第42話 ワイバーンとの戦闘

 ワイバーン。


 正式な名称は、バルチャーワイバーン。


 ワシのような嘴を持つのが特徴。


 足から頭までの高さは5メートルほどで、翼を広げたときの大きさは10メートルほどになる。


 主だった攻撃手段は、炎のブレス、翼の爪や、牙での噛みつきや、巨体を活かした体当たり。


 ワイバーンの中でも下級に位置する種族で、ドラゴンに分類されるが、脅威としてはスクラップベアと同等になる。


 ストーリーの中盤に出てくるモンスターの一匹で、『ヴレイヴワールド』であれば『ゴールド』ランクの冒険者ひとりでも倒そうと思えば倒せるレべル。


 そんなワイバーンが3体。


 こちらは、『シルバー』ランクの冒険者4人。


 普通に考えればかなり厳しい戦いになる。


 俺はひとりでもワイバーンを倒した実績があるが、あれはアンダイン大浴場のバフがかかった上で、ワイバーンが俺をなめて飛び上がらなかったからだ。


 今回は、状況が違う。


 ワイバーンたちは、俺たちを完全に敵と認識している。


 今もこちらに警戒をしながら、エンプサを守るように……


「おわぁぁぁぁぁぁっ!?」


 エンプサがワイバーンの羽ばたきを至近距離で受けて飛んでいく。


 ……あのワイバーン、わざとやったのかな。


 主人に対する態度じゃない。


 エンプサもワイバーンを呼ぶときに、回りくどいような言い方をしていたし……


 あのワイバーンの主は別にいると考えたほうがいいだろう。


 ワイバーンを従えるほどだ。


 そっちにも注意しておかないと……

 

 ギャラァァァァス!

 

 ワイバーンが動きだした。


 3体同時のブレス攻撃が来る!


「ルナ! マイア!」


「「……!!」」


 ふたりは呼ばれた意味を察して、俺の背後に移動した。


 よし!


 ここで魔法を発動!


「『アース・ウォール』!」


 魔法で土の壁を出現させる。


 5メートルほどの厚みを持たせた壁だ。


 直後、その壁にワイバーンのブレスが直撃した。


 あっつ!


 熱気が土の壁を貫通してくる!


 だが、壁は壊れない。


 ギャララァァスッ!


 ワイバーンの苛立った感じの雄たけび。


 行動パターンが変化する兆候だ。


 埒が明かないので、飛び上がって土の壁を上から攻撃する気だろう。


 しかし、そうはさせない。


『ミツキ』にはできないが、空へ飛び上がるのを封じる手段はある。


「リーゼ、もう一度頼む!」


 後方へ叫ぶ。


 それと同時に、再び空が炎で埋まった。


「『メテオ・フレア』!!」


 突如現れた上空からの火球は、飛び上がったワイバーンたちを地上へと叩きつけた。


 リーゼがすぐに魔法を発動させてくれたおかげだ。


 だが、リーゼの魔力はこれで確実に尽きたはず。


 ワイバーン3体は、俺とルナとマイアだけで仕留める。


「ふたりとも、全力でいくぞ!」


「はい!」


「うんっ!」


 ルナとマイアの返事に合わせて魔法の土壁を解除する。


 焼けた道を3人で突っ切る。


 ワイバーンは『メテオ・フレア』で落とされたショックから立ち直っていない。


 最初に攻撃したのは、ルナだ。


「アァァァァァァァッ!!」


 全身から赤い光を揺らめかせ、ワイバーンの一体に斬りかかった。


凶神の使徒バーサーカー』。


 身体能力が2倍になる超強化術。


 ワイバーンは咄嗟に翼で身を守ろうとしたが、そんなもので今のルナの攻撃は防げない。


 ギャラァス!?


 翼を半ばから斬り飛ばされ、ワイバーンが後退する。


 しかし、戦意は失っていない。


 口腔内を光らせ、ブレスで反撃しようと──


「アァァァァァァァッ!!」


 ルナがワイバーンの口の中に剣を突き刺した。


 ギャラァァ……──


 行き場を失ったブレスが爆発!


 ワイバーンの頭が丸焦げになった。


 勝負はついたな。


 ルナのほうは大丈夫だ。


「どんどんいくよ!」


 マイアがワイバーンの一体に接近戦を挑む。


 助走をつけて、跳躍。


 引き絞った拳でワイバーンを殴りつけようとしていた。


 ギャララァァスッ!


