけど、あたしの魅力で落とせたようでよかったわ。


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ミツキ「制服コスって、ブレザーとセーラーにするかでチームの意見が割れたんだよな……それで結局、全社アンケートをすることになって……懐かしいな~」

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