第63話 祈りの力が宿る指輪

 アイーダのデコピンにより、『堕天の魔塔』10階の主要な通路にいたモンスターは一掃されてしまったが、それでもまだ他の通路には多数のモンスターが残っていた。


 不意の攻撃などを警戒して、10階層に存在する、ある部屋を目指す。


 フロアのマップは俺の頭に入っているので迷うことはない。


 モンスターと戦闘を数回こなしたあと、目的の部屋を見つけた。


 その入口に擬態していた『クライミング・グラトニーローズ』をツルごと焼き払い、中へと入る。


 部屋の中央には、手で持てる大きさの宝箱があった。


「んー?

 塔の中はボロボロなのに、あの宝箱だけキレイだね?」


「劣化を抑える魔法と、モンスターを近寄らせない魔法がかかっているからな」


 マイアの素朴な疑問に答えつつ、宝箱に近づく。


「確かに、妙な魔力が宿っているのだ……」


「あたしの知らない魔法ね……」


「箱に装飾がないのも、何か関係しているのですか?」


 アイーダ、リーゼ、ルナも興味を持ったようだ。


「箱自体にそれほどの力はないぞ。

 あくまで重要なのは、中身だ」


 俺はゆっくりと箱を開ける。


 中にあるのは、指輪だ。


 しかし、ただの指輪ではない。

 

 ダイヤモンドやオリハルコンなどとはまた違う、白く輝く宝石がはめ込まれている。


 それを見たアイーダは驚いたような声を出した。


「これはまさか……神聖系の力が宿った魔石か!」


「正解」


 さすがは竜神のアイーダ。


 宝石が発する魔力から、何の力が宿っているのか気づいたようだな。


 俺は、宝箱から指輪を取り出した。


 指輪の宝石からは、独特な白い光が放たれ続けている。


『ヴレイヴワールド』のものと、光の色とエフェクトが同じなところが感慨深い……


 この色を出すのに、苦労したんだよなー。


「これが、魔石?

 魔石って、強い魔力が固まったっていう、あの魔石だよね?」


 おっと、開発の思い出に浸っている場合じゃなかった。


 マイアたちにも教えてやらないと。


「そうだ。

 その魔石だけど……生み出される方法は知っているか?」


「え、えーっと……」


「魔石は、魔力が長い間一か所に留まっていると、それが固まってできると言われているわ。

 特別な地形か、もしくは魔力の高い魔物の体内に生成されることが多いのよね」


「さすがリーゼだな。

 そのとおりだ」


「ふふんっ。

 このくらい知ってて当然よ」


「ボ、ボクだって、そのくらい知ってたよ!」


 誇らしげなリーゼに、マイアが膨れて反論していた。


 話を続けよう。


「魔石は、基本的には属性のない魔力の塊だが、まれに、属性が付与されている場合がある」


「魔力にも属性があるということですか?」


「いいや、魔力自体は無属性だ。

 だけど、魔法を使用する際には属性を帯びる。

 たとえば、炎の魔法や、魔力によって引き起こされた炎に関連する自然現象が多く観測される場所──火山なんかでは、炎の魔石が採れやすい」


 ルナの質問に、俺は『ヴレイヴワールド』の設定を思い出しつつ、答える。


 世界の管理者である『竜神』のアイーダが、頷いているので間違ってはいないのだろう。

 

 そのアイーダが口を開く。


「魔石は基本的に魔力の溜まる場所にできるが、属性のついた魔石はさらに特定の条件が必要なのでな、より希少価値が高まるのだ」


「……アイーダちゃん、この指輪についている魔石はどうなの?」


「これは『聖の魔石』……つまり神聖系──4属性以外の『光の魔法』が多く使われた場所で生まれた魔石なのだろう」


「ああ、この『堕天の魔塔』が、まだ信仰の対象となっていたときに、人々の祈りが注がれてできた指輪だ。

 名前は、『プリエール・アノー』だったかな」


 説明を引き継いでくれたアイーダに補足を入れつつ、俺はこの指輪がふさわしい人物に声をかけることにした。


「ルナ、この指輪をもらってくれるか?」


「えっ!?

 ……私、ですか?」


「ああ。

 ルナはヒールが使えるだろう?

 回復系の魔法は、分類上だと光属性になるんだ。

『プリエール・アノー』は光の魔法の効果を増幅させる効果がある。

 だから、ルナが持っていれば、回復の魔法を使う際に、その効果を上げることができるんだ」


「そんな貴重なものを……

 わかりました。

 それなら……」


 ルナが左手を差し出してきた。


「お、お願いします……」


 ……ん?


 指輪をはめてほしいってことかな?


 えーっと、あまり戦闘の邪魔にならないようにしたいから……ルナ、薬指を向けてこようとしているけど、さすがにそこだと別の意味が出てしまうから、避けようか。


 ……人差し指かな。


 指輪をはめると、ルナは一瞬不満そうな顔をしたが、それもすぐに引っ込んで可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます!

 ミツキからもらった、この指輪……大切にしますねっ!」


 うん、喜んでもらえたようで何よりだ。


「ああ、この塔の攻略にも必要な鍵になるから、なくさないようにな」


「もちろんです!

 たとえ死にそうなときでも、指輪だけは守り切ります!」


「いや、そのときはさすがに自分の命を守ってくれ……」


 この塔を攻略でいなくてもストーリーは進行するからな。


 自分の身を第一に考えてほしい。


「それじゃ、攻略に──」


「ねぇ、ミツキ!」


 攻略に戻ろうとしたら、マイアが俺の目の前に左手を突き出してきた。


「ボクの分!

『練術』が強くなる指輪とか、ないかな!?」


「あたしの分もよ!

 炎の魔法が強くなる指輪だってあるでしょ。

 アンタなら持ってるんじゃないの?

 よこしなさい!」


 リーゼまで……


 そんなに指輪がほしいのか?


 まあ確かに能力が上がる装備品は、俺もほしいけど……


「今は持ってないって。

 でも、旅を続けていけば、あるんじゃないかな?」


「そのときは絶対に、ボクにちょうだいね!」


「ちゃんとあたしの指にもはめるのよ。

 わかった?」


「あ、ああ、うん……そのときが来たらな」


 2人にそう約束すると……左手を下ろしたな。


 落ち着いてくれたようだ。


 確かストーリーを進めていけば、各属性の魔法を高める指輪は手に入るはずなので、そのときには優先的に渡そう。


『練術』はわからないが……


 そのときは、似たような装備を贈るとしよう。


「気を取り直して……塔の攻略に戻るぞ」


 ルナ、マイア、リーゼ、アイーダにそう伝えて、俺たちは指輪のあった部屋を出た。

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