第33話 そして、旅に出る
ピエスとの戦いから3日後。
俺は王都を去ることにした。
この世界は、俺が作った『ヴレイヴワールド』に酷似しているが、まったく別の世界だということがおぼろげながらわかってきたからだ。
いったい、いつからゲームではない世界に来たのかはわからない。
そういったことを調べるために、旅に出ようかと思う。
それにしても……
異世界転生もののゲームを作っていて、本当にファンタジーの世界に連れてこられるとはな……
せめて、全然違う世界なら早々に気づいたかもしれないが、ここは『ヴレイヴワールド』に、そっくりだ。
世界の成り立ちも、そこにいる人々も、魔法や練術などの仕組みも。
誰かが狙って連れてきたのか?
そのあたりも旅の途中で見定めることになるだろう。
そんな俺の装備は、王都で一番いいものにそろえられている。
ピエスを追い払ったお礼だそうだ。
勇者の剣は、お姫様──アレクシアに返した。
あれはこの国の礎となったものだからな。
本来は持ち出すなどできない代物。
アレクシアには無茶を言ってしまった。
本人は、
「ミツキ様は、この国の恩人です! 剣はお礼にさしあげます!」
といった感じで、俺に渡そうとしてきたが。
ダメだからな。
ゲームなら、ストーリーの終盤まで出していいものじゃないからな、それ。
きっとこっちの世界でもむやみに出していいものじゃない。
そんなお姫様とのやり取り終えたあとは、冒険者ギルドにこの国を出ることを伝えた。
「いやだぁぁぁぁ! 待ってくださいよ~! ミツキさんの噂を聞けば、冒険者さんがいっぱいこの国に来て、ギルドがにぎわうんです~! 待ってよ~! 見捨てないで~!!」
別れ話を切り出された恋人のような引き止め方をされたが、最終的には納得してくれた。
その代わりと言ってはアレだが、俺がピエスと戦う前に使っていた剣は置いていくことになった。
元『魔王軍』四天王を倒した冒険者の剣として、ギルドに飾るらしい。
この国でも売っている銅の剣なんだけど……
ギルドにいた冒険者とも別れの挨拶をすませた。
それからは、宿で挨拶。
「ひぐ……ずっと、いてくれるって言ったのにぃ……」
ミアに泣かれてしまった。
ずっと俺の世話をしてくれていたからな。
お礼もかねて、今まで取ってきたウサギやイノシシの肉で、盛大にパーティーを開いた。
最初は泣いていたミアも、やがて笑顔になってくれた。
「旅のご無事を祈っていますねぇ! それと、疲れたらいつでも帰ってきてくださいねぇ!!」
そうやって送り出してくれた。
最後までいい子だった。
さて、旅に出ることだが、当然、ルナたちにもその話をした。
「そうですか。ミツキなら、当然ですよね」
「うんうん、違う町に行ったほうが、世界のためにもなると思うよ」
「ま、頑張ればいいんじゃない?」
それ以外にも少し言葉をかわしたが、それ以上は何も言わなかった。
彼女たちとは、こっちの世界で一番長い時間を過ごしたが、それでも2週間程度、別れの挨拶もこのくらいが妥当なのかもしれない。
『ヴレイヴワールド』では、彼女たちはパーティとしてついてきてくれるが、その話もなかった。
ピエスの登場もそうだったが、この世界は『ヴレイヴワールド』のようでいて、まるで別世界だ。
ルナたちとは、ここで別れるようになってしまったのかもしれない。
俺と一緒にいて、あれだけ怖い目にあえば当然か。
ピエスが俺を狙っていたことは知れば、俺についてくるという選択肢もなくなる。
そんな感じで王都での人々との別れの挨拶を済ませた俺は、荷物をアイテム欄のような空間に突っ込んた。
俺の旅路だが、冒険者ギルドが次の町までの馬車を用意してくれるらしい。
その乗り場へと向かったのだが……
「遅い! 待ちくたびれたわよ!」
腕を組んだリーゼが現れた。
その後ろには、ルナとマイアの姿もある。
「3人ともどうしたんだ?」
「アンタについていくからに決まってるでしょ」
ルナとマイアもうなずいていた。
「……え? でも出ていく話をしたときに、そんなことは……」
「言ってないわ。けど、ついていかないとも言ってないわよ」
「ついていくと言うと止められそうな気がしましたから」
「それなら、無理にでもついて行ける場所で待ち伏せしちゃおう! ってことになったんだ!」
リーゼだけでなく、ルナとマイアもついてくる気らしい。
危険な目に合う可能性も高い旅なんだが……
「いいのか?」
「はい。私はミツキと一緒に行きたいんです!」
「ボクも! きっと面白い旅になるなー!」
「いい? 旅をして強くなって、絶対にアンタを追い抜いてやるんだから!」
三者三様で旅に出る理由はあるようだ。
それなら、拒む必要はない。
ゲームのシステムではなく、彼女たちの意思なら、それを受け入れよう。
「そうか。ありがとう。これからもよろしくな」
「はい!」
「うん!」
「わかったわ!」
差し出した手に、3人が手を重ねる。
この世界を解き明かす、旅が始まる。
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