第82話 パーティメンバーと組手(ルナ編)
マイアといっしょに、ルナとリーゼのところへ戻ると、ルナが準備運動をしていた。
「次は私がいきます」
リーゼに視線で確認すると、「問題ないわ」とうなずいていたので、事前にふたりで順番を決めていたのだろう。
ルナがいつになくキリっとした顔をしている。
自信があるのかもしれない。
そんなルナの本日の装備はプレートを外した
ランページボアのものではなく、ホーンラビットの素材を使ったもので、見た目は丈の短いワンピースのように見える。
しかし、モンスターの素材を使っているだけあって、そこそこ防御力がある。
組手をやるには充分だろう。
武器は……
「木剣を貸してもらえますか?」
俺と同じで木剣を使うようだ。
バーラの武器屋で買い込んで来たので問題はない。
「いつもの剣と同じ、細身のやつでいいよな?」
アイテム欄という名の収納魔法を使い、何もない空間から木剣を取り出してルナに手渡した。
ルナは木剣を2、3回振って感触を確かめていたが……問題はなさそうだな。
「条件はマイアのときと同じだ。
どちらかが決定打を与える状況に持っていったら勝ち」
「勝敗の決め方は問題ありません。
提案なのですが……ちょっとした罰ゲームを追加しませんか?」
「罰ゲーム?」
「はい。
ありきたりですが……負けたほうが勝ったほうのお願いをひとつ聞く、というのはどうでしょうか?」
ふむ、やる気になるための条件としては悪くない。
でも、少し弱いな。
「構わないが……それなら、条件をひとつ追加だ」
「何でしょう?」
「俺はルナが聞けないようなお願いをする気はない。
そうだな……簡単な質問をするくらいにしよう。
だから変に力まないようにしてくれ」
むっ、とルナが唇を尖らせる。
「自分が勝ったときの縛りを追加するなんて……私には負けないと宣言しているようなものですよ?」
「もしそう思ったなら、俺を負かせるようにがんばってくれ」
「いいでしょう。
ミツキを本気にさせてあげます!!」
挑発というようなものでもなかったが、ルナはさらにやる気になったようだ。
持ってきていた小手と盾も追加で装備している。
それでいい。
全力を見せてもらおう。
マイアのときと同じく、5メートルくらい距離を取って、俺とルナは向かい合った。
「どっちもがんばれー!!」
少し離れたところで、すでに手合わせを終えたマイアが、手を振って応援している。
「…………」
その隣にいるリーゼは……じっと俺を見ているな。
いや、俺の動きを観察しているのか?
組手で俺に勝つために。
なんだかんだあって、リーゼにはエンプサに使った魔法を聞けてないんだよな。
魔法が何なのかわからないと、リーゼとの組手はかなり大変になりそうだ。
「ミツキ、準備はいいですか?」
おっと。
今はこの組手に集中だ。
ルナに本気を出させるようなことをしておいて、上の空では申し訳ない。
「いつでもいいぞ。
全力で来い」
「では」
ルナが地面を蹴った。
一直線に突っ込んでくる。
盾を体の前に突き出しての体当たりだ。
右手の木剣で受け止める。
ガツンと衝撃が腕から伝わってきたが、今のミツキのステータスなら、たやすくいなせる。
「はぁっ!」
そうはさせまいとルナが細身の木剣で、俺の顔を狙ってくるが……速さが足りないな。
左手でルナの木剣を弾いてみせた。
「どうした?
『
ルナが『
盾の体当たりをまともに受けた段階で、俺の体が宙を舞って勝負ありだ。
それをあえてしてこなかったのは、最初は自分の戦闘スタイルを見せたかったのかな?
「……小手調べです。
ええ、そうです……」
とのことらしいが、なんだか歯切れが悪い。
秘策がある……というわけでもなさそうだし。
何かあるのかもしれないが、まずは本気になってもらおう。
「それなら、こっちから行くぞ。
『ウインド・ウォール』」
風の壁を発生させる魔法をルナの盾にぶつける。
突然、発生した突風に、ルナの盾が左腕ごと、大きく弾かれる。
「っ!」
至近距離でできた完全な隙。
ルナが「しまった!」という顔をしている。
だけど、もう遅い。
このまま、額を打っておしまいだ。
「くっ!」
木剣を振り抜いた直後だった。
ルナの姿が視界から消えた。
「──え?」
どこに?
