第66話 地下の最深部へ

『堕天の魔塔』の地下一階は、序盤モンスターの巣窟といってもいいダンジョンだ。


 塔の10階に登場するモンスターだけでなく、ランページボアやトレントなどの最初の街の近くに現れるモンスターも登場する。


 しかも、大量に。


 今も、10体を超えるモンスターの群れに遭遇していた。


「『碧裂分身へきれつぶんしん』!!」


 マイアが分身を4体生み出す。


「行って!」


 自分のそっくりの分身をモンスターの群れに突撃させた。


 分身はモンスターを殴りつけ、それに苛立ったモンスターが反撃し……攻撃を受けた分身が風船のように破裂していく。


 分身が割れた場所にはつむじ風が吹き荒れ、まるでかまいたちにでも襲われたかのような鋭利な傷をモンスターたちの体に刻み込んだ。


碧裂分身へきれつぶんしん』。


 風の力を封じ込めた分身で、対象にぶつかると、内包していた風の力で敵を攻撃する練術だ。


紅蓮分身ぐれんぶんしん』や『蒼流分身そうりゅうぶんしん』の風属性バージョンだな。


 マイアが言っていた新しい技だろう。


 しかし、分身の風だけでは威力が足りない。


「リーゼ!」


「任せなさい!

『ヘル・ストーム・プリズン』!!」


 分身の破裂で生まれた隙に、リーゼが魔法を発動させる。


 4陣の竜巻がモンスターを取り囲むように出現し、徐々にその囲いを狭めていく。


「『ツイスト』!」


 リーゼが伸ばした手で拳を作ると、4陣の竜巻はモンスター目掛けて突撃し、大きな1つの竜巻へと変化。


 モンスターの群れを呑み込んで風の力で切り刻んだ。


 竜巻が収まると……


 群れのモンスターたちが倒れていた。


「「イエーイ!!」」


 マイアとリーゼが互いの手を叩く。


「うまくいったね!」


「当然じゃない!

 あたしに使いこなせない魔法はないわ!!」


 ふむ……戦闘を2人に任せてみたが、問題なさそうだ。


 練術の精度と魔法の威力……2人ともかなりレベルが上がっている。


 倒したモンスターの素材は……うん、持って帰れそうにないけど、まあ、それは仕方ない。


「むぅ……」


 ふたりの戦いを見ていたルナは、少し不満そうだな……


 自分も積極的に戦いたい。


 もしくは覚えた魔法や練術などを使いたいってところだろう。


 まぁ、パーティの背後を見てもらっているので、戦闘にほとんど参加できていないからな。


 それにも理由があるのだが……ふむ、ちゃんと伝えておいたほうがいいな。


「ルナの出番はちゃんとあるよ。

 今は後方の守りを頼む」


「……わかりました。

 私は私の役目を果たします」


 頷いてくれた。


「ああ。

 リーダー、頼りにしてるよ」


「はい!」


 ルナを頼りにしているのは本当だ。


 というのも、『堕天の魔塔』を攻略できるかどうかは、最後はルナの力にかかっている。


 そして、そこでうまくいけば、ルナは今とは比べないものにならないほどレベルアップするだろう。


 なので、攻略は俺とマイアとリーゼ、それにアイーダに任せておいてほしい。


 アイーダもさっきからずっとデコピンの素振りをしてやる気を見せているからな。


 


 そこからの攻略は、ルナを除いた4人で主に進めていった。


 不意打ちには、アイーダに体を張って対処してもらい、モンスターとの距離がある場合は、リーゼが風の魔法でけん制して、俺とマイアの練術で仕留めた。


 そうして、先へ進んで……たどり着いた地下4階。


 ここが『堕天の魔塔』の最深部だ。


 最深部は、曲道などはない。


 地下とは思えないほどの広さの空間があり、その奥に高さ5メートルの扉が存在するだけ。


 ゲームでは、こういう場所の部屋をなんというか、知っている人も多いだろう。


『ボス部屋』だ。


 そして、そのボスが姿を見せる。


 そのときだった。


 アイーダが叫んだ。


「おい!

 アイツ、我を倒せるくらい強くないか!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る