幕間 とある少女たちの、存在した会話


〇ルナ、マイア、リーゼ視点

〇少女たちの雑談


 時間は旅立ちの少し前。


 ミツキがピエスを倒した翌日までさかのぼる。


 ピエスとの激戦からの祝勝会(冒険者は強制参加)を経て、へとへとになったルナ、マイア、リーゼは、ぐっすり寝て昼過ぎに目を覚ました。


 そして、3人は宿屋にある食堂で遅めの昼ご飯を食べていた。


 ウサギ肉の照り焼きを一口食べ、リーゼがつぶやく。


「アイツ、やっぱり化け物だったわね……」


「それはどちらのこと? ミツキ? それとも『魔王軍』のほう?」


「両方……って言いたいところだけど、この場合、ひとりよね……」


 ルナの問いかけに、リーゼは明確に答えはせず、さらにウサギ肉を口に運ぶ。


 うまっ、と呟きが漏れる。


 ホーンラビットの肉は、ヘイムダル王国の王都にいればよく手に入るが、それでもお昼時をすぎた食事に出てくることは稀だ。


 大体が昼食の時間に食べきられてしまう。


 これもどこかの誰かが乱獲したおかげよねーと思いながら、リーゼは食事を続けた。


「ミツキ、すごかったもんね!

 いくら、冒険者のみんなが手を貸したからって、まさか一撃でやっつけちゃうなんて!

 本当にびっくりしたよ!

 あのとき、運よく目が覚めてよかったー」


 額に「×」の形に布を貼り付けたマイアは、嬉しそうにしながら、イノシシ肉を頬張っていた。


 ちなみにマイアが額に貼っている布には、薬草が入っており、傷の治療に役に立つ。


 本来なら、ルナの回復魔法で直せる傷だが、昨日はルナが疲れていたため、応急処置で薬草を貼り付けたのだった。


「『魔王軍』に思い切り殴られて、おでこの傷一つで済んでるアンタも、たいがいだけど……」


「ふっふん! 頑丈さには自信があるからね!

 って、ボクのことはいいよ。

 それよりも、ミツキ。

 ボクたちが手も足も出なかった相手を一振りだよ!

 どれだけやればそんな強くなれるのさ!」


「本人に聞けばいいじゃない」


「もう聞いたよ!

 そうしたら『剣が強かっただけ』って」


「剣?

 あの剣って、この国の国宝よね?」


「そうよ。

 本来ならずっと城の宝物庫に封印されている必要のあった宝剣ね」


 ルナは、スープを掬って口に運んだ。


 野菜のスープが、疲れた体に染みわたっていくのをルナは感じた。


「ヘイムダル王国の歴史は知っているわね?

 200年前、魔王を倒した勇者は、この剣が二度と振るわれないように、剣の力を封印して、国を建てた。

 それがヘイムダル王国の成り立ちだと言われているわ」


「確か、どこかの王族のお姫様とその勇者が結婚したのよね?

 その子息が、剣の封印を代々守ってきた」


「え?

 じゃあ、あの剣を使ったのってまずいことなの?」


「平時ならね。

 事件がなければ、封印は永久に解かれることはなかった……

 伝承には、また魔王のような存在が現れたときは封印を解けって書かれてたみたいだけれど……」


「へー、そうだったの。

 というか、ルナはそういう話、詳しいわよね」


「姫殿下に聞いたのよ」


「アレクシア様か……

 ルナはずいぶん気に入られてるものね。

 ミツキと会ったとき……

 あの馬車の護衛も、本当なら城の兵士がやるはずなのに」


「『シルバー』ランクの女性冒険者だから

 選んだとご本人がおっしゃっていたわ」


「それでも過剰な期待な気がするけど……

 その話はまたするとして、ミツキのことだったわね」


「そうだよ!

 あの剣が確かにチョーすごいのはわかったけど、その力を引き出せるミツキはすごいんだよ。

 剣は使い手の技量以上の効果は発揮しないもん!」


「同意するわ。

 あの勇者の剣は、少し触らせてもらったけど、とても動かせそうになかったもの。

 たとえ『凶神の使徒バーサーカー』でも、無理よ」


「そんなに重かったの!?

 けど、ミツキは思い切り振り切ってたよね?」


「あれは、剣の動きに合わせて魔法で補助していたのよ。

 だけど、あんな器用に魔法を使うなんてミツキじゃないとできないわ」


「リーゼでも難しいの?」


「認めたくないけどね。

 最大出力なら負けてない……でも精密さはアイツのほうが上ね。

 そもそも、ミツキはその状態で剣の『練術』まで使っていたわ。

 あんなことやってる奴、初めて見た。

 本当に何でもやってのけてくれるんだから」


「……そんな彼に、私たちは追いつけると思う?」


「すぐには無理じゃないかな?

