第70話 ゴーレムが守っていたもの
守護者ゴーレムに案内され、扉の奥へと進む。
そこは……
「わー……真っ暗。
何も見えないや……」
マイアの言ったとおり、1メートル先も見えなくなっていた。
地下だからな。
光源がなければ暗闇が広がるだけだ。
「明かりをつけマス」
守護者ゴーレムの声が聞こえたかと思うと、天井の辺りから白い光が広がっていった。
見えてきたのは、サッカーコート並みの広さの部屋と、その中央に鎮座する7体の大きな黒い石像だ。
石像の高さは3階建ての建物と同じくらいと、地下にある建造物としてはかなり巨大なものだ。
それが各々ポーズを取っているのを見ると、巨人の国に迷いこんだかのような気分になる。
「これって神の像?
エッダ教のものかしら?」
リーゼが顎に手を当て、像を見上げていた。
エッダ教というのは、『ヴレイヴワールド』に存在する架空の宗教だ。
200年前の勇者のパーティにも支援を行っており、今でも多くの人々に信仰されている……という設定だ。
リーゼの反応からすると、この世界でもエッダ教のイメージは変わらないようだな。
「この塔自体が聖域だったって話よね?
それでも地下に石像まで作るなんてね……」
「モンスターだらけになる前は、ここで祈りをささげていたのでしょう。
この指輪も、祈りの力がこもったものですし」
ルナは『プリエール・アノー』を眺めたあと、像へと視線を移した。
その横では、マイアも「ほへー、でっかー」と像を見上げてつぶやいている。
アイーダは……石像よりも守護者ゴーレムが気になるようだな。
マイアがルナを支えているからか、リーゼにしがみついたままだった。
「あんな像よりも、あの人形をもっと離すのだ!」
「うるさいわね……
そんなに離れたいなら、アンタだけ離れてればいいじゃない!」
「離れて襲われたらイヤなのだ!
早く用事をすませるのだ!」
「あーもー!
面倒くさいわね!」
抱きついてくるアイーダをリーゼが引きはがそうとしている。
姉妹のじゃれ合いを見ているみたいで、少しほっこりするな。
片方は竜神だけど。
さて、アイーダの肩を持つわけじゃないが、たしかにいつまでも石像を見ているわけにもいかない。
この祈りの場に来たのにはちゃんと理由がある。
「ルナ、守護者ゴーレムに『盾』を持ってくるように伝えてくれないか?」
「『盾』ですか?
わかりました」
ルナは守護者ゴーレムに向き直り、その旨を伝えた。
「かしこまりマシタ、マスター」
守護者ゴーレムは黒い像の1つに近づき、その足に触れた。
すると、守護者ゴーレムの腕が像の中に呑み込まれた。
「「「えっ!?」」」
3人が驚く間にも、守護者ゴーレムは何事もなかったかのように腕を引き抜き、こちらへと戻ってきた。
手には、お盆くらいのサイズの黒い盾を持っている。
「マスター、こちらデス」
「あ、ありがとう」
ルナは盾へと手を伸ばし……盾の黒い部分が触手のように伸びてきたため、慌てて手を引っ込めた。
「なんですか、これ!?」
盾から伸びた数本の黒い光の触手は、うねうねと、まるで絡め取る者を探すようにうごめいていた。
「それは呪いだな」
俺はうねうねの正体を伝えた。
「呪い……!
これが……!?」
「けど、アグハトの腕の呪いと全然違うじゃない」
「うん。
なんていうか、すごく生き物みたい……」
ルナに続いてリーゼとマイアも、警戒しながら盾から伸びる触手を見ている。
ちなみにこの触手、守護者ゴーレムのほうにも伸びているが、守護者ゴーレムは特に気にした様子はない。
低レベルの呪いだからだろう。
感知できていないだけかもしれないが。
「まあ、アグハトの呪いとは種類が違うからな。
そいつは他者に呪いを移すことだけに特化しているんだ。
肝心の呪いの効果は、黒い影みたいなのがくっついて疲労感が強くなるとか、そんなものだけどな。
この盾くらいならすぐに解呪できる。
ルナ、やってみてくれ」
「え?
……できるのでしょうか?」
「やれるさ。
レベルは上がってるんだからな。
魔法の名前はわかるか?」
「……なんとなく。
やってみます!」
ルナはマイアに体を預けたまま、『プリエール・アノー』のはめられた左手をゆっくりと黒い触手に伸ばした。
「『
『プリエール・アノー』がきらめき、解呪の白光のエフェクトが盾全体に広がる。
ルナに向かって伸びていた触手は、苦しむようにたわんだが、すぐに塵となって消滅してしまった。
解呪が終わったそこには、白銀に輝く盾が残されていた。
「成功だ。
解呪の魔法習得だな」
「ありがとうございます……!」
ルナは『プリエール・アノー』の感触を確かめ、柔らかく微笑んでいた。
「それじゃあ、あの盾を戻すように言ってくれるか?」
「はい。
守護者ゴーレムさん、盾を元の場所にお願いします」
「承知しまシタ、マスター」
守護者ゴーレムは盾を持って黒い像に近づき、引き出したときと同じように、腕を像の中に入れた。
その直後だった。
黒い像から白銀の光が放たれ、まるで金属の表面のメッキをはがすように、像の黒くなっている部分を弾き飛ばした。
その中から現れたのは──盾と同じ、白銀の像だった。
うん、どうやらうまくいったみたいだな。
「もしかして像の黒い部分って、全部呪いなの?」
「そのとおり。
核となる祭具が呪いに浸蝕されたせいで、黒くなってるんだ」
「それじゃあ、他の像も……?」
「同じだ。
でも、今の俺たちのレベルじゃあどうしようもない」
ここに安置された像は、キャラクターのレベルが上がるごとに解呪ができる仕組みになっている。
そして、すべて解呪することでイベントが発生するのだが……
それはまだ先の話だな。
ともあれ、『堕天の魔塔』の攻略は、これで一旦おしまいだ。
「みんな、お疲れ様。
それじゃあ、そろそろ帰ろうか」
こうして俺たちは『堕天の魔塔』から去ることになったのだった。
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