第83話 パーティメンバーと組手(リーゼ編)
ルナとの組手が終わると、待ってましたと言わんばかりにリーゼがやってきた。
「いよいよあたしの出番ね。
本気でやりましょう!」
腕を組んで、いかにも自信満々な様子だった。
俺に勝つための秘策があるのかもしれない。
リーゼも強くなったからな、うっかり魔法で焼かれないように気をつけよう。
「武器や練術も使うけど、大丈夫か?」
「ええ、もちろん。
そうじゃなきゃ、あたしが圧倒的に有利だもん」
まあ、魔法だけで今のリーゼに勝てるとは思っていないが……魔法に対する自信も相変わらずだな。
そんなリーゼの装備は、王都から愛用しているローブと杖という、いつもと変わらずの魔法使いスタイルだった。
バーラで買ったローブではないのは、エンプサとの戦いでボロボロになったからだろう。
次の街に向かう際には、装備も一新しないとな。
そんなことを考えつつ、リーゼと5メートルほど離れて向かい合う。
剣士ならば一瞬で詰められる距離であり、魔法使いならば接近を許すまでに1回は魔法が唱えられる距離だ。
「ふたりともがんばれー!」
「ミツキもリーゼも油断しないように!」
マイアとルナが、先ほどよりも離れたところで見守っている。
リーゼと戦う場合は魔法が飛び交うので、距離を取っているようだ。
それを横目で確かめてから、リーゼが杖を掲げた。
「アンタ相手に出し惜しみはしないわ。
行くわよ!」
瞬時にリーゼの中で魔力が高まっていくのを感じた。
「『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』」
「……!?」
その魔法は、やばい!
「『
『ウインド・ブラスト』!」
移動用の練術に、突風の魔法をプラスして、なんとか魔法の効果範囲から逃げる。
俺がさっきまでいた場所には、いくつもの火柱が立ち上り、10メートル四方の大地に、高さ5メートルの荘厳な炎の宮殿を創り上げていた。
「炎の宮殿に無断で入ったら最後、黒焦げになって命を落とすことになる」──この魔法の説明には、そんなフレーバーテキストが書かれるくらいには、強力な魔法だ。
魔法の強度を示す指標は「6」。
俺が今のレベルで使える最大魔法の『グレイン・ビッグバン』よりも強い。
エンプサが丸焦げになるはずだな。
『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』は、『ヴレイヴワールド』のストーリーでは、リーゼが終盤に差し掛かった辺りで習得するように調整されている。
インチキしてレベルを上げたからって、それを序盤で使用にできるようになるなんて……
俺の想像以上にリーゼは強くなっていたようだな。
「どう、ミツキ?
あたしの前に跪く気になったかしら?」
『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』にある、地上から5メートルほどの高さに設けられた炎の玉座に腰掛け、リーゼは俺を見下ろしていた。
「びっくりしたよ。
まさか、その魔法まで使えるようになっていたなんてな……」
「ふふふ、あたしだって、いつまでもアンタに負けてられないのよ。
それで、どうするの?
降参するなら今のうちだと思うけど」
「気が早いな。
強力な魔法なのは間違いないが、効果範囲から外を攻撃するには向かないぞ」
『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』は、確かに強力だが、一度その範囲から出てしまえば、単体ではそれ以上の攻撃をすることが難しい魔法だ。
もっとも、あの炎の宮殿は、向かってくる攻撃もほとんどを消し炭にするので、こちらから手を出すのも難しいわけだが。
「ふふふ、安心しなさい。
アンタを退屈させるつもりはないわ」
リーゼは不敵に笑うと、再び魔法を発動させた。
「『ミラー・ミラージュ』」
俺の周囲に、3人のリーゼの分身が現われる。
エンプサも使っていた分身の魔法だ。
マイアが使う練術の分身との違いは、分身が魔法を使うことができる。
「舞踏会の始まりよ。
楽しんでいきなさい」
「「「『ヘル・フレア・プリズン』」」」
3人のリーゼの分身が同時に、レベル3の魔法を繰り出す。
俺の周囲に炎の檻が三重に張り巡らされ、徐々にこちらへ迫って檻を狭めてくる。
以前戦ったときのように上から逃げようかと思ったが……今度はきっちりと炎の檻で覆われているな。
「
炎の檻がさらに速度を上げて、周囲から迫ってくる。
逃げ場はない。
このままだと、俺は炎の檻に燃やし尽くされるだろう。
「ちょっと手荒だけど、仕方ないか」
俺は魔力を込め、魔法を発動させた。
「『グレイン・ビッグバン』」
伸ばした手の先で大爆発が巻き起こった。
レベル5に分類される爆発の魔法だ。
いくら三重に張られていても、レベル3の魔法に穴を開けるくらいはできる。
「なっ!?」
リーゼが玉座の上から身を乗り出していた。
「成長しているのは、リーゼだけじゃないってことだ。
その程度の魔法なら破れる」
「やるわね……!
