第84話 パーティメンバーと組手?(アイーダ編)
リーゼを近くの切り株に座らせる。
魔力切れで力が入らないようだが、少し休めば歩けるようになるだろう。
リーゼの様子を見ていると、マイアとルナがこちらにやってきた。
「リーゼ、すごかったよ!
あんなすごい魔法を使えるようになったんだね!!」
「ま、そのおかげで私たちも燃えそうになったけれど」
そんなふたりにリーゼは「フフン」と得意げな笑みを見せた。
「魔法戦ならあたしはこのパーティで最強だからね。
あのくらいできて当然よ……!」
と言っているが、座っていてもふらふらしているのでイマイチ説得力がない。
ルナとマイアもそう感じたようで、
「派手で強い魔法が使えるのはわかったけれど、魔力を最後まで使い切る癖は直したほうがいいわよ」
「そうだねー。
魔法使いは魔力が生命線なんだから大事にしないと」
小言を伝えるが、リーゼは気にしていない様子。
「そこは、パーティプレイよ。
あたしを守って安全圏まで連れて行ってちょうだい」
「はぁ……まったく、この子ったら。
魔法以外のことは、私たちに丸投げなんだから」
「リーゼらしいと言えばリーゼらしいけど……って、あれ?」
マイアの視線は、リーゼの手に持っている杖に向いていた。
「ミツキと戦うときに使ってた杖じゃないよね?
そんな鏡がいっぱいついたの持ってたっけ?」
リーゼが持っているのは、シトリーから手に入れた『
さっきまで使っていた杖は、俺のアイテム欄の中にしまってある。
「ああ、これ?
さっきミツキにもらったのよ」
「え……ミツキに?」
「ふふふ……
別にあたしはいらなかったんだけど、どうしてもって言うからもらってあげたわ」
「どうしても」までは言ってないと思うんだけどなー。
まあ、リーゼが嬉しそうにしているから、いいか──
「ミツキィィィッ!!!」
マイアにいきなり襟元を掴まれた。
何事!?
「ボクには?
ボクにはぁぁ!?」
「な、なにが?」
「んっ!!」
マイアが、ルナとリーゼを交互に指さす。
「指輪に杖!
ボクにはないの!?」
「ああ……装備か……」
どうやら、マイアは自分だけ専用の装備がもらえていないことにご立腹らしい。
ただ、マイアにぴったりの装備は、この辺りだと手に入らないからな……
「じゃあ、次にいいのが手に入ったらマイアに渡すよ」
「それって、ルナやリーゼが持っているのと同じくらい!?」
「あ、ああ……ふたりにも負けないくらいのやつ」
「本当だね!?
約束破ったら……ボク、怒っちゃうから」
マイアが怒る、か。
骨が何本やられるかな?
……約束は守ろう。
さて、マイアが服から手を離してくれたので、装備の話はここまでだ。
ここに来た目的だった、ルナ、マイア、リーゼの現状の強さの調査だが……3人と組手をしてみて、おおよそわかった。
今の3人のレベルなら、『ヴレイヴワールド』では立ち寄るのが必須だった街もいくつか飛ばしていくことができそうだ。
あとは3人に、新しく覚えた練術や魔法の練習をしてもらおうか……
そんなふうに考えていたときだった。
「──泉の水は最高なのだー!!」
突然、アンダイン泉に水の柱が立った。
虹色の竜……アイーダが大量の水しぶきと共に飛び出してきやがった。
そういえば、ここに連れてきて、ずっと泉の中に潜ったままだったな……
「冷たっ!」
「下着まで……
さすがに乾かしたほうがいいわ。
リーゼ、炎魔法……は無理そうね」
「火打石にもなれなくて悪かったわね」
マイア、ルナ、リーゼがずぶ濡れになってしまった。
もちろん、俺も。
考え事をしていて、反応できなかった。
とりあえず、すぐに濡れていない場所に移動し、森に転がっていた木の枝を集めてきて、それを炎魔法で燃やした。
簡易焚火の完成。
今日はみんな薄着なので、放っておいてもすぐに乾くだろうけど、火はあったほうがいいだろう。
「3人はここにいてくれ。
俺はアイーダのところに行ってくる」
予定にはなかったけど、ついでにアイーダの力……特に人間の体での力についても調べておこう。
デコピンでモンスターをなぎ倒していたが、正確なところはちゃんと調べてなかったからな。
「はーい!」
「わかりました」
「ちゃんとしつけて来なさいよ」
ルナたちの返事を背中で聞きつつ、泉へと近づく。
「おーい、アイーダ!」
「ん?
