第81話 パーティメンバーと組手(マイア編)

 しっかりと休んだその翌日。


 元気になったルナたちを連れて、アンダイン泉へとやってきた。


 アイーダが「精霊と遊びたいのだ!」と言い出したというのもあるが、他の理由としてルナ、リーゼ、マイアの今のレベルを調べようと思ったからだ。


『堕天の魔塔』でレベル上げをしたあと、なんだかんだで彼女たちの実力を測る時間がなかったもんな。


 泉に着いた途端、竜神の姿になったアイーダは、早速水の中に飛び込んでいった。


 ぶれないやつだ。


 まあ、普段は人間の生活に合わせているので、ここなら思い切り羽を伸ばせるからなのかもしれない。


 さて、アイーダは勝手に遊ばせておくとして……俺たちは実力の把握だ。


 はかり方は簡単。


 俺と1対1で勝負をしてもらう。


 どちらかが決定打を与える状況に持っていったら終了。


 ケガはよくないからな。


「誰からやろうか?」


「はいはいはい!

 ボク、1番がいい!」


 マイアが元気に手を上げる。


 そんな彼女は、ショート丈のタンクトップにショートパンツに、革のシューズというラフな格好だった。


 健康的な肌がずいぶんと露出しているが、動きやすさを重視した結果なのだろう。


 命をかけて戦うわけではないので、防具がなくても問題はない。


 それに、この辺りのモンスターでは、今のマイアに傷一つつけられないだろうしな。


「私は構わないわ。

 リーゼは?」


「あたしも。

 お先にどーぞ」


「やったー!」


 ルナとリーゼに譲ってもらい、マイアは俺と5メートルくらい距離を取って向かい合った。


「本気でいいんだよね?」


「もちろん。

 俺も練術や魔法を使わせてもらう。

 それと木剣な」


「木剣でいいの?

 簡単にへし折っちゃうよ?」


「それは楽しみだな。

 俺もマイアをケガさせないように気をつけるよ。

 せっかく治ったのに、また寝込ませるのもかわいそうだからな」


「言ったなぁ!

 ボクが強くなったってこと、ミツキに教えてあげる!!

蒼流分身そうりゅうぶんしん』!」


 マイアが4体の分身を作り出す。


 言葉どおり、最初から全力のようだ。


 受けて立とう。


「突撃っ!!」


 マイアが分身と共に駆け出す。


 今のマイアなら5メートルなんて一瞬だ。


 なので、こちらもすぐに対応させてもらおう。


「『デザート・ストーム』!」


 体を中心にして、その周囲に渦を巻く砂嵐を発生させる。


 この砂嵐の効果範囲に近づいた者を上空に吹き飛ばすレベル3の風の魔法で、砂を大量に巻き上げるので目くらましにも使える。


 本気で周囲に展開すると、近距離の攻撃手段しか持たない者は、魔法の持続が切れるのを待つしかなくなる。


「わぁぁぁ──」


 と、砂塵の外側で、マイアの叫び声が聞こえて……途中で消えた。


 砂塵に近づきすぎたようだな。


 途中で叫び声が消えたところから察するに、分身のほうだろう。


 これで分身は残り3体。


 このまま砂嵐を維持しておけば、マイアとその分身は近づけないが……あまり時間をかけると、先に俺の魔力がなくなる。


 この魔法は持続力に難ありだからな……


 だから、わざと穴を用意しておく。


 俺から見て右手側に、人ひとりが通り抜けられる空間を用意しておく。


 マイアが気づくかどうか……


「ここだ!」


 かかった!


 マイアの分身の1体が、開けておいた空間から殴り掛かってくる。


 攻撃が来る場所がわかっていれば、対応は簡単。


 木剣で拳を逸らして、分身を周囲の砂塵に押しつける。


「うわぁぁ──」


 途中で分身が形を崩し、その体を水へと変えた。


 これで分身は残り2体。


 マイア本人ならともかく、練術で作りだした分身なら、練術なしでいける。


 もしもマイア本人が乗り込んできても、俺の周囲の砂嵐で打ち上げてしまえば決着はつく。


 さあ、マイア。


 どう攻めてくる?


「こんな渦くらい飛び越えてぇぇぇぇいやぁぁぁ──」


「…………」


 渦を飛び越そうとして失敗した分身が吹き飛んでいった。


 さすがに上に向かって風を巻き上げているのに、飛び越すのは無理だろう。


 残りは分身1体と、本体のみ。


 右の穴から来るのは、どちらが先か。


「むぅぅぅぅ!

 ミツキ、ずるいっ!!」


 右手側の穴から拳が飛んでくる。


 少し動きが遅いから、分身のほうだな。


 しかし、唇を尖らせている仕草とか、マイアそのものでちょっとびっくりだ。


 とはいえ、ずるいと言われようが勝負は勝負。


 勝たせてもらおう。


 俺は分身の拳を先ほどのように木剣でさばいて──


「やぁぁぁぁぁぁ!!」


「っ!?」


 真後ろから、マイアの声!?


