第22話 思い出すのは……

 誰かに勧められたゲームにはまった。


 そんな経験をしたことがある人は多いはずだ。


 しかし、いつの間にか勧めた本人はやめ、俺だけがそのゲームを続けていた。


 学校でも、勉強をコツコツやり、部活もソコソコやり、友人関係もあたりさわりがないくらいに過ごした。


 仕事でも、やれることを積み重ねていった。


 他の社員ともコミュニケーションも取っていた。

 

 それでも、いつの間にか距離が離れていく気がした。


 そんなもんかなと思いながらも続けていたら、周囲に誰もいなくなっていた。


 立場は上がっても頼られることはない。


 結局は1人になる。


 何をやっても、そんな風に思うようになった。


 

 ……ふぅ。


 変な夢を見た。


 ゲームの中にいるのに、現実の夢を見るなんておかしな状況だが……


 それはさておき、あまりいい気分になるものじゃなかったな……


 開発メンバーが優秀で、結局、俺だけが遅れて仕事しているようで……


 ……って、いかんいかん。


 ゲームの中なのに、現実のことばかり考えてしまう。


 今は、このゲームを楽しみながらテストをする時間だ。


 人間関係の不安なんてものは、頭からログアウトさせてしまおう。


 うん、それがいい。


「さて、今日はどんなイベントが起こるんだったかな」


 わざとらしく声に出して、俺は宿屋の部屋を出た。




『ヴレイヴワールド』にログインして、ゲーム時間で一週間ほど経過した。


 俺は、ルナたちのパーティ『グレイスウインド』と共に冒険者ギルドの依頼をこなしていた。


 基本的には、ホーンラビットやランページボアの討伐を行い、薬草の採取などの簡単な依頼もこなしていた。


 2体目のトレント・バーサーカーも探したが、発見できなかった。


 出現率は正しく設定されていたらしい。


 よかったと思っておこう。


 あんまり出すぎると、ゲームバランスが壊れるからな……


 けど、テストプレイの時は上げたほうがいいかもしれない。


 出現率が高ければ、出現を確認するテストも早く終わるし。


 決して、テストプレイくらいは、レアモンスターをバンバン狩りたいとか思ってないぞ?


 こほん……それはさておき。


 一緒に冒険するうちに、俺だけでなく、ルナたちのレベルが上がり、3人とも新しい魔法や練術やスキルを身に着けているようだった。


 きっちりと彼女たちの強さを把握したいところだが、プレイヤー情報がわかる仮想ウインドウは、相変わらず開かない……


 強さがわからなければ、次の行動の指針も立てづらい。


 もっと強い相手と戦っていいのか、弱い相手をたくさん倒してもっとレベルを上げるべきなのか。


 ログアウトしたら、絶対に直そう。


 そんな感じで、テストプレイという名目で、俺は仮想世界の生活を楽しんでいた。


 ログイン当初は、リーゼに勝負を挑まれたり、マイアとダンジョンを探索したり……


 本来の想定とは違うイベントも発生していたが、ヘイルダム王国の首都で、冒険者として生活をするという本筋のストーリーからは大きく逸れていない。


 改めてこのゲームに実装されたAIの自動クエスト作成機能に驚かされる。


 この精度なら、近い将来にクリエイティブの面でも、AIに仕事を奪われるかも……


 まあそれは、AIが人の感情を完全に理解した時なので、まだ先だろうが……


 ゲーム作りは好きなので、少しはやれることを残しておいてほしいところだ。


 さて、振り返りはここまでにして。


 ギルドから受けた今回の依頼だが……


「モンスターの異常発生について調査をします」


 冒険者ギルドに着くなり、ルナが発表した。


「異常なのか?」


「はい。スクラップベアは、王都付近には出ません。バーサーカー・トレントも滅多に現れません」


「……なるほど、それで調査を」


「そうです。それに、他のモンスターの数も増えています」


「確かに、ギルドの掲示板の依頼も多かったな」


「書き入れ時だー!」と、はしゃいでいる冒険者もいたが、依頼が多いというのは、困っている人が多いことの裏返しでもある。


 冒険者ギルドとしては、今の状況をなんとかしたいようだ。



 この『モンスターの異常発生調査』イベントは、実は、次の町へ進む前に受注可能になるイベントだ。


 原因調査後、大量発生したモンスターを討伐せよ!となる。


 そして、俺の知っているストーリーでは、異常出現の原因はスクラップベアの襲撃だった。


 それによって他のモンスターが王都近くまで来てしまって、モンスターが異常発生している……というものだ。


 だが、今回はそのスクラップベアをすでに倒してしまっている。


 おそらくAIによって、別のモンスターがあてがわれていることだろう。


 どんな奴が出てくるのか、楽しみだ。

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