第17話 穴の底

 穴の中は真っ暗だった。


 落下していって、底にぶつかればタダではすまないだろう。


 HPがなくなれば、強制的にログアウトできるかもしれないが……


 もしも王都に死に戻りしたら、同じことの繰り返しになるし、面倒だな。


 足掻かせてもらおう。


「『ウインド・ウォール』!」


 下に向けて、風の魔法を放つ。


 これで落下がゆっくりになれば……


 ……あれ? 手応えがある。


 適当に放った風の魔法が、底に当たったか。


 巻き起こした風で、強引に落下を減速させ、なんとか着地。


「おっとっと……」


 いつの間にかマイアが強くしがみついたので、少しよろけてしまった。


「マイア、もう大丈夫だぞ」


「…………」


 しかし、マイアはなかなか離れようとしなかった。


 体が少し震えている。


「……ねえ……ボクたち、ヘルグラウンドについちゃったの?」


「へるぐらうんど?」


「知らないの!? 死者の国だよっ!!」


 あー、この世界だと地獄はそんな名前だったか。


「おー、マイアよ。死んでしまうとは情けない」


「死んじゃったの!?」


「いや、生きてるぞ」


「ほ、本当……?」


「もちろん」


「じゃあ……ほっぺつねって」


 マイアの頬を両手で伸ばす。


 モチみたいな感じで横に伸びていく。


 この柔軟さがあるから、表情も豊かに感じるんだろうか。


 それにしても、やわらかくていい手触りだ。


 現実だと女性の頬を掴むなんて機会はないから、どのくらい再現できているかはわからないけど……


「い、いはいへす……」


「痛いなら生きてるな。というわけで、そろそろ腕を解放してくれ」


「へ?」


 マイアの両手は俺の首に回り、体はぴったり密着。


 相当怖かったのか、足も絡められている。


「っ!!!」


 マイアは今の自分の状態にようやく気づいたようで、一気に耳まで真っ赤になった。


「ご、ごごごごごめんっ! ボク、落ちるの怖くて、それで……」


 マイアが俺から距離を取ろうとした。


 そのとき、上空から気配を感じ、俺はマイアの体を引き寄せた。


「ひゃわっ!? ミ、ミツキ……なんで──」 


 体を硬直するマイア。


 その後ろ……つまり、さっきまでマイアがいた場所に岩が落下してきた。


 ドガンッ!


 岩が粉々に砕けている。


 これは当たったらやばいな。


 まだ落ちてくる可能性を考えると、この穴から、土や風の魔法で地上に戻るはかなり危険だ。


 そもそも、地上へ着く前に魔力が切れる。


 森の延焼を防ぐためとはいえ、でかい岩の壁を作るのはやりすぎたか。


「……とりあえず、上じゃなくて前に進んでみるか。この先は空洞になっているみたいだし」


「う、うん……」


 マイアの体を離す。


 ちなみに、彼女の体はとても柔らかく、一部分からはとても大きな圧迫感があったが……現実だと女性を抱きしめるなんて機会がまったくなかったので、このゲームでどのくらい再現できているかも、まるでわからなかった。


 …………


 ゲームでも現実でも、ソロプレイが最高なだけだ!!


 本当に、それだけだからな!!


 ぐすん……

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