第61話 レベルの確認

 カフェでの食事を終えたあと、俺たちは2階の宿へと戻った。


 そこで問題発生。


 俺のベッドでマイアが寝ていた。


 起こすのもかわいそうなので、マイアをこのままにして、俺はイスで寝ようと思ったのだが、ルナとリーゼが反対した。


「ミツキにもしっかり休んでもらわないといけません」


「自分の部屋があるんだから、そこで寝かせましょう」


 ルナとリーゼは、マイアを部屋まで運ぼうとしたが、マイアの部屋にはカギがかかっていた。


 ベッドは3つ。


 寝るのは5人。


「我は、こやつと一緒がいいのだ!」


 さらにアイーダはマイアといっしょの部屋がいいと主張した。


 アイーダはマイアになついていたし、昨日はマイアの部屋でいっしょに寝いていたからな。


 そうなると残るベッドは2つで、俺、ルナ、リーゼが寝ることになる。


 ルナとリーゼは同じベッドで寝ると言ってくれたが、俺は断って別の宿を探すことにした。


 ふたりも疲れているし、しっかり休んでもらいたかったからな。


「あたしのベッドに入ってきてもいいのよ?」


 なんてリーゼが冗談を言って、ルナにはたかれていた。


 そうだな。


 特別な関係でもない男女が同じベッドに寝るのはよくない。


 ルナもそう思ったのだろう。


 だけど、ちょっと力を込めすぎじゃないか?


 リーゼが床に転がってもだえているんだけど?


「このくらいやらないと止まりませんから」


 ま、まぁ……ルナにしかわからないリーゼとのコミュニケーションの方法があるのかもしれない。


 そんなわけで、アイーダがちゃんと寝るのを見届けてから、俺は宿を出た。


 ちゃんと眠れる宿を探さないといけない。


 だが、その前に……レベル上げの成果を確認しよう。




 俺はバーラの街を離れて、西の森までやってきた。


 ここに出るモンスターが狙いだ。


 剣を鞘から抜いて準備しておく。


 異世界のフィールドは街灯もなく、真っ暗だった。


 隣家が200メートル以上離れている田舎の村を想像してもらうとわかりやすい。


 月と星以外に明かりがなく、それらが雲で隠れてしまうと数メートル先も見えなくなってしまう。


 しかし、俺の目には十数メートル先まで道がしっかりと見えていた。


 これは暗闇に目が慣れてきたのではなく、スキルによるものだ。


『夜目』スキル。


 字のごとく、夜でも視界がきくようになるスキルだ。


『ヴレイヴワールド』におけるスキルは、基本的に特定の条件下で魔力を使わずに自動的に発動するものが多い。


『夜目』スキルもそのひとつで、日が落ちてくると自動的に発動する、地味だが生存力を上げてくれるありがたいスキルだ。


 スキルはキャラクターのレベルで上がっていくだけでなく、魔法や練術と同じように使い込みで上げることもできる。


『夜目』スキルの場合は、夜にフィールドを歩くことだ。


 意識しなくても上がっていくタイプのスキルだな。


 さて、ここに来たのは『夜目』スキルを鍛えるためではなく、その他のスキルや魔法や練術の発現を確認するためだ。


『ヴレイヴワールド』でのモンスターの経験値はすべて頭に入っているので、どのくらい倒せばどこまでレベルが上がるかわかる。


 だがこの世界では、ピエスやアイーダといった、本来のストーリーでは戦わないやつとも戦っている。


 なので、到達レベルがずれてしまっているのだ。


 上方にずれているので、通常の攻略だけならそこまで問題はない。


 しかし、この世界に来てからというもの、予期しない相手との戦闘が多い。


 しかも、この世界でやられると本当に命を落とす可能性が高い。


 蘇生アイテムもあるにはあるが、すぐに手に入る代物じゃないし、少しでも生存率を上げるためにも、使える魔法や練術がどんなものがあるか把握しておいたほうがいいと思ったのだ。


 まずは、小手調べ。

 

『気配探知』スキルの範囲の調査だ。


 このスキルは、習熟するほど気配を感じ取れる範囲が広がり、その周囲にいる存在が何者なのか、また、こちらに対して敵意があるかどうかもわかるようになる。


『気配探知』スキルを無効にするスキルや魔法や練術、それに装備などのアイテムもあるが、西の森に出るモンスターの中はそれらを持っていないので、しっかりとスキルの恩恵を感じることができる。