 だけど、いずれは……」


「次に勝負することがあれば、勝つのはあたしよ」


「ふふふ、ふたりとも気負いしてなくてよかったわ」


 ルナは再びスープを口に運んだ。


「それで、どうする気?」


「どうって?」


「ミツキ、たぶん王都を出ていくわよ」


「どうして!?」


 マイアが、机を叩いて立ち上がった。


 お昼の時間はずれていたが、食堂には少し人がおり、何事かとこちらを見ている。


「マイア」


 ルナが座るように促すと、マイアが「失敗した……」というような顔をして腰を下ろした。


「で、でも……ミツキが出ていくって。

 なんで?」


 マイアがリーゼに問いただす。


「可能性の話よ。だけど、その確率はかなり高いわ。

 だって、アイツを満足させるようなこと、王都にはないんだもの」


「満足って……そんなこと」


「残念だけど、事実ね」


「ルナまで……」


 リーゼが、ニンジンを刺したフォークを、マイアに向ける。


「考えてもみなさい?

 アイツは200年前の勇者が倒した『魔王軍』の四天王を倒したのよ。

 そんな偉業を成し遂げる奴が、辺境の国で冒険者やって、満足するわけがないわ」


「でも……ヘイムダルは、勇者が作った国なんでしょ?

 それならここにいたって……」


「ここよりも、強い奴が多い国なんて山ほどあるわ。

 それにきっと『魔王軍』の生き残りだっているところもある。

 魔族は人よりも寿命が長い奴のほうが多いからね。

 冒険者として名声を高めたいのなら

 この国から出ていくのは必然よ」


 リーゼがニンジンを口に運ぶ。


 少し旬を過ぎていたのか、苦く感じた。


「彼は旅人だからね。

 この国に立ち寄ったのも、旅の途中……

 そうなれば、出ていくのも自然なことよ」


 ルナはスープを飲み終えた。


 かなり話し込んでしまったせいか、最後のほうはかなりスープも冷めてしまっていた。


「あ、でも……ミツキってここに来た時、

 盗賊の仲間って疑われてたよね?

 まだこの国から出すわけにいかないんじゃ……」


「そんな嫌疑なんて、とっくに晴れてるわよ。

 アイツ自身が盗賊を捕まえたしね。

 それに、王都を救った英雄を犯罪者として抑留してみなさい。

 下手したら暴動が起きるわ」


「うう……そうだよね……

 はぁぁ……せっかく仲良くなれたのにな……」


「別に悲しむことないわよ」


「どういうこと?」


「鈍いわね。

 アイツが旅立つなら、ついていけばいいじゃない」


「え……えええっ!?

 そ、それって……リーゼも王都を出て……

 パーティを抜けるの!?」


「必要とあらばね。

 もっとも、今回の場合はマイアが抜けることになるかもしれないけど」


「どうしてボクが?

 リーゼがミツキについていくんでしょ?

 ボクとルナは王都に残るんだから

 これからも一緒にパーティを……」


「…………」


「もしかして、ルナ……」


「私も、ミツキについていくわ」


「ええええっ!?」


「ここに残っていても、私はこれ以上強くなれない。

 冒険者としても輝けない。

 でも、彼について世界を見れば……絶対に面白い未来が待っている」


「だそうよ。マイアはどうするの?」


「ずるいよ、ふたりとも!

 ボクだってついていきたいの我慢して、ここに残ろうと思ってたのに!」


「なら、決定ね」


「ええ。『グレイスウインド』は継続。

 もちろん、ミツキも加えた4人でね」


「ボクも賛成!」


「それならそれと、王都を出る準備をしておきましょうか。

 ふふふ、冒険者ギルドの連中、どんな顔するかしら」


「待って、リーゼ。その前にはっきりさせておきたいことがあるわ」


「……何よ」


「あなた、ミツキのことをどう思ってるの?」


「化け物って言ったはずだけど……?