 その動きに合わせるように、太さが木の幹ほどもあるシッポが、マイアに襲い掛かる。


「ぐえっ」


 シッポはマイアに直撃。


 ワイバーンの目がわずかに上がる。


 しとめた! と思ったのだろう。


 しかし、


「いったいなぁ、もぉ!」


 マイアはワイバーンのシッポをがっちりと両腕でつかんでいた。


 ギャラッ!?


 ワイバーンは驚いてシッポを引き抜こうとするが、マイアは地面に足をつけて逆に引っ張ろうとしていた。


「力比べなら、負けないよぉ!」


 ずずず……


 なんと、マイアのほうがワイバーンを引きずり始めた。


 下級とはいえ、ワイバーンで力勝負に勝つのか……


 もともと武道家タイプのキャラクターだが、成長が著しい。


 ギャララアアアッ!


 ワイバーンが怒りに任せてブレスを吐き出す。


「あ──」


 ブレスはワイバーンのシッポごと、マイアのいた場所を焼き払った。


 地面に生えた草花を焼き切るほどブレスを吐いた。


 ブレスが止む。


 シッポを持っていたマイアは……


 いや、は、じゅうっと音を立てて地面に吸い込まれていった。


 ギャラッ!?


「『変わり身の術・蒼流分身そうりゅうぶんしん』!」


 本物のマイアは、ワイバーンの背後で拳を引き絞っていた。


「そして、これが──『氷零突ひょうれいづき』!!」


 マイアが拳を全力で繰り出した。


『練術』の体技の一つで『氷』を宿した拳だ。


 マイアの拳は、ワイバーンの腹部に深く突き刺さった。


 ギャァァァ……ァッ……


 ワイバーンの巨体はくの字に折れ曲がり、そして、その場で横たわった。


「押忍っ!!」


 マイアが笑顔で俺にピースサインを見せてくる。


 ルナやリーゼの成長ばかりが目立っていたが、マイアもかなり成長していたようだな。


 変わり身を使ったとき、もう少し脱出が遅れていたら危なかったが、これだけ戦えれば十分だ。


 さて、それじゃあ、最後は俺の番だな。


 ギャオ、ギャァァァッ!!


 仲間がやられたのを見て、残っていた1体が再び逃げようと翼をばたつかせる。


「逃がしはしない。『ウインド・ブラスト』!」


 エンプサが使っていた風の魔法を地面に向けて発動。


 以前まで使っていた『ウィンド・ウォール』よりも、風の勢いが強いため、素早く相手に接近でき──


「うおっ!?」


 速っ!!?


 一瞬で飛び立とうとしていたワイバーンに肉薄した。


 やばい、早く剣を振らないと……!


「『氷裂斬ひょうれつざん』!」


 すれ違いざまに、ワイバーンの首に一閃を浴びせる。


 ギャ……──


 ワイバーンの頭は胴体と別れを告げた。


 よし、うまくいっ──


 ドンッ!


「ぐへ……」


 一回転して背中から大木に激突した。


 すごく痛い。


 全身がしびれる痛みだ。


 あーくそ。


 魔法の威力の上昇量を見誤っていた……


 もっと考えないとな。


 体に落ちてきた葉を振り払いながら立ち上がる。


 ワイバーンは、3体とも倒せた。


 ルナ、マイア、リーゼとも頑張ってくれた。


 倒したワイバーンは俺のアイテム欄に入れておこう。


 この辺りだとワイバーンの素材は珍しいので、街に持って帰れば高く売れるだろう。


「ミツキ!」


 ルナが駆け寄ってきた。


 少し焦った顔をしている。


 何かあったのか?


「『西の魔王』が……いません!」


「っ!?」


 ルナに言われて、周囲を見渡すが、確かにあの魔族の姿がなかった。


 ワイバーンとの戦闘中に逃げられた……


 えっと、エンプサが逃げた場合の選択肢は……まずいな。


「ルナは、ふたりと一緒に人質を救出してくれ」


「ミツキは?」


「俺はエンプサを追う!」


 任せたぞ、とルナに伝えて、俺は森の奥を目指した。 


『ヴレイヴワールド』では、今回のイベント戦闘を終えたあと、エンプサを捕縛する時間が与えられる。


 その際に時間をかけすぎてしまうと、さらにあるイベントに移行する。


 舞台が『西の森』の奥地にある泉に移動する。


 その泉は、アンダイン大浴場の源泉だ。


 エンプサはそこへ向かい、魔法を使って、その水を汚染する。


 そうなると、アグハトは仲間になってくれるが、バーラは住めない街になってしまう。


 バーラの街のイベントとしては、バッドエンドを迎えてしまうのだ。


 エンプサを追い詰めておけば大丈夫だと思ったが、ワイバーンとの戦闘の間に逃走してしまうとは……


 早く追いつかないと!

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