第31話 3分でわかる、魔王(予定)を倒す方法

 俺が駆けつけると、リーゼはいきなり泣き出した。


 そうだよな。


 怖かったよな。


 よしよし、あとは俺が引き受けるから。


 今は魔力の回復に努めてくれ。


「バカ! なんで来たのよ! あたしたちだけで仕留めるつもりだったのに!」


 あれ、なんか怒られた……


 まあ、リーゼの性格を考えればわからんでもないけど。


 とはいえ、ピエスの相手をするのは無茶だと思う。


 これがイベント戦闘である場合、条件を満たさないと撤退させれないし、そうでなくても、ある程度のステータスがないと、勝負にならないからだ。


 現に、俺が魔法を使うタイミングまで、ピエスのダメージはゼロだった。


 正確には、ピエスの高い防御力をかいくぐって、ダメージを与えられても、自動回復ですぐに元通りになってしまうからだ。


 だから、その防御力と回復力を常時突破できるようにならなければ、本来は挑んではいけない相手である。


 そんな終盤のボスを相手にして、まだやられていないのだから、ルナたちも大したものだ。


「よく頑張ったな」


「…………っ!!」


 リーゼが号泣し始めた。


 なんで?


 俺は泣き止ませるつもりだったのに。


「ごめんなさい……あたしたち、足手まといで……」


「……どういうこと?」


「腕! あたしたちのせいで……なくして……」


「ああ……」


 ルナの魔法でなんとかくっついたが、間に合わなかったら、俺が腕がなくなっていたって話か。


「あたしたちが弱いせいで……ミツキだけなら、勝てたかもしれないのに……」


「いや、そんなことはないぞ」


 あの戦いの勝算は、最初からゼロだ。


 今だって、勝てるかはわからない。


「俺のことは大丈夫だから。今は休んでてくれ」


 リーゼは泣きながらも、大きくうなずいてくれた。


 とりあえず、リーゼはこれで大丈夫だろう。


 俺は、連れてきた冒険者にリーゼを下がらせるように指示した。


 この冒険者たちは、こちらへ来るときに、冒険者ギルドに行って呼んできたのだ。


 正確には、王国の姫であるアレクシアの勅命として、この戦場に連れてきた。


 さすがはお姫様の命令。


 効果は絶大だった。


「ミツキさんが行くのも大きいと思いますよ」


 ギルドの受付の人はそう言ってくれたが、俺がしたことなんて、ウサギとイノシシの肉をプレゼントしたくらいだ。


 死ぬかもしれない戦場に向かわせるには弱いだろう。


「そういうことじゃないと思いますけど……」


 受付の人はなぜか苦笑していた。


 ともあれ、援護してくれるのはありがたい。


 今回の勝負は、一発限りだからな。


 失敗はできない。


 俺は、倒れているルナとマイアも戦場から下がらせるように冒険者へと指示を出す。


 ちらりと見たくらいだが、ふたりの容態は治療できる範囲だ。


 よかった。


 それじゃあ、やるか。


 ──ガンッ!


 火柱の近くまで行くと、その周囲を囲んでいた石柱が一瞬で破壊された。


「よぉ、待ってたぜ!」


 元『魔王軍』四天王にして、次の魔王であるピエスが不敵な笑みを浮かべて、炎の中から出てきた。


「俺としては、待たずに帰ってほしかったんだけど……」


「そんなつれねえこと言うなよ! テメェはここらへんで最強なんだ。オレの相手をするのは、当然だろ?」


 なんだ、その理屈は。


「帰ってくれるつもりはないんだな?」


「ああ。テメェと戦うまでは帰らねぇ!」


 つまり……勝ち負けは二の次ってことか。


 それなら、やりようがある。


「わかった。じゃあ、相手をしよう。ただし──」


 俺は右手を高く掲げて合図を送った。


「相手をするのは、王都にいるすべての冒険者だけどな!」


 その直後、周囲の森のいたるところから、炎の弾が飛んでくる。


 フレア。


 ランク1の炎の魔法。


 だが、冒険者ギルドにいた魔法を使える冒険者がすべて同時に放つと、圧巻だ。


 炎のシャワーのように戦場にいるピエスへと降り注いでくる。


「アァン? こんな魔法がオレ様に効くと思ってんのか!」


「思ってないさ」


 魔法はあくまで目くらまし。


 本命は別にある。


「『加速演舞』!」


 身体の動きを加速する練術を発動して、ピエスに急接近し、剣を振るう。


「『剛炎斬』!!」


 炎をまとわせた斬り下ろしの斬撃。


 一撃だけだが、その分威力が高い。


 ──ズキン。


 くっ……右腕の斬られた部分が痛む。


 まったく、リアルな痛みは勘弁してほしい。


「そんなもん……!」


「『ウインド・ウォール』!!」


 ピエスの反撃は風の魔法で距離を取る。


「そんなことしても、すぐに追いついて……っ!?」


 ピエスが突然、後ろを振り向いた。


 そこには、王都の冒険者が放ったランク2の炎魔法があった。


「チッ! こんなザコ魔法に……」


 ピエスが腕を振って魔法をかき消す。


 設定的に与えられているピエスの弱点は、炎だ。


 だから、少しでも強めの魔法が来ると、ピエスの感知能力が反応してしまうのだ。


 その隙を逃さず、俺は再び『剛炎斬』で斬りこんだ。


「クソッ!」


 反撃はすかさず、風の魔法で退避。


 その間にも、ランク2の炎魔法の一撃と、ランク1の炎魔法の雨がピエスを襲う。


「うっとうしいな!」


 ピエスは苛立ったように腕を振っている。


 これでいい。


 次の段階で一気に仕留める!