 わざわざ聞くってことは……」


「そういうことよ。ちなみに私は、彼に興味がある」


「あ、ボクもボクも! ミツキはどれだけ強いのか興味があるよ!」


「マイアはともかく……ルナがそんなこと言うなんて、

 よほど気に入ったのね」


「それで、あなたは?」


「……うーん、一番近い感情といえば……観察対象かしらね。

 アイツの隣にいれば、面白いし……

 何より、もっと強くなれそうな気がするわ」


「……わかった。それなら、質問を変えましょう。

 リーゼには、まだ詳しく聞いてないこともあったし」


「?」


「あなたがミツキと決闘したときのこと、話してくれないかしら?」


「な、なんで今さら!?」


「言ったでしょ。私は彼に興味があると。

 だから、気になるのよ」


「あ、ボクも知りたいかも。

 リーゼが魔法でボコボコにされたってところしか聞いてないから」


「ボコボコになんてされてないわよ!

 アイツが強かったのと、あたしが負けたのは認めるけど……

 本当にそれだけよ!」


「それなら、話してもいいはずニャー」


「!?」


「そうニャー話すニャー……」


「アンタたち……!」


「ふふふ、冗談はさておき。

 本当に単純な興味なのよ。

 誰にも告げ口したりしないし、リーゼをおとしめたりもしない。

 だから、教えてくれないかしら?」


「うんうん、お願い!」


「……チッ、わかったわよ。

 その代わり、アンタたちもミツキと2人きりになったとき、

 何をやっていたか、ちゃんと話しなさいよ」


「わかったわ」


「もちろんだよー!」


「よし……って、言っても、基本的には前に話したとおりよ。

 お姫様の馬車を襲った盗賊がいたでしょ?

 アイツらの仲間かどうか確かめるために、アタシはミツキに戦いをけしかけたの。

 あたしの実力ならそこらへんの盗賊なんかに負けないからね」


「リーゼって、すごい自信家だよね」


「ええ、そうね。相手が戦士タイプだったときのこととか、考えないのかしら。

 実際、ミツキは近距離戦もかなり強かったし」


「うるさいわね!

 アンタたちだって自分の腕に自信があるのは同じでしょう!?」


「わかったから、次どうぞ」


「ったく……ともかく、アンタたちと別れたあとに、

 ミツキを近くの森に連れて行って試したのよ。

 最初は小手調べで、簡単な炎の魔法とか使って、

 追い込んでからランク3の魔法を使ったわ。

 だけど、それもかわされていたの」


「かわされたってことは、ミツキも魔法をそれとも練術?」


「ううん。たぶんだけど、炎の檻で囲まれる前に、

 岩か風の魔法で逃げたんじゃない?

 あのときはそんなこと考えられなかったけど、ミツキならやりかねないわ」


「そうだね。魔法の使い方独特だもんね。

 あんなふうに魔法を回避に使う人、初めて見たよ。」


「ええ。けれど、使い方は参考になるわ」


「そうね。んで、とっておきの魔法も避けられて、

 あたしは……負けたのよ……」


「……リーゼ、あのときはミツキに負けたあと、

 スクラップベアに襲われたとしか言わなかったけれど、

 ずいぶんと完膚なきまでにやられていたのね」


「ぐぬぅ……ええ、そうよ!

 でも、あたし、ミツキ以外には負けてないから!

 アイツが化け物なだけだから!」


「『魔王軍』にも負けたでしょ?」


「あれはなしよ。一対一じゃないもの」


「そういうところは、こだわるんだねー」


「いいじゃないの!

 それで、ミツキと戦った直後に、スクラップベアに襲われたことは話したわね」


「ええ。けれどそこも魔法で撃退したとしか聞いてないわ」


「ミツキがどんな魔法使ったとかは、教えてくれなかったよね?」


「そうね。あの段階で言っても信じられないと思ったもの」


「ミツキのことだから、

 ランク3レベルの魔法を使って

 スクラップベアを仕留めたのでしょう?」


「いいえ。アイツが使ったのは、ランク1と2……

 もしかするとランク2の魔法すら使ってないかもしれないわ」


「ええ!?

 だってスクラップベアだよ?

 『ゴールド』の冒険者が束になってでしか勝てないモンスターだよ!?」


「信じられないしょ?

