第25話 事件後の処理

 冒険者ギルドの職員と、援軍の冒険者はすぐに到着した。


 マイアが頑張った結果だろう。


 そして男たちは、すぐに捕縛された。


 何でも、王都で指名手配されていた盗賊の一味だったらしい。


 大部分は捕まえていたが、逃げた奴もいたとのこと。


 ついでに言うと、このゲームにログインしてすぐに襲ってきた盗賊もその仲間だったようだ。


 そんな設定、心当たりはないんだけど……


 本当にAIのクエスト自動作成は便利な機能だ。


 現実的すぎて、ファンタジー世界が実在するみたいに思えてくるな。


 その後、男たちがアジトに使っていた遺跡にも踏み込んだ。


 アジトには見張りがいたが、王都の冒険者には敵わず、すぐにお縄となった。


 そこには、旅人や商人から奪ったと思われる金品なども大量に置かれていた。


 俺たちにやったように、『魔王軍』の名で脅して手に入れたものだろう。


 それをすべて回収し、冒険者ギルドで保管する。


 被害にあった者が名乗り出た場合、所有者だと確認できれば返還されるらしい。


 ちゃんと元の持ち主に戻るといいな。


 盗賊連中も捕まり、奪われた物も取り戻せた。


 これにて一件落着。


 したのだが……


「…………」


 ルナが離れてくれなかった。


 まだ体がきついのだろうか。


 設定では、『凶神の使徒バーサーカー』が解除されてから3時間くらい経てば、動けるようになっているはずなのだが……


「ルナ、ギルドの人たちがそろそろ引き上げるらしい。俺たちも王都へ戻ろう」


「そうですね……」


「…………」


「…………」


 動かない。


 リーゼやマイアのときみたいに、抱えたり、背負ったりする必要があるのかな?


 そのリーゼとマイアは、ギルドの援軍のほうへと行ってしまっている。


「アンタたちは疲れてるでしょ」


「面倒なことは、ボクたちに任せて」


 とのことだが、ルナはともかく、俺はそこまで疲れていない。


 そもそも、ゲーム内だから、疲労感も仮想のものだ。


 無理をしても問題ない。


 もっとも、ゲームのキャラクターであるルナたちに言っても伝わらないので、伝えていないが……


「……ミツキは、自分が自分でなくなる恐怖を感じたことありますか?」


 え? 急にどうしたの?


「深い意味はありません。ただの興味です。それで、どうなんですか?」


 うーん……こんな選択肢はなかったはずだけど……


 とはいえ、何か答えないと進まない気もするし……


「経験したことないから、なんとも言えないな」


「……そうですか」


「ただ……」


「…………」


「それも自分だと受け入れると思うな」


「受け入れる?」


「ああ。その自分でなくなる恐怖も受け入れる。受け入れて、どうすれば制御できるのかを考える」


「……制御できなかった場合は?」


「それでも、制御できるかを考える。合理的でも感情的でもいいから、少しずつでも制御できる方法を探す。そうすれば、恐怖もなくなっているはずだと思うぞ」


「そうですか……」


 ルナの顔が晴れない。


 ほしい答えではなかったか。


 深夜テンションで仕事をしてたときの対処法だしな……


 しかし……こういう質問には、やっぱり選択肢があったほうがいいな。


 正解でも間違いでも、キャラクターのわかりやすい反応があったほうがいい気がする。


 そうすれば、今の状況だって……


「なら、手伝ってください」


「何を?」


「私が、普通の冒険者になれるようにです」


 ルナはおそらく『凶神の使徒バーサーカー』をどうにかしたいようだ。


 確かに、戦闘中、頭に血が上っただけでいつも暴れていては、冒険者なんてやっていけない。


 特にルナのキャラクターコンセプトは、前衛で盾を持って回復魔法を駆使して戦うパラディンだ。


 盾役と回復役が、HPを削りながら暴れまわっていては、役割崩壊もいいところだろう。


「ミツキにしかできません。お願いします」


「……わかった。時間があるときにな」


「はいっ!」


 ルナの顔がようやく晴れた。


 よかった、選択肢は間違っていなかったようだ。


 しかし、気になることもある。


 ルナから『凶神の使徒バーサーカー』をどうにかしてほしいとお願いされるのは、もう少しあとのストーリーだったはず。


 王都にいる間にお願いされるとは……


 これもAIがイベントを調整した結果なんだろうけど、少し展開が早い気がするな。


 ま、大筋のストーリーは変わっていないので、しばらく様子見かな。


「おーい」


 ちょうどそのとき、マイアとリーゼが戻ってきた。


 ギルドの手伝いが終わったようだ。


「じゃあ、帰るか」


「あの……」


「どうした?」


「……まだ、足に力が入らないんです……」


「…………」


 俺は、ルナを抱えて帰ることになった。

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