第34話 次なる冒険の地へ

 ヘイムダル王国の王都を出立して数時間が経過した。


 王都からはずっと馬車の荷台だ。


 乗ってみてわかったが、馬車での移動ってすごい揺れるんだな。


 その揺れ方も不規則。


 だからなのか、少し気持ち悪くなってきた。


 これ、『ミツキ』じゃなかったら、絶対吐いていたと思う。


 ちらりと同乗者である少女たちを見る。


 ルナとマイアは涼しい顔をしていた……


 やはり中学生とか高校生くらいの年で冒険者になる子は違うなー……


 と思ったが、


「うう……気持ち悪いよぉ……」


 リーゼはダメそうだった。


 顔を青くして、ルナに膝枕してもらっている。


 定期的に回復魔法の『ヒール』をかけてもらわなければ、吐いてしまいそうになるらしい。


 狭い荷台で「オロロロロ……」とイロイロなものを出してしまったら、馬車が使い物にならなくなるので耐えてもらっている。


 それにしても、リーゼって設定上、貴族の令嬢だったはずなんだけど……


 馬車にも乗っているはずだが、乗りなれてなかったんだろうか?


 目的の町はしばらく先だ。


 頑張ってもらおう。


 さて、ただこうして揺られているのも手持ち無沙汰なので、確認をすませておこう。


 俺は、『アイテム欄』……ということにしている空間の割れ目から、地図を取り出した。


 王都で買った地図だ。


『プレイヤーデータ』を参照できれば、『ヴレイヴワールド』の世界全体のシルエットと、自分がどこを通ったか表示されるのだが、開けないので別で買うしかなかった。


 その地図だが、ヘイムダル王国の領土と、隣国との境界くらいしか描かれていない。


 しかも、ところどころ縮尺がおかしい。


 記憶にある『ヴレイヴワールド』の地図と、町や村の場所・その道中の距離が間違っている。


 測量がそこまで発達していない世界だという設定をもろに受けてしまっているようだ。


 困る。


 困るが、記憶の中の地図も正確に覚えているわけじゃないので、こっちの地図に頼らざるを得ない。


 少なくとも、ヘイムダル王国を出るまでは頼るしかないな。


 近くの町で起こるイベントとか思い出さないと……


「そういえば、ずっと聞きたかったんだけど……」


 隣に座るマイアも、俺の広げた地図を見ていた。


「ミツキはどこから来たの?」

 

 日本から。


 と、答えるわけにはいかないので、別の答えを伝える。


「覚えてない」


『ヴレイヴワールド』がプレイヤーとして扱うこのキャラ……俺だと『ミツキ』に当たるキャラの初期設定を教える。


「本当に?」


「本当に」


「むー」


 マイアは少しだけ唇を尖らせた。


 たぶん、俺が意地悪していると思ったのだろう。


「わかった。それじゃあさ、どこに行くの?」


「どこ、か……」


 この世界のことを知りたくて、王都を飛び出したわけだが、最終的な目的地は決めてなかったな。


 このままストーリー通りに進めば、次の町ということになるが……


 たぶん、マイアが聞きたがっているのは、その先だよな。


 世界を知りたいなんて抽象的なものではなくて、もっと具体的な旅の目的……


『ブレイヴワールド』のストーリーに従っていけば、冒険者としての名声を高めながら、やがて『魔王』の復活の兆しがありとわかり、その『魔王』を倒しにいく流れになる。


 その『魔王』は再び倒すが、その力はかつての四天王だった『ピエス』が吸収。


 さらに凶悪な『新生大魔王』として、プレイヤーたちの前に立ちふさがる──予定だった。


 倒しちゃったからな、魔王ピエス


 中盤以降のストーリーがどうなるかわかったものじゃない。


 それに、俺が知っているのは、ゲームの『ヴレイヴワールド』であって、この世界はそことはまた違う形で進んでいる。


 そこをはっきりさせるためにも、この世界のことを知っている奴に会いたいのだが……


 そんな都合のいいキャラなんて……


「あ、いた」


 ひとりだけいた。


 あのキャラクターなら、この世界のことも知っているだろう。


 すでにミツキも会っているキャラだ。


「女神に会いにいこう」


 プロローグの部分で出会った女神。


 実は『ヴレイヴワールド』のストーリーでは、中盤以降に会えるイベントが設けられている。


 この世界でもまた会える可能性が高い。


 ……あのときは、思い切り頬をつねってしまったが、きっと許してくれるだろう。


「めがみ? めがみって女神様?」


「その女神様」


「会えるの?」


「会う方法は知ってるぞ」


「え……えええええっ!?」


 マイアがやたらと驚いていた。


 ルナも少しびっくりした顔をしている。


 リーゼは「うるさい……うっぷ」と変わらずに気持ち悪そうにしていた。


 すまない、騒がしくして。


「とりあえず、町とか村とかを進んで冒険者として稼ぎながら、女神に会いに行こう。みんな、いいかな?」


「ミツキが決めたことなら、文句はありません」


「う、うん。お任せするよ」


「な、何でもいい……うっぷ」


 3人の同意……ひとりは明らかに聞いていない気もするが……この旅の具体的な目的は決まった。


 このままストーリーを進め、女神に会いに行こう。


 そして、この世界のことを教えてもらおう。

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