第43話 虹の竜

 エンプサを追いかけて、森の奥へと進む。


 水源に毒の魔法や呪いの魔法を使われると、バーラの街が大変なことになる。


 もうすでにエンプサが水源についていると、まずいけど……


 ザッパァァァァァァァァァァン!


「なんだっ!?」


 森の奥で水の柱が天に向かって立ち上った。


 あそこは……水源の場所だな。


 エンプサが魔法を?


 いや、毒や、呪いで水の柱はできない。


 創造者の知らないことが起こっているみたいだな。


 急ごう。



 森を抜け、水源へとたどり着いた。


 東京ドームが2つくっついたような形と広さをした泉と言えばいいだろうか。


『ヴレイヴワールド』では、『アンダイン泉』とも呼ばれており、古くから水の精霊が暮らしている影響で、精霊がこの場所に力を与え、無限に清水が湧き出ているという設定だ。


 おそらくこの世界でも清水が湧き出る理屈は同じはず。


 それよりも、エンプサはどこにいったんだ?


 水の柱もなくなっているし……


 バッコーン!!


「うおっ!?」


 泉の中から何か飛んできた!


 思わず避ける。


 飛び出して来た何かは、俺の背後にあった木の幹にぶつかった。


「うぐっ……」


 くぐもった声……


「エンプサ!?」


 浅黒い肌の魔族が、ぐったりしていた。


 息はありそうだが、動く気配がない。


 エンプサはおそらく毒や呪いを、泉に仕込もうとして、やられた。


 泉……水の中に何かがいる!


 そのとき、水面が盛り上がった。


 ゴォォアアアアアアアア!!!


 水中から大量の水しぶきを上げながら、巨躯が飛び出してくる。


 竜だ!


 全長は2階建ての家よりも高く、翼を広げたその全身が日の光を浴びて虹色に輝いていた。


 顔は縦にシャープな形状で、口には鋭い牙が並んでいる。


 鈎爪はスクラップベアを貫通できるほど長い。


 尻尾は体とほぼ対等の長さを誇り、水面に叩きつけて、周辺の森に大量の水しぶきを飛ばしている。


 さっきのワイバーンとはまるで違う。


 れっきとして竜がそこにはいた。


 というか、この姿は……竜の中でも最上位に位置する種族で──


「竜神……!?

 なんでこの水源に竜神が……!」


「──ほう、我らを知る者か」


 竜の青い瞳が俺を見ていた。


 竜神。


 その名の通り、竜の神。


 正確には、プロローグで出てきた女神とはまた違う種類の神なのだが、その力は神すらも超える設定がなされている。


 主な登場は、ストーリーの終盤。


 魔王に覚醒したピエスがいる新生魔王城へと乗り込む際に力を貸してくれる存在だ。


 強い種族がゆえに、世界の管理者と呼ばれており、人間と魔族などの種族間の力バランスを取るために、争いの仲裁や、強大となった勢力へとの断罪などを行っている。


 ……まあ、そういう設定を与えたのも開発チーム《俺たち》だし、だからこそ意図的に強くしたっていうのもあるんだけど……


 それはともかく……


 そんな竜神の種族がなんでこんなところに?


「ふむ……下界にこうも我の水浴びの邪魔をする者がいるとはな。

 そこの魔族も、我の邪魔はせんと言うから見逃してやったというのに……

 よもや、この清水を毒と呪いで侵そうとするとは……」


 ふむふむ……


 どうやら、エンプサはストーリー通りに水源の汚染を考えていたようだ。


 だが、ここに来ていた竜神に邪魔されて、吹っ飛ばされたと……


 まあ、ただの魔族であるエンプサが世界最強の一角を担う竜神の種族に勝てるわけがない。


 基本スペックが違うからな。 


「お前も我の水浴びを邪魔しようというのか?」


「いや、俺はそこで伸びている魔族を追って来ただけだ。

 お前の邪魔をしようってわけじゃ──」


「野良のワイバーンはどうしたのだ?

 勝手についてきた連中だが、人族の邪魔をするくらいならできたはずだぞ」


「あー、あいつらはお前についてきたのか」


 なるほど、このイベントにワイバーンがいた理由もわかった。


 ワイバーンは、弱い種族ほど上位の竜族に従う習性がある。


 バーラの街に現れたのも、この竜神についてきた個体だろう。


 だから、エンプサとワイバーンも面識があったんだな。


 なんとなく、理解はできた。


 街に戻った時に、アグハトや冒険者たちに、ワイバーンや虹色の竜が飛んでいなかったか確認しよう。


 さてと、ここでやるべきことはすんだ。


 あとは、エンプサを捕縛して、助けた人質を連れてバーラの街へ戻ればイベントは終了だ。


 いろいろあったが、無事にイベントを攻略できて、よかったよかった──


「そうか、あの者たちはお前にやられたのか。

 ま、やつらのようなハイエナなど知ったことではないが……

 そうまでして、我の水浴びを邪魔しに来たお前には、罰を与えねばな」


「……ん?」


 あれ?


 なんだか、まずい流れになっていないか?


「待ってくれ。

 別に俺はこの泉に用がったわけじゃない。

 水浴びなら好きなだけやってくれ」


「もちろん好きなだけやるとも。

 お前を倒したあとでな。

 世界最高種たる竜神の恐ろしさをその身で味わうがよいのだ!!」


 虹の竜──竜神の一族が勝負をしかけてきた!


 

 うそーーーーーん!?

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