 だから、あたしも詳しく教えなかったのよ。

 いい? ミツキはまず水の魔法を使ったの。

 最初はなんでそんな攻撃力のない魔法ばかり使ってるのかと思ったわ。

 だけど、違ったの。

 ミツキの狙いは、スクラップベアの足を奪うことだった」


「足を?」


「そうよ。考えてみて。

 スクラップベアは巨体な上、俊敏性も高い。

 だけど、それは長所でもあり、短所でもある。

 巨体を支えるには、しっかりした足場も必要なの。

 ミツキがまき散らした水で、スクラップベアは簡単に転倒したわ」


「そっか……水魔法で滑りやすくしたのね」


「そのとおりよ。

 まさか、魔法を直接の攻撃や防御以外の方法で、咄嗟に使える奴がいるなんてね。

 そこからは一方的だったわ。

 ひっくり返ったスクラップベアの頭にランク1の魔法の岩を

 雨みたいに降らせたの。

 いくらスクラップベアの防御力が高いって言っても、

 毛皮に覆われていない部分は存在する。

 そこを狙えば、倒せるってわけ」


「確かにそれなら『シルバー』……

 いえ、『ブロンズ』の冒険者でもスクラップベアに勝てる。

 でも、あくまで理論上の話よ。

 スクラップベアがどういう動きをするかで変わってくる。

 なのに、実戦でやってのけるなんて……」


「やっぱりミツキはすごいよ!」


「そうね。さすがのあたしも敗北を確信したわ。

 こいつには敵わないってね」


「ミツキへの興味がさらに強まったわね。

 それで、リーゼはそのとき何をしていたの?」


「え?」


「決闘してすぐに襲われたのでしょう?

 森に隠れていたの?」


「……抱えられていたわ。

 荷物みたいに」


「…………ミツキは片手がふさがった状態で、勝ったのね。

 本当にすごいわ」


「はっきりお荷物を抱えてって、言いなさいよ。

 自覚してるんだから、気を使われると逆に困るのよ!」


「まぁまぁ……なんともなかったなら、よかったよ」


「そうね。でも、怖かったわ。

 魔力切れた状態でスクラップベアに会ったから、

 恐怖で完全に足に力が入らなくなっちゃったし……

 それに、も──」


「も?」


「……何でもないわ。

 忘れてちょうだい」


 リーゼはローブの裾を押さえた。


(言えない!

 助けられた挙句に下着を濡らすはめになったなんて……

 それにあのあと、あたし、アイツに乾かしてもらって……!?)


「リーゼ? 大丈夫? なんだか顔が真っ赤だよ」


「な、なんでもないわ」


「もしかして、ミツキに抱えられて王都まで帰ってきたのと

 何か関係があるのかしら?」


「本当に何でもないったら!」


 リーゼは残っていた料理をまとめてフォークに突き刺し、一気に口に運んだ。


「ごちそうさま! ちょっと休憩!」


 リーゼは立ち上がると同時に食堂の出入り口に向かった。


「休憩って……食事は休憩じゃないの?

 というか、どこいくの?」


「お花摘みよ!」


 食堂から出ていく背中を、ルナとマイアは不思議そうに眺めていた。




 リーゼが戻ってくると、テーブルにはフルーツの詰め合わせが置いてあった。


「なんでこんなものが……」


「私が頼んだよ。まだまだ長くなりそうだから、お茶受けにいいと思って」


「そう……でもあたしの話はさっきので終わりよ。

 だから次は──」


「はいはい! ボクが話すよ!

 ミツキのどこがすごいかだよね?」


「違うわよ。ミツキとふたりきりのときに何があったかよ。

 マイアはミツキと一緒に、大きい穴に落ちていったことがあったわよね?」


「あったあった。

 いやー、あのときは本当に死ぬかと思ったよ。

 ミツキが風の魔法で落ちる速さを緩めてくれなかったら、

 ぺちゃんこのカエルになってたと思うんだ」


「風で落下速度の調整したのね。本当に器用な使い方をするわ」


「そうよね。

 それで、その下がダンジョンになってたってのは聞いたけど……」


「うん。変なつくりの壁でできたダンジョンでね、

 出口を探して進んでいったんだけど……出てきたんだよ、

 ゴーレムって名前のモンスターが!」


「ゴーレムって魔法で動く人形よね?

 種類によって弱点が違うし、

 頑丈な体に強い魔法を使うやつもいるって聞くけど……

 よく倒せたわね」


「ミツキがね、

 頭っぽい部分と体っぽい部分につなぎ目があるから、

 そこを狙えって教えてくれたんだ」


「アイツ、戦闘に関しては本当にイロイロ知ってるわね……」


「ええ、本当に」


「でね、ミツキが魔法でゴーレムの注意を引きつけてくれてたから、

 ボクがゴーレムをやっつけていったの。

 強いモンスターのはずなのに、バッタバッタとやっつけられてね!