そんな考えるよりも早く、蜃気楼のような揺らぎのある赤い光が見え……俺は、剣を引き戻すとその場から飛びのいた。
一拍置いて、ドォンッ! と地面をたたき割るような衝撃が伝わってきた。
さっきまで俺がいた場所に、木剣を降り下ろすルナの姿があった。
顔には赤い文様のような光の筋を浮かび上がらせ、体からは赤い光を煙のように立ち上らせている。
『
俺が剣を降り下ろしたときに発現させ、体を低くして高速で移動したんだろう。
油断したつもりはなかったが、その瞬間がまったく見えなかった。
発現させるスピードが前よりも上がっているのは上々だ。
あとは、扱い切れているかどうか。
「アアアアアアア!!」
ルナが木剣を振り抜く。
俺はその軌道に木剣を合わせ……
カアンと木剣同士がぶつかって甲高い音が周囲に響いた。
「くっ!!」
速い!
なんとか一撃はそらせたが、このままだと押し切られる……!
「『アース・ウォール』!」
俺は魔法で地面から斜めに土の壁を生やし、それに掴まって、後方まで下がる。
すかさずルナが土の壁を蹴って追ってくるが、少しでも距離が取れれば大丈夫だ。
「『アクア・プリズン』!」
「……!」
魔法で2メートル四方の水の檻をルナの目の前に出現させるが、ルナはそれをやすやすと飛び越えた。
さすがに王都で使ったのと同じ魔法じゃ捕まってくれないか。
「アアアアアアア!!」
ルナの木剣が、俺の頭上へと降り下ろされる。
当たれば木剣といえど、頭蓋がスナック菓子のようになってしまうだろう。
「『ウインド・ブラスト』!」
風の魔法を自分に当てて、再び距離を取る。
そして、ルナが先ほどまで俺のいた場所に着地したのに合わせて、練術を構える。
繰り出すのは、『
「『
頭上に掲げた剣に風の力をまとわせ、突進した勢いのままに前方へと突き出す。
着地と同時に攻められたルナは、木剣で攻撃をガードするが、
「ぐぅっ!?」
衝撃に耐えきれず、後方に吹き飛んでいった。
「『
移動用の練術を発動させ、飛んでいったルナの背後に回り込む。
ルナは反撃しようと、木剣をかざし……手の中にあったはずの木剣がどこかに飛んでいってしまったのと、俺の姿が視界から消えたことで、動きを止めた。
「ほら、戻ってこい」
きょろきょろするルナの後頭部に、木剣をコツンとぶつけた。
その痛みで意識を取り戻した、というわけではないだろうが、ルナの体からは立ち上る赤い光は消え、こちらに振り返った顔からは文様もなくなっていた。
「……負けました」
ルナはうつむいて、自分の敗北を口にした。
「動きは悪くなかったぞ。
ちゃんと『
王都で相手をしたときよりも、強くなっているよ」
「……でも、ミツキには勝てませんでした」
おや……フォローしたのに、結構凹んでいるな。
まあ、『
「言っておくけど、まだ負けてやるつもりはないぞ。
いくら身体能力が高くても、動きが読まれれば、さっきの俺みたいにかわされるし、隙を突かれる。
せめて、『
「あの状態で練術を……私にできるでしょうか?」
「ルナならできる。
というか、ルナがそれをできるようになるために、俺がいる。
練習にも付き合うから、いっしょに強くなろう」
「ミツキ……
はいっ!
これからもよろしくお願いしますね!」
ルナの顔が明るくなった。
強さにどん欲な姿勢は、俺としてもとてもありがたい。
しっかりと鍛えていこう。
さて、本来ならここでおしまいだったが……ルナに関してはまだあるよな。
「それで、事前に追加した罰ゲームなんだけど……」
「そうでしたね。
では、なんなりとおっしゃってください。
ミツキが望むことなら、何でもやりますよ……!」
ルナは顔まで赤くして、何か強い決意をしているようだった。
「いや、質問をするだけって言ったよな……?
そんな意気込まなくても」
「では、何でも聞いてください!
私のことなら何でも……
し、下着の色だってお答えしますよ!?」
なんか空回りしているようだけど、そんなことは聞かないから安心してほしい。
あと、ルナには申し訳ないんだけど、下着の色は『ヴレイヴワールド』のキャラクターデザインを考えている際に何度も見てしまっている。
まあ、ゲームの設定とは若干ずれているところもあるので、この世界では違うかもしれないが……
いやいやいや、俺は何を考えているんだ。
……コホン。
「俺からの質問はひとつ。
組手で『
最初は、盾で戦う自分のスタイルを見せたいのだと思ったが、どうにも様子がおかしかったのが気になった。
他に理由があるなら、知っておきたい。
「…………それは、えっと……」
ルナが言いよどむ。
なんだろう?