 振り返ると、砂塵の中を少女の拳が突き抜けてきた!!


 嵐を吹き飛ばす拳って、マジか!?


 いや、それよりも距離を取らないと!


「『ウインド・ブラ──』」


「させない!」


 マイアの分身が俺を抱きしめて、さらに口を塞いでくる。


 くっ……魔法は名前をうまく発音しないと威力が下がる!


『ウインド・ブラスト』は発動したが、不発の風の魔法では、1メートル離れられただけ。


 その際の魔法でマイアの分身は消えたが、砂塵からはマイアが飛び出してきた。


「やぁぁぁっ!!」


「『アース・ウォール』!」


 ガガガンッという音ともに、マイアの拳が岩の壁が粉砕。


「くっ……」


 木剣で盾にしてようやく止まる。


「さすがミツキだね!

 さっきの攻撃で勝てると思ったんだけど、逃げ切るなんて!」


「こっちも驚いたぞ。

 分身を囮にして砂嵐の中を突っ切ってくるなんてな……」


 マイアの身体能力は、俺の予想を上回っていた。


 こんなに強くなっているなんて……


 そりゃあ、アグハトを一撃で戦闘不能にできるわけだ。


「じゃあ、俺も本当に本気でやらないとな!」


 マイアの拳を払って、練術を発動させる。


旋風翔裂斬せんぷうしょうれつざん


 風をまとった5連撃の剣技系の練術だ。


 最初の斬り下ろしの一閃が、マイアの肩を狙う。


旋風粉砕撃せんぷうふんさいげき!!」


 マイアも練術を発動させた。


 これは……旋風翔裂斬せんぷうしょうれつざんと同じく風をまとう練術で、5連撃の拳打だ。


 その技も扱えるようになってたんだな……

 

 ガンッ!!


 木剣と拳がぶつかり合い、鈍い音と共に、周囲に旋風を巻き起こす。


 練術同士のぶつかり合いでは、身体能力と練術の精度が物を言う。


 身体能力ではマイアが上だが、練術の精度では、動きをすべて記憶している俺のほうが上。


 木剣と拳という違いはあるが、威力は互角!


「うぉぉぉぉぉっ!!」


「やぁぁぁぁっ!!」


 互いに力を込めて3撃を撃ち込む。


 そして、最後の1撃。


 そのとき、俺の手から木剣がわずかに滑り、剣の腹がマイアのほうを向いた。


 わずかだが、勝負を決定づける隙だ。


「ここだぁ!!」


 最後の打ち合いで、俺の持っていた木剣は、柄の部分から上を打ち砕かれた。


 マイアの顔が緩むのが見えた。


 そのまま拳を突き出せば、俺の体に当たる。


 そうなれば、マイアの勝ちだ。


 ……ま、そうはさせないんだけどな。


 俺はその場で体を半回転させ、マイアに背を向ける姿勢になる。


 そして、すぐさま次の練術を発動させた。


「『背負い投げ』!」


 マイアの突き出された右腕を両手で掴み、その勢いを利用してマイアを思い切り放り投げた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ……アイテッ!」


 形的には一本背負いだが、うまく決まった。


 地面に叩きつけられたマイアの眼前に、折れた木剣を突きつける。


「はい。

 俺の勝ち」


「むぅぅぅぅぅぅぅぅ……負けたー!!」


 マイアは両手足をバタバタさせ始めた。


 悔しいのだろう。


「剣を滑らせたの、わざとだったの!?」


「まあな。

 マイアのことだから、剣を壊せるなら、最後まで練術を続けると思ったんだ。

 練術は最後まで出し切るのも大切だけど、さっきみたいに途中でやめて別の攻撃を仕込むことも覚えたほうがいいぞ」

 

「だって、あのままぶつかってたら、ボクの勝ちだったし……」


「それはそのとおりだ。

 真正面からマイアとぶつかれば、俺でも勝てたかわからない。

 それだけ、マイアは強くなったよ」


「えへへへ……」


「だから、次はもっとフェイントとか覚えような。

 そうすればもっと強くなるから」


「うん!」


 マイアの手を取って、立ち上がらせる。


「あ、あのさ、ミツキ……

 お願いがあるんだけど」


「なんだ、改まって?」


「木剣を折ったくらいじゃダメかもしれないけど……頑張ったから……その、頭、撫でてほしいな……なんて」


 なんだ、そんなことか。


「よくがんばったな」


 よしよし。


 マイアの頭を撫でる。


「えへへへ……押忍」


 照れたような笑顔を浮かべたマイアを、俺はしばらく撫で続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る