 すごく気持ちよかったよ。

 ミツキとは相性いいんだなーって思ったんだ!」


「マイアは前衛で攻撃するタイプだからね。

 後ろで考えながら魔法が使うミツキとは、合うのかもしれないわね」


「……ミツキの場合は、

 練術も魔法も使えるから、誰と組んでも進化を発揮すると思うけれど」


「何? 自分のほうがミツキと相性がいいって対抗してるの?」


「違うわ。事実を言ったまでよ」


「ふーん……ま、いいわ。

 それで、マイア。

 そのあとは何があったの?」


「えっとね……ゴーレムを倒してる最中に、小部屋を見つけたんだけど……

 そこにあった仕掛けを触ったら、

 ダンジョンの中で1番強いゴーレムが3体も一気に出てきたんだ」


「それは、大丈夫だったの?

 ゴーレムって複数集まると一気に倒しにくくなるって言うけど……」


「もちろん、大丈夫だったよ!

 ミツキってそこでもすごくてね、

 土の魔法でお互いのゴーレムのことを見えなくして、

 同士討ちするようにしたの!」


「なるほど、考えたわね。

 あまり索敵能力の高くないゴーレム相手なら、それも可能か」


「機転の利かせ方が恐ろしいわ。

 敵をこちらの攻撃として使うなんて……

 けれど、成功すれば、囲まれた状況からでも切り抜けられる可能性が上がる」


「そうなんだ。そうやって混乱している間に数を減らしていって……

 少なくなってきたところで、

 ミツキが魔法で注意を引いて、

 ボクがやっつけていったの!」


「へー、そんな冒険をしていたのね」


「うん! でも、ただ戦ってただけじゃないよ。

 ボクらを罠にはめた仕掛けにはご褒美が用意されてたの。

 ダンジョンの宝なんだけど……

 ほら? 『魔王軍』との戦いでミツキが使ったでしょ?

 鏡みたいな盾」


「あれって、アンタと一緒に攻略したダンジョンにあったの!?」


「そうなんだよ!

 だから、嬉しかったんだ。

 あそこで一緒に冒険して手に入れた思い出が、

 ミツキを助けるための力になってくれたって。

 まぁ、ボクはそのあと疲れて寝ちゃったんだけどね……」


「マイアは、ミツキに背負われてダンジョンから出てきたものね」


「うん。でも、ボク、誰かに背負われたことなんてなかったから

 とっても嬉しかったなぁ。

 男の人ってこんな感じなんだーってなったよ。

 ふふふ……」


「……なんだか、ミツキとはずいぶん距離を縮められたようね」


「マイアは、少し天然なところがあるから。

 行動で素直に気持ちを伝えられるのね……」


「ん? ふたりともどうしたの?」


「「何でもないわ」」


「そう?

 それじゃあ、ボクのお話はおしまいです!

 またミツキとふたりで冒険したいなー」


「……自然体ってのも恐ろしいわね」


「そうね」


「じゃあ最後はルナの番だね!」


「ええ。といっても、私はふたりと違って、

 ミツキと一緒に何かをしたってことはないわ」


「そんなこと言って。

 偽物の『魔王軍』に騙されかけたあと、

凶神の使徒バーサーカー』の反動で動けなかったときに

 ずーっと一緒にいたじゃない」


「そうだよ。

 あのときは何の話をしてたの?」


「あなたたちほどの冒険譚はないわ。

 ただ……頼んだだけ。

 普通の冒険者になりたいって。

 だから協力してほしいと」


「そっか。ルナにとっては、それが1番大事だもんね」


「あのあとからだったわね。

凶神の使徒バーサーカー』を手懐ける特訓をすることになったのわ」


「そうよ。だから、ふたりきりの特別な出来事なんてなかった。

 だけど、私にはそれだけでよかった。

 今まで『凶神の使徒バーサーカー』のことを、

 正面から受け止めてくれる人はいなかったから。

 ミツキに会えて本当によかったわ」


「なるほどね。ミツキには悩みを1つ解消してもらったわけか」


「うん。きっとボクの冒険よりもすごいことだよ」


「そうね、そう思っているわ。だから、あえて言うわね」


「「?」」


「負けないから」


「「!?」」


「さっきも言ったけれど、私はミツキに興味があるの。

 たとえあなたたちが特別な思い出を持っていても、

 負けない自信があるわ」


「ふふん、アンタがそこまで本気なんてね。

 ま、いいんじゃない?

 あたしはそこまでじゃないけど、

 ミツキがすごい奴だってのは認めてるし。

 仲良くやってみせるわ」


「ボクだって、もっとミツキと仲良くなるもん!

 負けないよ!」


「ふふふ、あなたたちの本音を聞けてよかったわ。

 それじゃあ、改めてミツキの旅に加わることをパーティの指針としましょう」


「そうね。楽しい旅になりそうだわ」


「面白いことあるといいねー」


 3人の少女は笑いあったあと、用意されたフルーツに手を伸ばしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る