そんなに言いにくいことなのか?
「理由があるなら、無理にとは言わないが」
「あ、いえ……そういうのではなくて……
ちょっと気になることがあって……
その……バーラでモンスターの群れと戦ったときのことなのですが……」
俺がシトリーとアンダイン泉で戦っていたときのことだな。
「あの日、2回目の『
「心臓に痛み……?」
「はい。
あまりにもひどい痛みだったので、先ほどは使うのをためらってしまいました……
すみません……ミツキは本気だったのに」
ルナは、宿題の手抜きを指摘された学生のようにうなだれていた。
いや、これにかんしては、ルナは悪くない。
「そういう理由があったのか。
俺のほうこそ、すまなかったな。
また痛い思いをするかもしれないのに、無理強いさせてしまって」
ルナが『
俺のコミュニケーション不足だな。
「ミツキは悪くありません!
私が報告しなかったのがいけないんです!」
「……わかった。
それじゃあ、お互いに悪かったってことにしよう」
そう伝えてもルナは不服そうにしていたが、それ以上の言葉はなかったので納得してくれたようだ。
しかしまあ、やってしまったな。
強い力だからと、ゲーム感覚でポンポン使わせていたが、強い痛みなどがあるなら使用を控えるべきだろう。
とはいえ、それを決めるにしてもまずは痛みの原因をはっきりさせる必要がある。
「その痛みだが……
発生のタイミングは、2回目の『
「はい。
そのときに、心臓に鋭い痛みが走りました。
もう二度と立ち上がれないくらいの痛みでした……」
「それほどか……
その痛みはどうやって収まったんだ?」
「ミツキのおかげです」
「ん?」
「ミツキがくれたこの指輪が光を発して、私を助けてくれました」
ルナは左手の人差し指に輝く『プリエール・アノー』を大事そうに見せてくれた。
『プリエール・アノー』には、装備している者の回復系の魔法を高める効果がある。
だけど、『
「役に立ったならよかったが……
それ以外には、何かやらなかったのか?
魔法を使ったとか」
「ヒールを自分にかけましたけど、効果はありませんでした」
「回復魔法は使った、か」
それなら、『プリエール・アノー』が、ルナのヒールを強化した可能性のほうが高いな。
『
『ヴレイヴワールド』の設定と照らし合わせて考えられるのは、
「『
「え、呪い……?
人ではなく、能力やスキルにも呪いってかけられるのですか?」
「あーいや、言い方が悪かった。
呪いの対象は、人だ。
しかし、その呪いが強くて、その人の子孫にまで、呪いが続くように引き継がれてしまったんだ」
「子孫にまで呪いが引き継がれる?
そんなことがあるのですね……」
「稀な例だけどな。
それで、ルナの話に戻るんだが……
ルナには『
「私に、呪いが……」
「ああ、先に言っておくとすぐにどうにかなるものじゃない。
『
『ヴレイヴワールド』では、『
その『動かなくなる』効果も魔法で和らげることができるので、実際に痛みを感じたルナが、回復魔法を使ったことで『動けなくなる』原因である『痛み』がある程度緩和される結果になったんだと思う。
ルナに『プリエール・アノー』を持たせたのは、「回復魔法を使えるし持たせておくかー」くらいの気持ちだったが、思った以上にいい効果を発揮してくれたようだ。
「また痛みが発生した場合には、自分に対してヒールを使ってほしい。
そうすれば、多少は痛みが和らぐはずだ」
「わかりました。
それで、念のため聞いておきたいのですが……
『
「うん、残念なことにな。
それだけ強い呪いなんだ」
『
『ヴレイヴワールド』では終盤で発生するイベントだが、この世界ではどうなることか……
「解呪じゃないけど、痛みを抑える効果は他にもある。
それまで『
「わかりました。
ですが、私たちに危機が迫ったときは、使いたいと思います」
「ああ。
その判断は任せるよ」
「はいっ!」
ルナなら発動のタイミングは見極めてくれるだろうから心配はない。
さて、やることは増えたが、早めに確認できてよかった。
「あ、そういえば……
ルナが勝った場合は、俺に何をさせるつもりだったんだ?」
なんとなくの疑問だったが、ルナは先ほどとは打って変わった茶目っ気たっぷりの笑顔になった。
そして、口の辺りに左手の人差し指を立てて、こう言った。
「内緒です♪
ふふふ……」
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