それでこそ、勝つ意味があるわ!!」
「そうか。
じゃあ、今度は俺の魔法を味わってもらおう!」
体内で魔力を血液のように循環させるイメージを持つ。
「……!」
俺がいつ動くのかわからず、リーゼも、その分身もこちらの動きを注意深く見つめて動けずにいた。
…………
……………………
………………………………
……もうそろそろかな。
そのとき、ポン、という音ともにリーゼの分身が煙になって消えた。
そして、炎の宮殿が蜃気楼のように揺らいだかと思うと、その場から残り火すらなく消滅した。
「『ウインド・ウォール』」
5メートルの高さから落下してくるリーゼを風の魔法で支え、その下に移動すると両腕で受け止めた。
「うそつき……」
リーゼは大量の汗をかき、不愉快そうに目尻を吊り上げていた。
「魔法なんて使ってないじゃない。
おかげで、魔力が切れちゃったわ……」
そういうことだった。
『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』は、効果が高いだけあって、維持するのにも大量の魔力を使う。
『ミラー・ミラージュ』で分身を生み出しながらだと、なおさら魔力を使ったのだろう。
「ウソじゃないさ。
ちゃんと魔法は使っただろう?」
「どんな魔法よ」
「リーゼに追加で魔法を使わせなくする魔法」
リーゼの口が「へ」の字になった。
「……アンタと戦ってると、実力以上に負けた気分になるからイヤなのよ」
「それじゃあ、もう戦うのはやめるか?」
「冗談。
アンタに勝つまで何度でも挑んでやるわ!」
魔力が切れていても目の奥の炎は消えてないようだった。
「だけど『ヘル・ブレイズ・エンプレス・パレス』まで使えたのには、本当にびっくりしたぞ。
エンプサはソレで倒したんだな」
「アンタには簡単に避けられちゃったけどね。
というよりも、あの魔法のことも知っていたなんて驚きよ。
まさか、発動する一瞬で魔法の範囲外まで出られるなんて、思ってなかったもの」
「まぁな。
強みがわかれば、弱みもわかる」
「……今更だけど、アンタのその知識はどこで覚えたのよ……」
それについては、ノーコメントだ。
リーゼたちに言っても理解されないだろうしな。
「何はともあれ、今のリーゼの強さはよくわかったよ。
がんばったな」
「……フン。
急にほめたって嬉しくなんてないんだから……」
そっぽを向かれたが、頬の部分が少し赤くなっているのは隠せていない。
努力を誉められたのがイヤなわけではないようだ。
「そんな頑張り屋のリーゼにプレゼントだ」
俺はアイテム欄──虚空にしまった装備品から杖を1本取りだして、リーゼに渡した。
「これは……?」
「シトリー……元『魔王軍』の幹部が使っていた杖だ。
『魔鏡の杖』って名前でな、その杖に魔力を込めて魔法を使えば、その威力を高めてくれる効果がある。
これを使えば、さっきと同程度の威力でも、少なめの魔力で使えるぞ」
「そんな装備があるのね。
……呪われてたりしないわよね?」
「他の杖が弱く見えるっていうのが呪いと言えば呪いかもしれないが……
装備した者にバッドステータス……悪さをするものじゃないから安心してくれ」
「ふーん、そう……
元『魔王軍』の幹部が使ってたなら、強力な装備なのは間違いなさそうだし。
価値もあるのよね?」
「そうだな。
ちゃんとしたところに持っていけば、小さな国なら買えるんじゃないか?」
ブッ、とリーゼが噴き出した。
「国が買える!?
そ、そんな杖が……え、ええ?
なのに、あたしに?」
「うん、やるぞ」
「なんで平然として、そんなものをポンと渡せるのよ!?」
「ん?
だって、リーゼが強くなるのに必要だし、渡すさ」
「……アンタにとって、あたしはそれだけ重要ってこと?」
「そりゃあ、もちろん」
「っ!?
なんでアンタはそういうことをさらっと……!」
リーゼは杖を握りしめながら、耳まで真っ赤にしていた。
「しょ、しょうがないわね。
アンタがそこまで言うならもらってあげるわ」
「ああ、うまく使いこなしてくれ」
「当然でしょ。
あたしはアンタを倒すんだから。
すぐに見返してやるから覚悟して待ってなさいよね!」
いつもの調子に戻ったリーゼは、顔を真っ赤にしたまま、俺にそう宣言するのであった。
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※おまけ
リーゼ「そういえば……ルナに渡した指輪があるじゃない? あれの価値は?」
ミツキ「『プリエール・アノー』か? そうだな。関係者に渡せば、司教とか大司教待遇にはなるんじゃないか? 売りに出せば、豪邸を何棟か建てられると思うけど」
リーゼ「…………それってルナに伝えたの?」
ミツキ「いや、聞かれてないから、言ってないけど……?」
リーゼ「はぁ……誰かコイツに、物の価値とそれを渡す意味ってものを教えてくれないかしら」
ミツキ「???」
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