第15話 災害級のモンスター
冒険者ギルドには、昨日と違って不穏な空気が漂っていた。
ある者はギルドの受付嬢に詰め寄り、ある者は仲間たちと機嫌悪そうに話し合い、ある者は壁に貼られた依頼書を厳しい目で眺めていた。
昨日、肉ありがとなーと気さくに話しかけてきた冒険者たちも暗い顔をしている。
イレギュラーが起きたのは間違いないが……
ルナたちもギルド内の様子が気になったようで、その理由を受付の女性に尋ねていた。
「実は……王都の近くに、『災害級』のモンスターが現れたみたいです……」
『災害級』のモンスターとは、この『ヴレイヴワールド』において、都市を壊滅させるほどの強さを持つモンスターのこと。
それが現れたとなれば、冒険者の顔も暗くなるだろう。
戦うどころか出くわしたらやられるもんな。
この『災害級』があらわれるイベントは、プレイヤーが冒険者の『ゴールド』ランクになるころに、進行が可能になるイベントだ。
俺が『シルバー』になったので、その影響でストーリーが進行したのかもしれない。
このシナリオでは、パーティのキャラクター……つまりルナたちと協力して『災害級』のモンスターに挑み、討伐する。
プレイヤーは、いわゆる死に戻りができる上、モンスターと戦うころには、装備や練術や魔法が充実しているので、そこまで苦戦するイベントではない。
とはいえ、それはプレイヤー視点の話。
ゲームのキャラクターたちの考えは違う。
「『災害級』!? そ、それって大丈夫なの!? 『ゴールド』の人が10人は必要なんだよ?」
マイアがまくしたてる。
この世界で生きているキャラクターにとっては大事だからな。
『災害級』のモンスターにもよるが、全員が生還して討伐する場合は、『ゴールド』と『シルバー』ランクの冒険者を20人は見ておいたほうがいい。
難易度設定した俺が言うんだから間違いない。
「そうね。人数を集めたほうがいいわ。各国のギルドにも応援を頼んで」
ルナの提案に受付の女性が首を横に振った。
「もうやってます……でも、『災害級』に渡り合える方は、別の依頼をこなしている最中だったりして、うまくいってないみたいなんです……」
それもその通り。
『災害級』に勝てる者たちを、普段から遊ばせておくわけがない。
別のやばい任務をこなしているとすると、他国にはなかなか来れないだろう。
「それじゃあ、王都の冒険者だけで対処するしかないということ?」
「そんなっ!? 無茶だよ!」
ルナとマイアが不安そうに顔を見合わせている。
うんうん……こうやって外堀を埋めていって、プレイヤーがルナたちと力を合わせて戦うことになるんだよな。
ゲームの設定が活きて、討伐のフラグが立っていく感じがして、とてもいい……
「…………ねえ」
隣にいたリーゼが、俺の服の裾を引っ張ってきた。
怖くなったのか?
そうだよな……昨日は魔力切れまで俺と戦ったんだ。
魔力が回復しきっていないリーゼは、気が気じゃないだろう。
ここはRPGを楽しむ意味でも、リーゼを安心させるために、気の利いた言葉をかけて……
「アレは?」
……アレとは?
「昨日アンタが倒したアレよ。換金したの?」
「ああ……アレな。いや、まだだぞ。昨日は夜も遅かったし、アイテム欄に入れておけば腐らないから、朝でもいいかなと思って」
「アイテムラン? 何でもいいけど、出して」
「今? 先に受付の人の話を最後まで聞いたほうがよくないか?」
「いいから出して」
何だろう。
リーゼの考えは読めないが……
まあ、どのみち換金はする予定だったからいいか。
俺はちょうどよさそうなスペースを見つけ、昨日倒したモンスターをアイテム欄から取り出した。
リーゼはそのモンスターを指さして、言った。
「これ、『災害級』のモンスター」
……………………。
ギルド中の人々の視線が、俺が取り出したスクラップベアに注がれる。
数秒ののち──
『ええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!』
建物が壊れるそうなほどの声が、ギルド内に響き渡る。
やっちまった。
ゲームのフラグを盛大に折っちまった。
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