第44話 竜神の力

 竜神。


『ヴレイヴワールド』における最強の種族の一角。


 その虹色に輝く鱗は、一定ランク以下の魔法と武器をすべて弾く。


 膂力もすさまじく、歴戦の個体であれば、上位種の竜が10体まとめてかかっても、一撃で弾き飛ばすほどだ。


 さらに、ブレスによる攻撃は、火・水・土・風・光・闇などすべての属性で打ち分け可能で、その中でも水のブレスは、噴火直後の火山だろうと流しきるだけの力を持っている。


 それだけでなく、各種の魔法や練術にも長け、竜の姿のみならず、人に化けた姿であっても、1対1ではまず勝つことは不可能と言われている。


 そんなのと……なんで戦ってるんだ、俺は!?


「ゆくぞ!」


「ま、待て……!」


 水面に浮いていた竜神が動き出す。


 くっ……話を聞く気はなさそうだな。


 これは、非常にまずい。


 当たり前だが、ストーリーの序盤で、平均よりもちょっと鍛えたくらいのステータスで、竜神に勝てるわけがない。


 そもそもの想定として、竜神と本気で戦えるのは、ラスボス撃退後のストーリーだ。


『隠しボス』として竜神の長と戦うことができる。


 この長は竜神の中でも最強と言われており、ステータスは、魔王ピエスよりも高く設定されている。


 だったらお前が魔王を倒せよ、と言われそうだな。


 その気持ち、よくわかる。


 一応、理由としては、竜神の種族は、世界のバランスを調整する役目なので、どの勢力にも加担しないということになっている。


 話を戻そう。


 この竜神は長とは違うが、それでも竜神には違いない。


 隠しボスよりも弱いが、『ヴレイヴワールド』のストーリー終盤のボスと同程度と考えていいだろう。


 ヘイムダル王都で戦ったピエスよりも、素のステータスは高い。


 そんなのと戦って勝てるかって?


 ムリムリムリ!


 だから……逃げる!


 ゴォォアアアアアアアア!!


 竜神がブレスを吐いてきた。


 超圧力の水ブレスだ!


「おわっ!?

流水円舞りゅうすいえんぶ』!」


 ブレスをぎりぎりまでかわして、カウンターの『練術』を発動。


 剣の上でブレスを滑らせて、ブレスの範囲外へと移動する。


 真横で、ヒュゥゥゥゥンという音がしたかと思うと、その直後に背後で、バキとかミシとかガガガガガとか……


 林が無茶苦茶な音を立てて破砕されていくのがわかった。


 振り返ると……マジか……


 巨大な円柱状のドリルが通り過ぎたかのように、森がえぐられていた。


 あんなものを食らったら、肉片どころか髪の毛一本も残らない。


「む……避けたか。

 だが、次はどうだ!」


 再び超高圧力の水ブレスが飛んでくる。


 カウンターの『練術』を構える。


 こうなれば、ひたすらかわし続けるしかない。


「『流水円舞りゅうすいえんぶ』!」


 ブレスに合わせて、カウンターの『練術』を合わせる。


 何度でも。


 しくじったときが、命がえぐられるときだ。


 次も、その次も、そのまた次もなんとかした。


 5回目をしのぎ切ったとき、竜神が攻撃を止めた。


「ぜぇぜぇ……ちょこまかと、ハエみたいにうっとうしいのだ!」

 

 疲れが出てきたようだな。


 当たり前だが、ブレスにも魔力を使う。


 森を破壊する威力のブレスを連発して入れば当然そうなる。


 しかし、この竜神はそれすらわかっていなかったようだ。


 竜神にもいろいろいるので、きっと縄張りからあまり出たことのない若い個体なんだろう。


 もう少し特徴があれば、キャラクターを特定できるんだけど……


 いや、それよりも、今は逃げるのを優先したほうがいいか。


 受け流せてはいるけれど、さすがにワンパターンでどうにかできるほど、竜神は甘くない。


 攻撃が止んだ今のうちに……


「こうなれば……まとめて消し飛ばしてやるのだ!」


 竜神が大きく息を吸い込む。


 魔力が、竜神の胸の辺りに集まっていくのを感じる……


 まずい。


 魔力感知系のスキルも持っていないのに、竜神の体内で魔力の集中を感じられる。


 それだけ相手の魔力が膨れ上がっているということだ。


 今までのブレスとは比較にならないものが来る。


 そうなってしまえば、今までのカウンターの『練術』だけでは避けきれない。


 ……だが、まだ手はある。


「できれば、直してから使いたかったんだけどな……」


 しかし、そんなことを言っている場合じゃない。


 俺はアイテム欄を開く。


 それと同時に竜神のブレスが飛んできた。


「流されて消えるのだ!!」


 今までの攻撃よりも2倍以上の範囲のブレスだった。


 避けるのは不可能。


 だから、避けはしない!


 俺は、アイテム欄から──剣身が半ばで折られた剣を取り出した。


 重っ!!


 構えると同時に、両腕が肩からもげるかと思った。


 それでも、王都で使った勇者の剣よりかは軽く感じるような……


 いや、それは俺のこの剣のステータスを知っているからだろうな。


 元魔王軍の四天王、ピエス・アンスタラシオンの剣。


『クスィフォス・アポリュオン』。


 その能力は、周囲の魔力を吸収し、強力な刃となる。


「『地脈円舞ちみゃくえんぶ』!!」


 土の力を込めたカウンターの『練術』。


 竜神の水ブレスのうねりに、『クスィフォス・アポリュオン』の刃を強引に合わせる。


 剣が触れた瞬間、水ブレスが左右に割れた。


「な、何ッ!?」


 たじろぐ竜神の元まで、一直線に道が切り開かれた。


 風の魔法を発動させる。


「『ウインド・ブラスト』!」


 風の力で体が急加速。


 ワイバーンに追いつくときに使用した時と同じく、一瞬で、竜神の目の前まで吹っ飛ばされた。


 だが、今度は体のバランスは崩さない。


 狙いは、竜神の弱点。


 喉元にあるたった1枚の逆鱗!


 俺は突風の勢いのまま、『クスィフォス・アポリュオン』の折れた剣先で、竜神の逆鱗を突き刺した。

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