 それで現在の効果だが……俺を中心とした半径10メートルほどの範囲内に何かのモンスターの気配が3つほどある。


 ふむ……ほぼスキルの初期値だな。


 強化されていたとしても、スキルレベルは2程度。


 常時発動型なので、そこから経験値を逆算すると、現在のミツキのレベルは26くらいか……


 ピエスとアイーダを除いたモンスターとの戦闘で得られる累積経験値は、レベル20に到達するくらいなので、それよりもかなり高くなっている。


 やっぱりピエスと2回戦うだけでなく、しっかりと討伐したので、かなり強くなっているようだな。


 ちなみにだが、西の森のエンプサの攻略推奨レベルは10。


 うん、エンプサが弱く感じるわけだ。


 さてと、それじゃあ、いよいよ魔法を試していこう。


「『ストーム・バレット』」


 手をピストルの形にして風の魔法を撃ち出す。


 狙いは、『気配探知』スキルで見つけたモンスター3体。


 目に見えない突風の弾丸は、見事目標に命中。


 ガガガガガガガガ!!


 と、森の木々に何かが当たりながら遠くへ離れていく音が聞こえる。


『ストーム・バレット』は、圧縮した風を撃ち出し、ヒットした相手を風の力で引き裂きながら、吹き飛ばす魔法だ。


 風魔法のレベル3に分類される。


 レベル3の中では威力は控えめだが、風の弾は不可視なので、相手に察知されずに当てやすいという利点がある。


 魔法を当てたモンスターへと駆け寄ってみる。


 …………


 ゾンビ系のデッドアニマルが砕け散っていた。


 うん、ゾンビ系に当てちゃうとこうなるよねーって感じで、ゲームだと見せられないくらいバラバラになっている。


 ゾンビ系は元々採れる素材も少ないけど、これじゃあ何も持って帰れないな……


 素材集めのときは、『ストーム・バレット』を使うのはやめたほうがよさそうだ。


 とりあえず魔法はひとつ使ったので、練術のほうも試してみよう。


 ちょうど近くにモンスターの反応がある。


 土の魔法である『アース・ブロック』で小石を作り、モンスターの傍の木に当ててみる。


 すると、こちらに気づいたモンスター5体にすぐ囲まれた。


 ホーンラビットとメナスバード……ウサギと鳥のモンスターだな。


 というわけで、早速練術を発動させる。


「『旋風翔裂斬せんぷうしょうれつざん』!」


 風の力を乗せた、5連撃の剣技系の練術だ。


 斬り下ろしと斬り上げを交互に2回ずつ行った後、突きを繰り出す。


 すべての斬撃に風が乗り、威力を底上げすることはもちろん、剣をギリギリで避けても風の力で切り裂けるという使い勝手のいい技のひとつだな。


 斬り下ろしでホーンラビット2体、斬り上げの部分でメナスバード2匹を倒し、最後の突きで、飛んで逃げようとしたメナスバード突き刺して、近くの木に磔に──


「おわっと!」


 磔にしようとした木が、剣を刺そうとした箇所を中心に、螺旋状にえぐられた。


 剣技に乗っていた風の効果で、孔が開いてしまったのか。


 ふむ……威力が高い練術は、予想外のことが起きるな。


 実際に試してみてよかった。


 それにしても、ふふふ……


 覚えたての魔法や練術を思う存分使えるのは楽しいな。


 そんじゃ、もう少しだけ試していこうか!


 


 数時間後。


 俺は西の森のモンスターを倒せるだけ倒して、バーラの街へ戻ってきた。


 ルナたちの待つ宿……は、いっぱいなので、表通りの宿を取る。


 夜遅くでは、ほとんどの店が入れてくれないが、一軒だけ入れてくれる宿がある。


 そこの宿は、オーナーが珍しいもの好きで、珍しいアイテムを渡すと、特別に一室を貸してくれるのだ。


 オーナーが要求するものはランダムだが、今回はメアスバードの特異個体に生えている金色の羽だった。


 採れたてほやほやのそれを渡し、俺はその宿に泊まることにした。


 部屋は……いつも泊っている宿よりも少し手狭だな。


 まあ、仕方ない。


 ベッドで寝られるだけマシだろう。


 おやすみなさい。


 そうして、夜を明かしていつもの宿に戻ってみると、マイアの土下座が待っていた。


「ミツキ、ごめん!

 ボクのせいで寝れなかったんだよね?


 ホントにごめんなさい!!」


 いや、謝らなくても大丈夫だ。


 むしろ、マイアをそこまで疲れさせたのは、俺が原因だからな。


 そんな感じでマイアをなだめたあとは、パーティ全員でバーラの街を巡って、装備品とアイテムを購入した。


 そして、その翌日。


 俺たちは、再び『堕天の魔塔』を訪れるのであった。

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