第67話 魔塔のゴーレム

『堕天の魔塔』地下4階。


 俗に言うボス部屋に現れたのは、黒いゴーレムだった。


 クリスタルを人型に変形させたかのような角ばったフォルム。


 背丈は、人の姿のアイーダと同じくらい。


 これまでの階層に出現していた『ワンダーゴーレム』よりもかなり小さく細い。


 しかし、間違いない。


 あのゴーレムこそ、『堕天の魔塔』の門番だ。


『…………』


 ゴーレムは俺たちを認識したのか、凹凸のない仮面のような顔をこちらに向けた。


 その直後。


 アイーダの目の前に、ゴーレムは立っていた。


「「「「…………!」」」」


 速すぎる!


「ぬわぁぁっ!?」


 唯一反応できたアイーダは、ランスのような形状をした右腕部の突きを左手で弾く。


 そして、カウンター気味に右手でデコピンをお見舞いした。


 カァァンッ!!


 甲高い音が響く。


 が、吹き飛んでいない!


 この塔のモンスターならばもれなく粉砕する威力なのに。


「かたっ!?

 なんなのだ、コイツは!?」


 その一撃で、ゴーレムは完全にアイーダを敵と認識したのだろう。


 先端のとがった腕で再び攻撃しようとする。


 いつもなら放っておくところだが、今の一連の流れを見るとまずそうだ。


「『旋風翔裂斬せんぷうしょうれつざん』!!」


「『疾風正拳突しっぷうせいけんづき』!!」


 俺とマイアが、風の力を宿した練術でゴーレムを攻撃する。


「────」


 しかし俺の5連撃の剣閃はすべてかわされ、マイアの素早い突きも捉えることができなかった。


 速い。


 が、アイーダからは離れた。


 今なら、誰も巻き込まずにリーゼの魔法が使える。


「『ストーム・カーテン』!!」


 リーゼが風の魔法を発動させる。


 やわらかそうな名称だが、やっていることは、嵐を込めた風の魔法をカーテンのような広い面積に隙間なくぶつけるというもの。


 カカカカカカカン!


 小気味の良い音とともに、ゴーレムが風の力で後退していく。


 しかし、その装甲にはかすり傷もついていなかった。


「噓でしょ!?

 上にいた連中なら、今ごろバラバラよ!」


「そういう相手だ。

 気を抜くなよ。」


 杖を構えるリーゼに警戒させつつ、この戦闘を終わらせる方法を考える。


 この戦闘の要はアイーダの高耐久……だったのだが、


「ううううう……」


 アイーダは涙目でマイアの腰にしがみついていた。


 マイアは「大丈夫だよー」とアイーダを安心させるように頭を撫でている。


 竜神のアイーダのほうが、マイアよりも攻撃力も防御力も上なんだけどな……


 俺のときもそうだったが、アイーダは致命傷を負わせてくる相手には、かなり及び腰になるみたいだな。


 となると、俺たち『グレイスウインド』のメンバーだけでどうにかするしかない。


「ルナ、いけるか?」


「はい。

 しかし、『凶神の使徒バーサーカー』でも、アイーダさんの攻撃が効かない相手には……」


「心配するな。

 倒す必要はない」


「どういうことですか?」


「ある魔法を何回か当てればあのゴーレムは動けなくなる」


「そうなんですね。

 それでその魔法とは?」


「『回復魔法ヒール』だよ」


「「「「ヒール!?」」」」


 4人全員が驚いた。


「あのゴーレムはモンスターと戦いすぎて、調子が悪くなっている部分があるんだ」


「なるほど……だから、『回復魔法ヒール』で直すわけですね」


「ああ。

 機能が回復すれば、人を認識して、動きを止める」


「わかりました。

 やってみます!」


 ルナの体から赤い光が、煙のように立ち上る。


「アァァァァァァァッ!!」


凶神の使徒バーサーカー』だ。


 ルナの身体能力が2倍になる。


 ゴーレムの動きを鈍らせれば、確実に魔法を当ててくれるだろう。


「マイア、行くぞ。

 接近戦で引きつける」


「うんっ!」


「リーゼは機会を見て足止めの魔法を」


「難しいことをさらっと言ってくれるわね……

 ま、やってみせるけど」


「アイーダは……リーゼの傍にいてくれ」


「わかったのだ!」


 3人にやってもらいたいことを伝え、俺も剣を抜いてマイアと一緒にゴーレムに接近した。


「ルナ、聞こえているな。

 俺たちが動きを止めたあとに、ヒールを頼む!」


「はいっ!」


 返事が来る。


 意識は保てているようだな。


「それじゃあ、やってやろうじゃない!」

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