第16話 森へ薬草探しに
騒ぎの原因が昨日倒したスクラップベアだったとは……
しかし、討伐済みならば、王都が襲われる心配はない。
ギルドにいた冒険者たちの顔は、一様に明るくなった。
『災害級』がうろついていたら、ほとんどの冒険者は、依頼をこなしたり、狩りに出たりもできないからな。
皆、それぞれのランクにあった依頼を受注して出かけていった。
お礼を言いに来る者もいたけど……
出てきたのを倒しただけなんで、泣きながら感謝されると歯がゆい。
取り出したスクラップベアの素材だが、受付の女性に預けておいた。
ただ、『災害級』だけあって換金には時間がかかるらしい。
時間をつぶすことも考えて、別の依頼をこなすことにした。
現在、俺たちは王都から北にいったところにある森へ来ていた。
「ここには、傷に効く薬草が生えてるのよ」
リーゼが教えてくれた。
薬草の採取。
それが今回の依頼。
薬草の採取自体は『ストーン』や『ブロンズ』が受ける依頼だが、この場所での採取は『シルバー』以上が最適とされているようだ。
「ランページボアが出ますからね」
ルナはそう言って周囲を警戒していた。
確かにあの巨大猪が出るなら、安全に倒せる『シルバー』以上の冒険者パーティが妥当だろう。
「だけど、薬草は他の森でも採れるんだろう? なんでわざわざ危険な場所に来るんだ?」
「ポーションに使う薬草の量が少なくなってきているんです」
「最近ね、強いモンスターの動きが活発なんだよ。ほら、ミツキが倒したスクラップベアも、この辺りにはいないモンスターだしね」
「なるほど」
スクラップベアの生息域は、この王都からかなり離れた場所に設定したからな。
今回、王都に出没したのは、AIがそのイベントを考えたからだ。
今はそのイベントからどんどん派生していっているところなんだろう。
人が多くのイベントを作るだけだと限界があるから、本当AI様様だ。
「まとまって探します。薬草かモンスターを見つけたら教えてください」
「了解」
ルナの提案にうなずきつつ、周囲を見渡す。
薬草は……あっ、あれか。
草むらの中に白い光のモヤっぽいものがかかっている箇所があった。
近づいて、採ってみる。
よもぎに似た形をした薬草だ。
「薬草ってこれでいいよな?」
「あ、はい。大丈夫です。ずいぶんと早く見つかりましたね。数時間かけて見つからないこともざらなのに」
「まあ、白い光がかかっていたからな」
「え? どういうことですか?」
「ん?」
あれ?
ルナには、薬草の周りに出ている白い光のモヤのエフェクトが見えていないようだ。
そういえば、プレイヤー限定の可視化機能だったかな。
「何でもない。ちょっと見つけ方がわかっただけだ」
ルナにテキトーな返事をしつつ、周囲を見渡す。
……うん、近くの地面に割と固まって白い光のモヤがあるな。
ひとつずつ抜いていって……
ある程度集めてから、またルナに見せた。
「ぜ、全部薬草!?……こんなにすぐ持ってくるなんて」
「フフン、ミツキならこのくらいできて当然よ。なんといっても、あたしに勝ったんだから」
「リーゼに勝ったからって、薬草集めが早くなることはないと思うんだけど……でも、本当によく集められたね」
薬草の位置が見えてるからな。
もっと希少な薬草だと、特別なスキルやアイテムが必要になるが、最初の街の近くに生えた薬草ならば問題ない。
それからは、俺が見つけて、みんなでその場所を探すということになった。
そのほうが、効率がいいからな。
2時間くらい採取をすると、近くにある白い光のモヤがほぼなくなった。
小さいのは残しておいた。
全部採ってしまうと、しばらく薬草が生えてこなくなるからな。
このゲームは薬草1つにもリアルに近い設定をつけているんだ。
「依頼された量のほぼ10倍……! これなら、私たちの分もありそうね」
「道具屋さんに持って行って、ポーションにしてもらおうよ!」
「いいわね。ポーションをためて、もっと上の依頼を受けましょう!」
うんうん、3人とも喜んでくれたようで、何よりだ。
さて、そろそろ帰ろう。
長居して、モンスターに囲まれたあげくにケガでもしたら、採ったばかりの薬草を使うことになるからな。
「……そういえば、モンスターはほとんど出てこなかったな」
途中で、ホーンラビットが1体だけ出てきたくらいで、襲撃らしい襲撃はなかった。
モンスターの出現率の設定がミスったか?
ログアウトしたら確認することがまた1つ増えたな。
できるなら、この辺りに配置されたレアモンスターに出会いたかったけど……
それはまた機会にしよう。
「3人ともそろそろ街へ──」
──ガササ!
「……!」
木々をかき分けて何かが急接近してきた!
剣を抜き、振り返る。
細長い……蛇?
いや、これは……
切り捨てると、その切り口から緑がかった透明の液体が滴り落ちた。
これは……植物のツルだ。
ということは……
「レアモンスターだ!」
辺りが急に暗くなる。
日が落ちたわけではない。
見上げると、壁が迫ってきていた。
巨木だ。
千年以上の時を感じさせる巨木が、こちらに悠然と迫ってきていた!
