第68話 ゴーレムを止める

 まずは、俺がゴーレムに攻撃を仕掛けた。


「『ストーム・バレット』」


 風魔法の銃弾を3発、ゴーレムの頭部に向けて発射する。


 カカカンッ!


 ゴーレムは逃げる素振りを見せず、額で魔法を受けた。


 頭部がわずかにノックバックする。


 ダメージは……なさそうだな。


「やぁぁぁぁぁっ!」


 そこへすかさずマイアが殴り掛かった。


 ゴーレムは動きを察知して後退。


「『蒼流分身そうりゅうぶんしん』!!」


 マイアが4体の分身を生み出して、追撃させる。


 殺到する分身に、ゴーレムは腕を薙ぎ払う。


 パッシャンッ!!


 分身はすべて水となり、ゴーレムに降りかかった。


「ミツキ!!」


 マイアが何かしてほしそうにこちらを見ている。


 水、動きを止める……


 俺はそれを察して、魔法を発動させた。


「『アイス・ブロック』、『ウインド・ブラスト』!!」


 左手で生み出した氷を、右手で発生させた突風の魔法で砕いて、ゴーレムに吹きつける!


 冷却された突風は、ゴーレムにかかった水を凍てつかせた。


 これなら、多少は動きが……


 パリンッ!!


 ダメだ。


 威力が足りない。

 

 ゴーレムは完全に凍る前に脱出しようとしている。


 2人でやれるだけやってみたが、厳しいか……


「『イグニス・ファトゥス・カルケル』!」


 そのとき、魔力を練ったリーゼが後方から魔法を発動させた。


 ゴーレムの周囲に、無数の青白い炎の球が出現。


 直後、ゴーレムを中心に円周上に高速で回転しながら、距離を詰め、ゴーレムを炎の環で捕縛した。


 以前、ルナの修行に付き合ったときよりも、出現から捕縛までのスピードが格段に速くなっている。


 新しい魔法以外でも成長しているようだな。


「────!」


 ゴーレムはその拘束を解くためにもがいている。


『イグニス・ファトゥス・カルケル』は強力な拘束魔法だが、このゴーレム相手には数秒しか持ちこたえられないだろう。


 だか、その数秒があれば、充分だった。


「アァァァァァァァ!!」


 ルナが、『凶神の使徒バーサーカー』の赤い光をまといながら、ゴーレムに急接近し、手を伸ばす。


 ゴーレムが拘束を破ったのと、ルナの手がゴーレムの頭部に触れたのは同時だった。


「『回復魔法ヒール』!!」


「────!!!」


 回復魔法のエフェクトがゴーレムの全身を包みこむ。


 ゴーレムは、しびれたように小さな体躯を震わせる。


「おおっ、やったー!!」


 マイアが成功を確信するように飛び上がる。


 だけど、ちょっと早い。


 そのフラグっぽいセリフもそうだけど、ゴーレムはまだ完全に動きを止めていない。


「ルナ、下がれ!」


「……!」


 俺の声に反応して、ルナがゴーレムから距離を取る。


 シュインッ!!


 今までルナがいた場所には、ゴーレムの鋭い腕部が通り過ぎていった。


 当たっていたらルナの上半身と下半身が分かれていたな……


「どうして!?

 ルナの『回復魔法ヒール』は当たってたんじゃ……」


「たぶん1度で回復しなかったんだ」


『プリエール・アノー』──10階で手に入れた指輪の回復魔法を高める効果があっても、ルナ本人のレベルが足りておらず、『回復魔法ヒール』の回復量がそこまで上がっていなかったのだろう。


「……すみません」


 ルナが申し訳なさそうにしているが、そんなふうに思わないでほしい。


「いや、上出来だ。

凶神の使徒バーサーカー』状態で、ちゃんと意識があって、『回復魔法ヒール』の対象も選べただろう?

 本来なら攻略できない相手を、追い込めているのもルナのおかげだ。

 だから、誇っていいくらいだ」


「はい。

 ありがとうございます……」


 ルナがちょっとほっとしたような顔になっている。


 よかった。


 だが、『凶神の使徒バーサーカー』の状態を維持するのは、やはりきついらしく、大粒の汗が顎から滴り落ちている。


 早く決着をつけないとな。


「きついと思うけど、もうひと踏ん張りだ。

 頼むぞ」


「はいっ!」


 いい返事だ。


 それじゃあ、ゴーレムを……


「────!!」


「うおっ!?」


 ゴーレムが目の前に!


 回復魔法を受けてからの復帰が早い。


 いや、それよりも……積極的に『人』を狙って来たな。


 今までは竜神のアイーダに対して攻撃的なだけで、俺たちの攻撃はかわすだけだったのに。


 周りの者をすべて排除するモードに切り替えられたか。


「ミツキ!!」


「大丈夫!」


 ゴーレムの鋭い突きを剣で弾きながら、3人に伝える。


「下がってくれ!

 止めるのは、俺がやる!!」


 ゴーレムのもう片方の腕を動く。


 明らかに俺をしとめようとしている。


 だが、好都合だ。


 これで、カウンターが使える!


「『流水円舞りゅうすいえんぶ蒼閃そうせん』!!」


 ゴーレムの腕部での突きを、水の力が乗った剣でいなし、反撃の一撃を浴びせる。


 カキンッ!!


「────!」


 剣はゴーレムの装甲の表面をなぞっただけだったが、ゴーレムは危険だと判断したのか、飛び退った。


 その着地に合わせて、魔法を発動させる。


「『ストーム・バレット』!」


 5発の風の銃弾を発射。


 これ自体に威力はないのはわかっている。


 だが、当たればゴーレムでもわずかにのけぞる。


 だから狙いを、ゴーレムの足に集中させた。


 カカカカカン!


「────ッ!」


 バランスを取ろうとした足が滑り、ゴーレムが前のめりに倒れる。


 すかさず剣を構えて、魔法を発動させる。


「『ウインド・ブラスト』!」


 後方に突風を生み出し、ゴーレムに急接近。


 起きながら飛び退ろうとしたゴーレムに、練術で追撃した。


「『疾風一穿しっぷういっせん』!!」


 剣先が、ゴーレムの胸部を捉える。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 突風の魔法と練術の加速。


 剣先にすべての力を収束させて、ゴーレムを背後の巨大な扉へと叩きつけた。


「──ガッ!!」


 ゴーレムの口から人の声のような音が漏れる。


 少ないが、ダメージは入ったか。


「ルナ、今だ!!」


「はいっ!」


凶神の使徒バーサーカー』の身体能力で加速したルナが近づき、


「『回復魔法ヒール』!!」


 ゴーレムに再び回復魔法をかける。


「────……」


 回復のエフェクトがゴーレムを包み込み……


 そして、今度こそ、ゴーレムは動きを止めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る