第39話 西の森へ

 冒険者ギルドで西の森の情報を聞いていると、外が明るくなってきた。


 そのため、『西の魔王』がいるバーラ西の森には、仮眠を取ったのち、お昼ごろに出発することになった。


 メンバーは、俺、ルナ、マイア、リーゼの3人のみ。


 うん、3人のみだ。


 アグハトは、本当についてきてくれなかった……


 状況によっては持久戦もあるから、アグハト必須の依頼なんだけどなー。


 ま、いつまでも過ぎたことを悔やんでても仕方ない……


 アグハトがいない攻略ルートを考えて進もう。


 それで人質の幼馴染を助けて、アグハトを説得してもらおう。


 うん、それがいい。


 そのときが楽しみだ。


 そうこうしているうちにお昼になったので、俺たちは西の森へと出発した。


 道中では特に何も起きず、バーラから歩いて1時間ほどで到着。


 この先は整備された道がなく、アグハトにもらった地図を頼りに、森の獣道を進んでいくことになる。


 さて、この西の森だが、王都付近よりも出現するモンスターの種類が増えている。


 ホーンラビットやトレントなどの弱いモンスターも出るが、ランページボアや、その他にも毒を持つ蛇型のモンスターの『リーフスコーピオン』、小動物のアンデッド系のモンスターの『デッドアニマル』、鳥型モンスターの『メナスバード』などなど……


 様々なモンスターが出現する。


 攻撃手段も様々だが、共通するのは、火に弱いということ。


 炎の力をのせた『練術』か、魔法が真価を発揮する。


「『フレア』!」


 というわけで、炎の魔法が得意なリーゼが張り切っていた。


 バーラにやって来た馬車の中では、ずっと乗り物酔いしていて本調子じゃなかったからな。


 そのうっ憤をはらすかのように、攻撃魔法を撃ち続けている。


 森の中の戦闘なので、周囲を燃やさないようにする配慮は必要だが、それでも他の魔法にない火力で、西の森のモンスターたちを黒焦げにしていった。


 その様子にリーゼも満足。


「ふっふーん、どうよ!

 こんなやつら、あたしの敵じゃないわ」


 そんなリーゼにルナが釘を刺す。


「張り切るのはいいけれど、魔力切れで倒れないようにしなさいよ。

『西の魔王』とも戦わないといけないんだから」


「大丈夫よ!

 あたしだって王都での戦いで強くなったんだから、任せておきなさい!」


 ……フラグにしか聞こえないが、本人はやる気なので期待しておこう。


 だけど、魔法の消費は少なめで。


 ホーンラビットは、俺とマイアで倒すから。


 そんな感じで西の森の攻略は、俺の予想よりも手早く進んでいった。


 ラスボスのピエスと戦ったことで、ルナたちもかなり経験値が入ったみたいだからな。


 今ならスクラップベアも3人だけで無理なく倒せるかもしれない。


 とはいえ、油断は禁物だ。


 王都のときもそうだが、この世界では『ヴレイヴワールド』のようであって『ヴレイヴワールド』ではない。


 ゲームと同じだと考えていると痛い目を見る。


 昨晩のワイバーンもそうだ。


『西の魔王』が連れているのは、主にアンデッドや獣タイプなどの西の森にいるモンスターが中心だったはず……


 ワイバーンはいなかった覚えがある。


 そもそも、ステータスだけ見れば、『西の魔王』よりもワイバーンのほうが強いのだ。


 それがなぜ『西の魔王』に従っているのか……


 わからん。


 けど、面倒なことになってるんだろうな……


 気を引き締めていこう。

 

「──誰かぁぁっ!!」


 そのとき、森の奥から人影があらわれた。


 ルナ、マイア、リーゼが身構える。


 3人には『西の魔王』のことを、事前に伝えてある。


 だが、俺の知っている情報と現実の差異があった場合は困るため、基本的なスペック(どんな攻撃を使ってくるかなど)と容姿を教えてある。


 もしも『西の魔王』が現れた場合は、すぐに攻撃できる状態だが……


 近づいてきたのは……女性だ。


 質素な色のエプロンドレスを着ている。


 バーラの街の住民のようだ。


 あ、その後ろから、モンスター・デッドアニマルが追ってきている。


「『フレア』!」


 リーゼが魔法を発動させる。


 杖の先から飛び出した火球は、デッドアニマルに直撃して燃え上がった。


 マイアが女性に駆け寄る。


「大丈夫ですかっ?」


「は、はい……

 ありがとうございます……」


 追われていたのは若い女性だった。


 見た目は10代後半くらい。


 薄茶色の髪を後ろで結んでいる。


 素朴な顔立ちで、少し気弱そうな印象を受ける。


 必死に逃げてきたのか、泥で汚れた服はところどころ破けていた。


「でも、どうしてこんな場所に?」


「実は……」


 彼女は森の奥のほうに視線を送った。


「この先から?

 もしかして、『西の魔王』にさらわれた方ですか?」


 ルナの問いかけに、女性がうなずく。


「隙を見て、逃げて……

 それで、モンスターに追われて……」


「そうだったんだね!

 でも、もう大丈夫!

 ボクたちが全部やっつけるから!」


「あ、ありがとうございます……」


 マイアの言葉を聞いて女性の表情が和らぐ。


「じゃ、一度街へ戻りましょうか」


 リーゼの提案。


 さすがに人質を抱えての戦闘は避けたいからな。


「賛成よ。

 帰りも同じ並びで──」


「ま、待ってください!」


 リーゼとルナの会話に保護した女性が割り込んだ。


「このすぐ先に、捕まった人たちがいるんです!

 見張りは私を追いかけてきたモンスターだけでした!

 今なら助けられます!」


 ふむふむ……彼女の言葉を信じるなら、このまま進めば他の人質も助けられる……ということだろう。


 しかし、この提案が『ヴレイヴワールド』と同じなら、よくない展開になるな。


 そもそもこの女性のキャラは……


「助けよう!

 人質の人たち、きっと怖い思いをしてるよ!」


 マイアが女性の案を後押しする。


「むぅ……それは、そうだけど……」


 渋っているのは、リーゼ。


 魔法をそこそこ使っているからな。


 何かあった際に魔力が切れないか心配しているのだろう。


 ルナは……考え中だ。


 今回の任務は、『西の魔王』の討伐だが、それには人質の救出も含まれているため、先に人名を優先すべきと考えているようだ。


 俺は……どうすべきか。


『ヴレイヴワールド』と同じ展開なら、どちらを選んでも、人質の命は無事だ。


 しかし、街へ戻るほうを選択した場合、とある事情で、街に戦力を分散しないといけなくなる。


 まあ、ワイバーンのこともあるので、すべてが想定通りに進むとは限らないが……


 ならば……


「助けられるなら、助けにいったほうがいいんじゃないか?」


 俺はルナにそう伝えた。


「……わかりました。リーゼ、魔法の行使は最低限に……先へ進みます」


「りょーかい」


「リーゼの分まで、ボクががんばるよ!」


 方針は決定したようだ。


 ルナが逃げてきた女性に伝える。


「人質を助けに向かいます。あなたは彼の近くにいてください」


「は、はい……」


 どうやら、俺が逃げてきた女性を守る形になりそうだ。


 まあ、守らなくても大丈夫なキャラクターなんだけどな。


 アクシデントはあったが、イベントは進んだ。


 道は間違っていないようだ。


 俺たちは、人質を助けるため、さらに森を進んでいった。

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