どうしたのだ、ミツキ。
殴り合いは終わったのか?」
殴り合いって……
まあ、そう見えないこともないけど。
「ルナたちは終わったぞ。
だから次はお前の番だ。
こっちで少し手合わせを──」
「イヤなのだ!」
「…………」
「痛いのはイヤなのだ!!」
……コイツ、本当に竜神なのか?
ほとんどの業物、魔法や練術を防ぐ全長5メートルを超えるその体は見せかけなのか?
「痛くはしない。
というか、攻撃はしない。
こっちに来て、人の姿になってくれ」
「イヤ──」
「ちなみに断ったら、逆鱗を剣でチクチクするぞ」
「行きますのだ!!」
アイーダは波を起こしながら岸に上がると、すぐに人の姿に変身した。
物分かりがよくて、大変よろしい。
「来てやったのだ。
痛くするのはやめるのだ!」
「わかってるって。
ほら、木剣をやるから、それで俺を攻撃してみろ」
俺はアイテム欄から木剣を取り出して、アイーダに手渡した。
アイーダは受け取った木剣を握りしめ……グリップの部分をやすやすと砕いてみせた。
「なんだ、このおもちゃは」
竜神の力に耐えられるようにはできてないっての。
「力加減もついでに覚えろ。
もう一本やるから、かかってこい」
木剣を再び手渡す。
今度は……慎重に握っているようだな。
アイーダから離れる。
急に竜の姿になられても大丈夫なように、10メートルくらい。
よし、それじゃあ始めるか。
「行くのだ!
わぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アイーダが、とてとてと行った感じでこちらへ走ってくる。
『堕天の魔塔』でゴーレムから逃げていたときはもっと速かった気もするが……あれは命がかかっていたからかな?
もしかしたら、さっきまで竜の姿だったのも関係しているのかもしれない。
いずれにせよ、アイーダは見た目と同じ中学生の少女の駆け足くらいの速さで走ってくる。
はっきり言うと、ルナやマイアに比べてめっちゃ遅い。
「ふははははは、くらうがいい!」
アイーダが両手で握った木剣を、頭の上に持っていく。
俺の頭を目掛けて降り下ろすつもりなのだろう。
「ていやぁっ!」
その一撃を、俺はひょいと避けた。
体を左に動かしただけ。
だがそれで、アイーダは盛大に空ぶった。
しかし、よほど力を込めて降り下ろしたのか、木剣がアイーダの手から離れた。
「おいおい、剣はちゃんと握って……」
と、俺が指導をしようとしたときだった。
ピュン──という風切り音を立てた木剣は、近くの木へと一直線に向かっていき、
バキン!
ミシミシミシ……
ドーン!!
その木をなぎ倒した。
そして、木に当たったことで、飛んでいく方向が変わった木剣は次の木へと衝突し、
バキン!
ミシミシミシ……
ドドーン!!
と、おかわりで木をなぎ倒した。
その後も森の中で、何回かバキンという音と木々が倒れていく音がして……ようやく静かになった。
「…………」
「む……手が滑ってしまったのだ?」
アイーダが自分の両手を見て首を傾げていた。
リアクションが軽い。
俺に直撃してたら、現実からログアウトしてたんだけど?
竜神のステータス、やっぱりバグってるな……
木剣で、木をなぎ倒すってなんだよ。
確かに竜神は隠しボスで、それ相応に強く設定したのも俺だけど……
「うむ!
だが、これで満足しただろう?
我は水浴びに戻るのだ!」
「待て」
俺は泉に向かおうとするアイーダを呼び止めた。
隠しボスだからとか関係ない。
コイツは特訓しないとダメだ。
強くなるためではなく、強さを認識させるために。
「アイーダ、お前は俺が直々に鍛えてやる」
「なぬっ!?
そんなことしなくても、我は充分強いのだ。
なんだったら、お主よりもな!」
「逆鱗ツンツン」
「それだけはやめるのだ!
わかった、わかったのだ……!!
特訓に付き合ってやるのだ!
だけど、我は絶対に面倒なことはしないのだ!
それは覚えておけ!」
やる気があるのかないのかよくわからないが……
その日は一日、アイーダに力の使い方を教えるのに費やすことに決定したのだった。
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