第62話 竜神のデコピン
竜の姿に戻ったアイーダに乗って『堕天の魔塔』へと再びやってきた。
1日休みを取ったこともあり、ルナ、マイア、リーゼも、ちゃんと疲労が取れたようだ。
「ふぁぁぁ……」
そんな中、人の姿になったアイーダが、あくびをしていた。
「泉の精霊が離してくれなかったのだ……」
昨晩は、精霊と夜遊びしていたようだ。
まあ、アイーダの場合は眠っていても、この塔のモンスターが何かできるわけでもないし、問題ないのだが……
いや、攻略で緊迫した中で、あくびを連発されても困る。
眠気覚ましの薬草を渡しておこう。
バーラの街で売っていたものだけど、少しは効果があるはず。
「口がスースーして気持ちいいのだ……」
モンスターの眠り攻撃を無効にする薬草も、竜神にとってはメントールと同じ効果しかないみたいだな……
とはいえ、これであくびを連発をすしなくなるだろう。
ルナたちと装備を確認して、攻略を進めよう。
「ルナ、マイア、リーゼ……街でも言ったかもしれないけど、今回は攻略がメインだ。
モンスターとの戦闘は最小限にして、進んでいくからな」
「はい。
心得てます」
「任せといてよ!
どんなのが出てきても、どっかーんってやっつけちゃうから!」
「そうだけど……立ちふさがる奴は、消し炭にしていってもいいのよね?」
三者三様の返事が返ってくる。
やる気が十分なようでなにより。
「頼もしいな。
だた、精神的に消耗しやすい練術と、魔力の消費が激しい魔法は乱発しないようにしてくれよ。
さすがに、誰かを抱えて戻れるほど、この塔は甘くない」
一応、注意はしておく。
うん……3人の顔つきがちょっと変わったな。
緊張感が増したようだな。
このくらいなら、ちょうどいいだろう。
それじゃあ、攻略を開始しよう!
『堕天の魔塔』10階。
ここは、以前に来たことのある階層だな。
出てくるモンスターは、クセのあるやつが多い。
擬態する『クライミング・グラトニーローズ』に注意し、『スティックバット』や『アイシーシャドー』の不意打ち、それに単純に力の強い『ワンダーゴーレム』や『スクラップベア』を倒していかなければならない。
基本的には、ヒットアンドアウェイ。
アイーダの後ろから飛び出して一撃を加え、それで倒せなければ、アイーダに攻撃を受けてもらう。
そして次の攻撃を繰り出すといった具合だ。
「……我は今回も盾役のカカシなのだな」
「竜神にとっては、ここのモンスターの攻撃なんて、そよ風みたいなもんだろう?」
「そうなのだが、やられっぱなしはつまらんのだ。
ふぁぁぁ……眠くなる……」
ふむ……眠気覚ましの薬草は効かなかったか。
それは困った。
あくびを連発されるとパーティの士気にかかわる。
だけど、アイーダが手を出すと、「もうアイツだけでいいんじゃね?」ってなるんだよなー。
……うん、決めた。
「それなら、攻撃を許可しよう」
「おー!
やったのだ!」
「ただし、攻撃はデコピンだけだ」
「でこぴん?」
「手をこうしてな……
相手の額を弾くように指1本で攻撃するんだ」
本来は額だけを狙うが、人の姿のアイーダは背が低いから体のどこに当ててもいいことにした。
「ほほう、要は手加減だな……
わかったのだ。
我のデコピンを見ているがよい!」
ちょうどそこへ『ワンダーゴーレム』が近づいてきた。
放たれる鋼鉄の拳。
アイーダは、その拳に向けてデコピンを放った。
バキバキバキ……!!
ゴロゴロゴロン……ドガン!!
一瞬のうちに『ワンダーゴーレム』が吹き飛び、進路上のモンスターを巻き込みながら突きあたりの壁にぶつかって……機能を停止した。
拳を放ったゴーレムの腕は根本まで砕かれ、そのヒビ割れは、弱点である胸部のクリスタルはもちろんのこと、体全体にも及んでいる……
というか、ゴーレムがぶつかった壁も大きくへこんでないか?
この塔の壁、『ヴレイヴワールド』だと特殊素材でできていて、破壊不能に近い硬さを持っていたはずなんだけど……
「おおっ!!
他の連中も巻き込んだぞ。
なるほど、手加減もやり方を工夫すると面白いな!
最小の力でどれほどの数を倒せるか……
ゲームみたいなのだ!!」
「「「…………」」」
楽しそうなアイーダに対して、ルナ、マイア、リーゼは唖然として、粉々になったゴーレムを見つめていた。
うん、そうなるよなー。
「アイーダ、条件を追加だ」
デコピンは、1階層につき1回までとした。
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