「どうした? 早く俺を倒さないと一生続くぞ?」


 ハッタリだ。


 長く戦闘を続けると、冒険者たちの魔力が持たない。


『ブロンズ』であっても、ランク1のフレアを撃てるのは、1日に5発程度だ。


 ランク2ならば、さらに数が少ない。


 すぐに限界を迎える。


 これは、賭けだ。


 ピエスがあの技を撃ってきてくれるか……!


「なら、まとめて斬り飛ばしてやる!」


 ピエスが背中の大剣──『クスィフォス・アポリュオン』に手をかける。


 来たっ!


 俺はすぐさま、「オープン」と叫ぶ。


 時空の割れ目に現れた『アイテム欄』から、『鏡』と『布が巻かれた長物』を取り出す。


「オラァァッ!!」


 ピエスが再び飛ぶ斬撃を放った。


 俺の右腕を吹き飛ばした技だ。


 黒くとげとげしい半月状の刃が、周囲の空間を引き裂いて襲ってくる。


 直撃すれば、俺はおろか、背後の森すら吹き飛ばすだろう。


 だから、これを使う。


 向かってくる斬撃に『鏡』──『破邪の鏡盾』を掲げる。


 マイアとの遺跡探索で見つけたレアアイテムだ。


 その効果は、『どんな魔力での攻撃を1度だけ跳ね返す』。


 ──!


 甲高い音が鳴り響き、鏡の盾は粉々に砕け散った……


 だが、飛んできた赤黒い斬撃は、ピエスへと向きを変えた。


 ピエスの顔に驚きの色がのぞく。


「ほう……面白いおもちゃを隠し持っていたか。だがな……」


 ピエスが再び構える。


 同じ斬撃で跳ね返した斬撃を相殺……


 いや、かき消しつつ、俺を周囲もろとも消し飛ばすつもりだろう。


『破邪の鏡盾』は1度きり。


 もうピエスの攻撃を跳ね返すことはできない──


「想定通りだ」


 俺は風の魔法を発動させ、跳ね返した飛ぶ刃の動きに追従した。


 そして、長物に巻かれていた布を取り払う。


 現れたのは、蒼く透き通るような輝きの大剣。


 人の胴体ほどもあるそれを俺は両手で持って──


「重っ!?」


 全然持ちあがらん。


 すべての装備品には、身に着けるのに適正なステータスが設定されている。


 その値を超えていれば、難なく使用できるが、満たしていなければ、それ相応の重量が加算される。


 要するに、俺のステータスはこの大剣を扱うのに、まるで足りていないということ。


 今までは剣にまかれていた布が、そのバッド効果を抑え込んでいたのだ。


 布を外さなければ剣の真価は発揮できない。


 そうすると今度は、剣が重くて振れない。


 ジレンマだ。


 しかし、それを解消する方法は存在する。


 俺は再び風の魔法を発動させる。


 剣の下から跳ね上げるように。


 途端にぐんと剣が持ち上がった。


 そう、ステータスの足らない装備は魔法である程度補助ができるのだ。


「ハッハ! 斬撃同士を消したあと、オレ様を斬り飛ばそうってか? だが残念だったな。これで終わりだ!」


 ピエスが2度目の飛ぶ斬撃を放つ。


 それは、1度目よりも巨大で鋭い。


 ぶつかれば、1度目の飛ぶ斬撃をかき消した上で、俺を斬り飛ばすだろう。


 今度は右腕だけでなく、体すべてを。


 だが……


 俺はさらに一歩踏み込み、飛ぶ斬撃に持っていた大剣を降り下ろした。


「何ッ!?」


 ピエスがさらなる驚愕に目を見開く。


 それはそうだ。


 ぶつかるはずだった、1度目の飛ぶ斬撃が掻き消え、俺の持つ大剣に吸収されたのだから。


 2度目の飛ぶ斬撃に、大剣を振り上げる。


 森のすべてを斬り飛ばすほどの強力な魔力の刃が、1度目の刃と同じく大剣に吸収されていった。 


 大剣の刃全体が白く強烈な輝きを放つ。


 俺は、風の魔法で大剣の動きを補正し、大上段からピエスに向かって降り下ろした。


 ──ガキィィィィィィィッ!!


 甲高い音がなり、切り結んだ剣同士の間に魔力の火花が散る。


「魔力を喰う剣なら、オレのほうが……!!」


 ピエスの目が雄弁に語っている。


 確かにピエスの持つ剣には、かなり強力なステータスが設定されている。


 さらに周囲の魔力を削り取るおまけつき。

 

 しかし、俺の大剣は、さらにその上を行く。


 なぜなら、この剣は『ヴレイヴワールド』の礎を築く剣──


 その名は『ディヴァイン・ヘイムダル』。


 ヘイムダル王国の建国の際に奉納された、勇者の剣だ。


 その刃は、吸収した魔力に応じて、攻撃力を高める!


 ──ビシィッ!!


 ピエスの剣にひびが入り、悲鳴のような音を立てる。


 決着は近い──


「オォォォラァァァァァァァァァァァァッ!!」


 ピエスの咆哮が空気を震わす。


 ……くっ。


 剣が押し戻される。


 剣の性能で優っていても、俺のステータスはピエスに遠く及ばない。


 装備がよくても、性能を引き出せなければ意味がない、というやつだ。


 だが、押し負けるわけにはいかない!


 ここには、仮想ではない、本物の気持ちで、俺を信じてくれている人がいる!

 

 俺は大剣の動きを補正する風の魔法に、炎の魔法を混ぜる。


 風で舞い上がった塵が、炎の魔法で着火。


 大量の酸素を得て、爆発を引き起こす。



「うおおおおおおおおおお────っ!!」 



 爆発の推進力を得た光を放つ大剣が、禍々しい剣ごと、ピエスを斬り裂いた!

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