第18話 隠しダンジョン
炎の魔法で、木片で作った簡易松明に火をつける。
すると、奥まで続く石畳の道が見えた。
「これ……」
「ああ、人の手が入った洞窟だな」
「やっぱり……けど、こんな場所があるなんて、聞いたことないよ」
マイアが知らないのも無理はない。
この洞窟、序盤の隠しダンジョンだからな。
本来は、王都で冒険者として名を上げたあと、モンスターの群れが多数来襲する依頼をクリアすることで、ベテランの冒険者から情報を教えてもらえるのだ。
なので、適正レベルはかなり高め。
ゲーム開始3日目で来るような場所じゃない。
だが、今の俺……ミツキは、スクラップベアや、トレント・バーサーカーなどを倒している。
いただいた経験値で、このダンジョンをクリアできるくらいのレベルにはなっているだろう。
問題は、マイアだ。
レベルがほぼ初期値の状態では、強めのモンスターが出てきたらやられてしまう可能性がある。
NPC……この世界のキャラクターなので、本当の死ではないが……
これだけ感情豊かなキャラクターが、急にいなくなるのには抵抗がある。
『ヴレイヴワールド』は1つの出来事が起こると、AIが自動で、他のキャラクターの反応を調整するようにできている。
ルナとリーゼにも影響があるだろう。
それに、リーゼを助けたのに、マイアを見捨てるのも違うだろう。
彼女と共に生還するルートを選ぼう。
「マイアは、剣技が得意だったよな?」
「え? そうだけど……その話、ミツキにしたっけ?」
「風の噂で聞いた」
俺はゲームの設定を知っているからな。
「それって、もしかして……クマ娘とか言われてるやつかな?」
「クマ? いや、そんなものじゃないけど……」
「本当? それならよかった。ボクってば、よく冒険者の間で、クマ娘とか、バカリキとか言われてるからさー!」
「ばか……怪力だから、あだ名がクマなのか?」
「ううん。それは、クマを投げちゃったから」
「く、クマを投げたぁ?」
「うん。あれは王都に来てすぐのころだったかな? 町にクマのモンスターが入りこんじゃってたみたいで、それをえいやーって投げちゃってさ。あ、クマって言ってもミツキが倒したスクラップベアとかじゃないよ。町の近くの森にいるやつ」
「……それでもすごいと思うぞ」
「ありがとう。でも、そのせいで、一部の冒険者からクマ娘って呼ばれてるんだよー……」
マイアはちょっとだけ悲しい表情になっていた。
冒険者としてはありがたいが、女の子としては気になる二つ名のようだ。
しかし、マイアが「クマ娘」なんてあだ名で呼ばれてるとは……
俺の知っている設定にはないんだけど。
単なる見落としか。
あとで追加されたのか。
まあ、面白いので、よしとしよう。
マイアとそんなことを話していると、ズシン、ズシン……と重厚感のある音が近づいてきた。
マイアを腕で制し、そちらに松明を向ける。
四角い石が積みあがってできあがったような人型のフォルム。
見上げるほどの大きさを持つ、非生物型モンスター。
ゴーレム。
それが、このダンジョンの番人だ。
ゴーレムの頭部にはめ込まれた赤い宝石がこちらを向くと、炎が飛び出してきた。
「『アース・ウォール』!」
土の壁を出現させる。
が、すぐに熱が伝わってきた。
火力が違う。
もう持たないな。
「あれ、何っ!?」
「ゴーレムだよ」
「ゴーレム……って、魔法で動く人形ってこと? それならどこかを斬り飛ばせれば……」
マイアが土の壁から飛び出し、腰の鞘から剣を抜き出して切りかかった!
カキィン!
甲高い音が空洞内に響く。
「いったぁぁぁぁぁ!?」
剣で攻撃したマイアのほうがダメージを受けたようだった。
痛みを振り払うように、手をブンブン振っている。
「マイア、そいつのボディには刃が通らない! 関節……石と石の継ぎ目を狙え! 君ならできる!」
「……わ、わかったよ!」
簡単な指示を出し、俺も土の壁の後ろから飛び出した。
「『ソイル・ストーム』!」
拳大の石が俺の周囲に複数出現し、ゴーレムに飛び掛かる。
すべて直撃!
しかし、ゴーレムはびくともしていない。
このゴーレムは剣だけでなく、魔法への耐性持ち。
レベルの低い魔法では、ダメージが通らない。
そういう仕様だ。
初見でこの耐久を見せつけられたら、プレイヤーは確実に混乱するだろう。
そして、このゴーレムを攻略するための方法を熱心に探してくれるはずだ。
そうなってくれたらいいなぁ。
頑張って設定したからな。
キュイン──
赤い宝石の一つ目がこっちに向く。
どうやら、俺を先に仕留めたいようだ。
さっきの炎の魔法が来るか?
だが、今の俺のレベルならさっきの炎の魔法でも防ぐことができる。
「やぁぁぁぁぁっ!」
だが、それよりも、マイアの攻撃が先だった。
マイアの剣が、ちょうどゴーレムの頭部と胴体部との接続部を切り裂いた。
──フォォォン…………
電源が切れたパソコンのような音を出して、ゴーレムの体が動きを止めた。
そして、床に落ちた頭部の赤い宝石からも光が消え、完全に沈黙した。
「……倒したの?」
「そうだ。よくやったな」
弱点を教えたとはいえ、まさか一太刀で倒すとは思わなかった。
「えへへっ! クマより余裕だったよ! このくらいなら任せておいて!」
「頼りにさせてもらうよ。それじゃあ行こうか」
「おおー!」
マイアと共に通路をさらに進んでいった。
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