第69話 マスターの仮登録

 ゴーレムが完全に動かなくなったのを見て、俺は剣を下ろした。


 剣で攻撃した胸部にはわずかな凹みができている。


 今のレベルでこのゴーレムの装甲を傷つけられたと考えるべきか、あれだけやってこのくらいしか傷つかないのか……


 うん、前者だな。


 このレベルだと破壊不能といってもいい相手だったし。


 扉の守護者じゃなくて、もっと攻撃的なゴーレムだったらやられていただろう。


 そのあたりの設定も覚えていてよかった。


「はぁはぁ……」


凶神の使徒バーサーカー』の状態を解除したルナは、肩で息をしていた。


「大丈夫か?」


「はい……

 でも10階での修行と同じくらい疲れました……」


 ルナは足を生まれたての小鹿のように震わせていた。


 相当疲労がたまっているようだ。


 ワイバーンと戦ったときと違って、破壊行為だけをしていればいいわけじゃなかったからな。


「もー、ルナはもっと甘えるべきだと思うよ。

 ほら!」


 やってきたマイアがルナに肩を貸す。


「ありがとう……」


「どういたしまして!

 それでミツキ、その子はどうなっちゃったの?」


 その子……ああ、ゴーレムのことか。


「指揮系統の不具合が治ったから、今は再起動の準備をしているところだな」


「さいきどう?」


「もう一度動き出すってことだな」


「へー。

 またちゃんと動くようになるんだー」


「──また動き出すだと!?

 そうなる前に破壊するのだ!!」


 アイーダも近くにやってきた。


 いっしょに来たリーゼの背後に隠れながら。


「そいつは、我を倒せるやつなのだ!

 だから、今のうちに粉々にしておくのだ!」


「はいはい。

 そこまで言うなら、自分でやりなさいよね」


「や、やめろ!

 我を前に出そうとするな!

 そのゴーレムに近づけるな!」


 後ろを取って押し出そうとするリーゼに、アイーダが抵抗している。


 はははは。


 いつの間にかこのふたりも仲良くなったようだな。


「心配することはないぞ。

 悪い部分は治したから、もう襲ってこない」


「本当か!?

 本当なのだな!?

 信じるぞ!?」


「アンタ、竜神のくせしてどれだけ心配性なのよ……」


「怖いのに、竜神は関係なのだ!!」


「────ピピピッ」


 そうこう言っているうちに、人の目に該当する部分に、白い光が灯った。


「聖職者を認識──

 管理者の仮登録をお願いシマス──」


 お、どうやらちゃんと動くようになったらしい。


 言葉は片言のようだが、『ヴレイヴワールド』ではそういう設定だったので、こちらの世界でも同じなのだろう。


「……どういうことですか?」


「要する、新しい主人になってくれませんか?

 ってことだな。

 そういうわけで、ルナ、よろしく」


「え?

 私ですか?」


「ああ。

『プリエール・アノー』……ルナに渡した指輪をつけて『回復魔法ヒール』を使わないと、登録できないんだ」


 このゴーレムは、回復魔法や状態異常回復魔法の有無で聖職者のキャラクターを登録できるように設計されている。


 たとえ僧侶系のキャラクターであっても、回復系の魔法が使えなければ登録できない仕組みだ。


「……わかりました。

 えっと──」


「頭部へ身体の一部を接触させてクダサイ──」


「こ、こう?」


 ゴーレムに促され、ルナがゴーレムの頭部に手を乗せた。


「身体組成──登録。

 魔力波長──登録。

 お名前を口頭で願いマス──」


「ルナ。

 ルナ・アリアンフロド」


「ルナ・アリアンフロド様──認識。

 ルナ様をワタクシの新たなマスターとして仮登録いたしマシタ。

 ご命令を」


 ゴーレムが胸に手を当てて、膝をついた。


「ミツキ、これでいいんですか?」


「問題ない。

 それじゃあ、この扉を開けるように言ってくれるか?」


「はい。

 えーっと、守護者ゴーレム……さん?」


「お好きなようにお呼びクダサイ」


「では、守護者ゴーレムさん。

 この目の前の大きな扉を開けてください」


「かしこまりマシタ」


 守護者ゴーレムは立ち上がり、扉に向き直った。


 そして、目元を様々な色に明滅させると、壁一面に設置されている巨大な扉が重たい音ともに開いた。


「「おおおおおおおお……!」」


 マイアとアイーダが驚いたような扉を見上げていた。


「ご案内は必要でしょうカ?」


「お願いします」


「では、どうぞこちらへ」


 俺たちは、守護者ゴーレムと共に巨大な扉の奥へと進むことになった。

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