第65話 塔の地下へ

『堕天の魔塔』の地下1階に進んでいくと、手洗い歓迎が待っていた。


『ワンダーゴーレム』が3体。


 その影に隠れるように『アイシーシャドー』が6体。


 さらに後方には『ホールドローカス』の群れが控えている。


「いきなりね……」


 リーゼが苦々しい顔をしていた。


 ルナとマイアも同じような感じだ。


 様子見をしようとしたら、いきなり本番がやってきたようなものだからな。


「なぁ、デコピンしていいか?」


 そんな3人とは打って変わって、アイーダ嬉しそうな顔ですでに素振りをしていた。


 まとめて倒すには、それが1番だろう。


 しかし、それには待ったをかける。


「こいつらは俺がやるよ。

 あんまりアイーダに頼ってばかりだと、レベルが上がらないからな」


 剣を取り出す。


 使う練術は決めてある。


 と、その前に……


「『ストーム・バレット』!」


 左手で銃のような形を作って嵐を込めた弾丸をモンスターの群れに打ち込む。


『ワンダーゴーレム』に弾かれるが……よし、うまく通路に一直線で並べることができた。


「行ってくる。

 倒し損ねた分のフォローは任せた」


 3人にそう伝えて、風の魔法『ウインド・ブラスト』を体の後方に向けて発動。


 突風の力で、俺の体が急加速する。


 『ワンダーゴーレム』に接近。


「『疾風一穿しっぷういっせん』!!」


 頭の上に掲げた剣を前方へと突き出す剣技の練術。


 魔法で得た加速分をプラスして、モンスターの群れの先頭にいた『ワンダーゴーレム』の胴体を剣先で突いた。


 接触した部分から強烈なうねる突風が発生。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 それを押し込む!


 突進の力も相まって、剣を中心にして竜巻のような暴風が吹き荒れた。


 風の効果が追加された剣が『ワンダーゴーレム』の核である胸部の宝石を貫く。


 その後ろにいた2体のゴーレムも核ごと胴体を貫き、『アイシーシャドー』は練術の風で吹き散らし、『ホールドローカス』の胸を切り刻み、貫いた。


 モンスターの群れを突き抜け、暴風をまとった一閃は、突き当たりの壁に剣先をぶつかった。


 キュイイィィ……という音と共に風が収まる。


「ふぅ……」


 振り返ると、風の魔法と練術で貫かれたあとに切り刻まれたモンスターたちが転がっていた。


 まだかろうじて息のあるモンスターもいるだろうが、反撃はできないくらいにはなっている。


 悪くない威力だ。


疾風一穿しっぷういっせん』は、1つの動作で行える風の力をまとった練術だが、キャラクターのレベルの上昇に合わせて解禁される技のため、初めから使える練術よりも威力が高く設定されている。


 さっきのはそれに魔法による突進を加えたから、一瞬でモンスターの群れを倒すことができた。


 一撃で群れを粉砕して爽快!


 ──というところだが、こんな芸当ができるのは、狭い通路内での戦闘で、なおかつ対象が一直線に並んでいるときだけだ。


 この『疾風一穿しっぷういっせん』は、魔法を抜きにしても結構な距離と勢いで突進しないと剣技の練術としての威力が出ないため、反撃をもらいやすい。


 相手を確実に倒せたり、仲間がいる場面でないと使えないな。


「さすがはミツキですね。

 あの数を一撃なんて……」


 ルナと、アイーダが転がっているモンスターの群れをかき分けて近づいて来た。


 マイアとリーゼは……まだちょっと動いているモンスターにとどめを刺しているな。


 感謝だ。


 使えそうな素材ははぎ取ってくれていいからな。


「うむ。

 我のデコピンくらいはあったのだ!」


 アイーダは、ほめているのだろうか?


 いや、竜神の攻撃力を序盤の剣で再現できるなら、すごいのか。


 デコピンだけど。


「ありがとう。

 だけど、これが使えるのは、ここだけだろうな……」


『堕天の魔塔』の地下一階は、入ってすぐが長い廊下になっている。


 だからこの練術もその威力を発揮したわけだが、ここからは曲がり角が多い地下のダンジョンだ。


 そこでの戦闘に適した練術や魔法を使っていくことになるだろう。


「基本的には、10階部分を攻略したときと同じ感じで進むぞ」


「でも、風系の魔法や練術以外はやめたほうがいいでしょ?

 地下だし」


 リーゼがモンスターにとどめを刺し終えて寄ってきた。


 モンスターからは……ゴーレムから宝石が採れたくらいのようだ。


 やっぱり風の魔法や練術は素材集めに適していないな。


 とはいえ、リーゼが懸念しているように、風の魔法や練術がここでは適しているだろう。


「あ、そっか。

 炎で燃やすと煙が出るし、水は溺れちゃう。

 土は地形変えちゃうかもだもんね」


 マイアもやってきた。


 こちらは……使えそうな素材は手に入らなかったようだ。


 すまない。


「隊列を変えますか?」


 ルナの提案に俺は首を横に振る。


「いや、アイーダを前にして、俺とマイアとリーゼがその後ろでアタッカーをやるのは変わらない。

 ルナには、引き続きパーティの背後を見ていてほしい」


「わかりました」


「我はやはり盾なのだな?」


 アイーダが少し不満そうにしているが、デコピンを解放したので膨れたりはしていなかった。


「ああ。

 重要な役目だから任せたぞ。

 わかっていると思うけど、ここで竜の姿になったり、ブレスを吐いたりするなよ」


「当たり前なのだ。

 我とて、生き埋めや水没はイヤなのだ!」


「なら、よし」


 ルナとアイーダは、今まであまり変わらない戦い方だからいいとして、リーゼとマイアにはどうすべきか伝えておこう。


「リーゼは炎の魔法を使わないようにな。

 ただ、命の危険が迫った時は、気にせずバンバンつかってほしい」


「フン。

 甘く見ないでよね。

 あたしが扱えるのは炎だけじゃないの。

 前よりも強くなっているところを見せてあげるわ!」


 それは頼もしい。


 実際に、リーゼは炎の魔法以外もレベルアップで覚えただろうし、ここで見せてもらおう。


 そして、マイアだが……


「わかってる!

『紅蓮分身』と『蒼流分身』はやめておくよ!」


「いや、『蒼流分身』は大丈夫だぞ。

 あの分身に使われる水の量は少ないからな」


「そう?

 でも、新しい技を思いついたから、そっちを使うよ!」


 マイアもレベルが上がって使える練術が増えたようだ。


 地下の狭い場所ということもあって、接近戦に強いマイアはこの攻略の要といっても過言ではない。


「そうか。

 頼りにしてるぞ」


「うん!

 がんばっちゃうよぉ!」


 マイアが拳を振り上げる。


 士気は高いようだ。


 では、攻略を続けよう。

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