「来たな、トレント・バーサーカー!」
自分以外のトレントや、植物を自身の体へ接ぎ木して肥大化したトレントだ。
ストーリーの序盤の終わりに出現する。
出現率はかなり低いが、経験値や素材の売却値は高く設定されている。
倒すことでできれば、中盤以降の攻略がぐっと楽になる──そんなありがたいモンスター。
出てきてくれてよかったー。
まだ序盤も序盤だが、ここで倒すことができれば、一気に成長できる。
もっとも、すでにスクラップベアを倒しているので、上り幅は少ないだろうが。
とはいえ、俺以外の3人はそこそこレベルが上がるはず。
パーティを組む以上、メンバーの経験値は必要だからな。
ルナ、マイア、リーゼにも強くなってもらわないと……
「って、あれ? 3人ともどこ行った?」
さっきまで俺の後ろにいたはず……
「「きゃぁぁぁぁっ!?」」
「わぁぁぁぁっ!?」
上から?
見上げれば……3人がツルにつかまって吊り上げられていた。
さっきの『トレント・バーサーカー』の攻撃、俺だけを狙ったわけではなかったか。
「あっはは、面白い攻撃だね!」
マイアが腰の剣を抜き、足に巻きついていたツルを切り裂いた。
そのまま、落下してきれいに着地。
お見事。
「ルナ、リーゼ! こいつ、見かけほど強くないよ!」
マイアが、吊るされたままのふたりに呼びかける。
ルナはうなずき、すぐさまベルトから短剣を抜いて、足に絡まっているツルを切断した。
こちらもさすがは『シルバー』の冒険者だ。
残るはリーゼだけだが……
魔法が主な攻撃手段となるリーゼは、モンスターの解体用のナイフくらいしか持っていなかったはずだ。
ルナやマイアのように切断して逃げ出すのは難しい。
助太刀したほうがいいかな? と思っていたが……
「『フレア』!」
リーゼの杖から炎が噴き出す。
魔法使いらしい脱出方法だ。
炎は、リーゼの足に絡みついていたツルを焼き切ると、トレント・バーサーカーに燃え移り……ってまずい!
「火が広がる!!」
トレントは乾燥した大木のモンスターだ!
だから、よく燃える!
野外での焚火の素材にもなるからな。
って、すでにトレント・バーサーカーが燃え盛ってる!
「『アクア・フロウ』!」
水の流れを包帯のようにトレントに巻き付ける!
く……火は消えないか……
リーゼは、炎以外の魔法が得意ではない。
ルナは回復魔法が使えるが、それ以外の魔法は使えず、マイアにいたっては、そもそも魔法が使えない。
つまり、ここにいるメンバーで水の魔法が使えるのは俺だけだ。
頑張らないと、森が全焼する。
せっかく残した薬草も全滅だ。
こうなったら……
「ルナ、マイア、リーゼ! 離れろ! モンスターを押しつぶす!」
「え、そんなこと、どうやって……!」
こうやってだ!
「『アース・ブロック』!!!」
俺は土の魔法に魔力を込め続ける。
レベルの低い魔法だが、魔力を込めればそれなりの威力になる。
土の壁を生み出す魔法なら、込めた魔力の分だけ、大きくなる。
魔力を注ぎ続けて、トレント・バーサーカーを超える高さまで。
支えている部分をもろくして……トレント・バーサーカーのほうへ倒れるように調整!
「いけぇぇぇぇぇ!」
ゴォォォォォ……
重量を感じさせる風の音とともに、土の壁が巨木に迫り……
激突!
そのまま巨大な石の壁が、トレント・バーサーカーを押し倒し……
ドォォォォォォォォォォン!
完全に倒れこんだ瞬間──体が飛び上がった。
近くでビルが倒れたような衝撃だな……
それにしても、砂埃が舞い上がって、前が見えん。
風の魔法で吹き飛ばす。
……炎は、見えないな。
延焼はふせげたようだ。
みんなは無事だろうか。
「ルナ! マイア! リーゼ!」
「大丈夫です……」
「なんとか……」
ルナと、マイアの声はした。
…………
……リーゼの声が聞こえない!
土の壁の下敷きには、なっていないと思うが……
「ボクも探すよ!」
マイアが近くに来てくれる。
「頼む。ルナはそこにいてくれ。リーゼがさっきの声を聞いてくるかもしれない」
「わかりました」
ルナを残して、マイアとともにリーゼを探す。
火は鎮火したようだが、まだ煙がくすぶっていて視界が悪い。
「リーゼ! どこだー!」
…………
返事がない。
ただの屍になっていないことを願うばかりだ。
トレント・バーサーカーのほうは……ただの倒木のように動かない。
念のため、近寄って剣で切ってみる。
ザクッ──
素材が切り出せた。
完全に倒せたようだな。
「早く先にいこうよ!」
マイアが倒れた巨木の上に飛び乗る。
「そうだな、トレントを伝っていったほうが……」
──ガクッ!
なんだ?
急に木が傾いた!?
トレント・バーサーカーが立ち上がろうとしている?
けど、さっきやっつけたのは確認できたよな……
いったい何が……?
「わぁぁぁぁぁぁっ!! 地面が!?」
マイアの絶叫で下を見る。
先ほどまで確かに存在したはずの地面が、大きな穴に変わっていた。
ミシミシミシミシ……!
大木が音を立てて、穴にずり落ち始める!
まずい!
すぐに離れないと!
「ミ、ミツキ……!」
マイアの怯えた声。
その体は、大地にできた大穴へ落下を始めていた。
「くっ!」
反射的に、マイアの手を掴む。
俺たちは大きな穴の中へ吸い込まれていった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます