第24話 VSルナ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
この場にいた男たちをすべて倒したルナが戻ってくる。
振り乱した銀色の髪からのぞくその顔は『
すごい戦闘力だ。
設定したのは、俺だけど……
人によってはトラウマになりそうだな……
「吹っ飛ばされた連中は……息はしてるようだな」
近くまで転がってきた男で確認した。
『
それとも、『今のルナ』が、無意識で加減したか……
「ミツキ! 何やってるの!?」
「早く離れて!」
リーゼとマイアが離れたところで呼びかけている。
『今のルナ』がどういう状態なのか、よく知っているようだ。
「あああああああああ!」
ルナが再び雄たけびのような声を上げる。
『魔王軍』を
「逃げて!」
「今のルナは、ミツキを狙ってる!」
2人の言う通りだった。
『
誰からの声も届かず、敵味方問わず、攻撃を開始するのだ。
自己意識が薄れ、別の人格が体を操っているかのような感覚──
ま、チカラの代償ってやつだな。
さてそれじゃあ、その力がどこまでのものなのか、試してみよう。
「テストだ。『
「ああああっ!」
ルナが赤い光を噴出して、殴り掛かってくる。
「『ストーン・ウォール』」
土の魔法を使い、岩の壁を出現させる。
そして、すぐさま、その壁に向かって風の魔法を発動!
「『ウインド・ウォール』」
風の力を使って、後方へ吹っ飛ぶ。
「あああああああっ!」
ルナがワンパンで岩の壁をぶち破ってきた。
マジか。
厚さ1メートルくらいあったはずなんだけど……
まあいい、次だ!
「『ストーン・ドーム』!」
岩の壁を、ルナの周囲に複数出現させ、彼女を閉じ込めるように、その頭上を覆っていく。
岩の牢獄、一丁上がり!
「そんなことしても、ルナが出てくるわよ!」
「わかってる! それでいいんだ!」
リーゼの指摘通り、岩の壁からルナの手が突き抜けてきた。
あそこか!
「『アクア・フロウ』」
八条の水の筋が、現れたルナに直撃する。
「あぅっ!?」
水流によって岩の壁に叩きつけられ、ルナが呻く。
だが、今のルナを相手に手は緩めない。
「『アクア・プリズン』」
「──ごぼっ!?」
ルナの体が、魔法で生み出した水の中にすっぽりと入る。
見た目は、でかいシャボン玉の中に水が満たされている感じだ。
この魔法は、相手の動きを封じて、声を出させないようにするもの……
声が出なければ、魔法は発動しない。
ルナの回復魔法も使えない。
「狙い通りだな」
水の牢屋に閉じ込められたルナは、外へ出ようともがいていたが、『
やがて、ルナの体から赤い光が、消えた。
……よし、解除。
パシャン。
水のしょぼん玉がはじけて、ルナが放り出され……
おっとっと……ふぅ。
なんとか倒れる前に近寄って抱えられた。
「『フレア』」
出力を絞って炎の魔法を指先にともす。
体が冷え切っているので、暖めないとな。
「ルナ! 『ウインド』」
「これ、すぐに飲んで!」
駆け寄ってきたリーゼは、弱めの風の魔法を使ってルナの体を乾かし、マイアはポーションを飲ませた。
「……ケホッ! はぁはぁ……」
ルナが目を開ける。
「あれ、私……」
「すごかったぞ。偽物を1人で全員やっつけたからな」
「ニセモノ?……そうだ、私……カッとなって、『
「落ち着け。リーゼとマイアは無事だぞ」
「え?」
リーゼとマイアが、うんうんと、うなずく。
「今回は、負傷者なしよ」
「『魔王軍』の偽物は負傷者がいっぱいだけどね!」
「ど、どうして……いつもふたりとも、私がああなったら、ケガさせてたのに……」
「ミツキよ。ホント、あたしらがいつも頑張って止めてるのに……」
「魔法で一瞬だったよねー」
「ルナのライフが減っていたからな。満タンだったら、やられてたよ」
実際、最後の『アクア・プリズン』は、そこまで強い魔法じゃない。
回復封じで使っただけだ。
ルナが疲弊していなかったら、力によるごり押しで破られていただろう。
それだけ『凶神の使徒(バーサーカー)』は、強力なんだ。
「……そう、ですか。ミツキには助けられてばかりですね」
「そんなことはないぞ。俺のほうこそ助かっている」
ルナたちのおかげで、テストは順調だ。
AIの生成するクエストに驚くこともあるが、それに対してもルナたちは自然な反応を見せてくれる。
この世界に本物の人がいるようだ。
これなら、キャラクターとの触れ合いを楽しみにしているプレイヤーも満足してくれるだろう。
「さてと……こいつら、どうする? 消し炭にしてやってもいいけど」
リーゼが草原に寝そべったままの男たちを睨みつける。
「『魔王軍』だってウソついて、ボクたちに何かやらせようとしてたよね? 本気でびっくりしたんだから。こらしめなくちゃ!」
マイアも、怒りの拳をぶつけようとしていた。
「待って、二人とも」
止めたのは、ルナ。
「彼らのやり方は手慣れていたわ。何度かやっている可能性もある。すべて聞かせてもらうためにも、ギルドに連絡しましょう」
「……そうね。コイツらを根絶やしにするには、それが一番か」
「ボクたちが、やっつけちゃうよりもよさそうだね!」
2人とも納得してくれたようだ。
でも、ちょっと笑顔が怖い。
騙されたのが、よほど腹に据えかねたらしい。
「それじゃあ、ボクがちょっと走って行ってくるよ。3人はここにいて」
「ええ、任せたわ」
「ランページボアを見つけても、戦わないようにね」
「わかってるって。それじゃあね!」
マイアは手を振って王都のほうへと走って行った。
ギルドに情報が渡れば、この件は片づきそうだ。
めでたしめでたし。
「…………わからないわ」
「どうかしたのか、ルナ?」
「あの男たちはたぶん盗賊崩れです……」
「そうだな。『魔王軍』を隠れ蓑にイロイロやっていたんだろう。虎の威を借るなんとやらだな」
「だから、おかしいんです……ここに来た理由につながりません」
「ここに来た理由? あ……」
今回の依頼は、スクラップベアがどうして王都近くの森にいたのかの調査だ。
森にあった痕跡からこの草原にスクラップベアが来たことは間違いない。
だがそれなら、先に男たちのアジトが狙われていてもおかしくはなかったはずだ。
「運よく素通りされたとかじゃないの?」
リーゼが口をはさむ。
「その可能性もあるけど……違う気がするわ。『災害級』のモンスターが、普段を違う行動したのよ。だから、きっとある。とんでもない原因が……きっと別に」
何か恐ろしい想像でもしたのか、ルナは震える手で俺の服を握りしめていた。
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