第14話 謝罪

 ゲーム世界で、2日が過ぎた。


 昨晩のウサギやイノシシ料理はよかった。


 宿屋の亭主直伝のタレ(たぶんソース)をかけた肉料理はおいしかった。


 肉を提供したこともあり、山盛りにしてくれた。


「いっぱい食べてくださいねぇ」


 メアの笑顔を見たら断るわけにはいかない。


 うっ……けど、少し食べすぎたかな?


 喉からお腹にかけて少し不快感が……


 意識離脱型は食べすぎの感覚も再現されているのか。


 満腹中枢とかいうもんな。


 強烈な痛みは遮断されるが、こういった少し不快な感覚は、デバフの効果にも使われているため、ある程度設定で残されている。


 そうしないと、食べてばかりで、ゲームのストーリーを進めないプレイヤーもいるからだ。


 もっとも、意識離脱型VRゲームの楽しみ方ではあるが……悩ましい。


 個人的には、せっかく作ったのだから、物語にそって冒険してほしいな。


 さて、意図せずに食べすぎのデバフを体感してしまったが、そろそろ出かけるとしよう。


 今日からは本格的に『シルバー』の冒険者として活動できる。


 工程をかなり端折ってしまったから、どういうストーリーになるかわからないけれど、楽しみながらテストしていこう。


「……ミツキ、いますか?」


 軽めの朝食(野菜スープ)を食べ終わると同時に、宿の入り口のほうから名前を呼ばれた。


 この声は、ルナかな?


 さすがに3日目ともなると、キャラクターのボイスも覚えてきた。


 担当の声優さんは忘れてしまったが、透き通ったいい声だ。


 癖がないので、聞き取りやすい。


 朝の目覚ましボイスとかにできないかな?


 たぶん、声優さんのボイスアプリとかあるだろうから、ログアウトしたら探してみよう。


 ま、ログアウトしたら、3日に1回くらいしか寝られないから、あんまり聞けないんだけどね。


 はっはっは………………はぁ……。


 ゲームのプレイ中に現実を思い出すのはやめよう。


 野暮だ。


 うん。


 俺はミツキ。


 冒険者ミツキだ。


「……おはよう。今日も来てくれたんだな」


 メアが応対しているのが見えたので、近くに行って務めて明るく挨拶。


 ルナたちとはこれからもパーティを組むのだ。


 もしかしたら、まだ監視の意味もかもしれないが、仲良くやっていきたい。


「あ、ミツキ……」


 ルナの目が俺に止まる。


 マイアと、リーゼも来ていた。


 よぉし、今日もいっしょに冒険へ行こうぜ──


「すみませんでした!」


 いきなり頭を下げられた。


 ルナとマイア、そして、ルナに頭を押さえつけられたリーゼ。


 え、何のこと?


「この子が、ミツキに決闘を申し込んだと……」


「……?」


 ああ!


 昨日の勝負のことか。


 そんなことあったな。


 夕飯を食べたら忘れてしまっていたけど。


「確かに勝負はしたけど、謝る必要はないんじゃないか?」


「いいえ、謝罪させてください」


「お姫様を助けてもらったのに、ひどいことしたんだもん」


 そっか、彼女たちの視点から見ればそうなるのか。


 ゲームの進行上、リーゼとの勝負もストーリーの一環だと考えていたら、ひどいことをされたという認識がない。


 感想があるとすれば、この町で上位格の冒険者であるリーゼと勝負したあとに、スクラップベアとの戦闘は難易度高いから、調整が必要かなーと思ったくらいだ。


「ご、ごめんなさいニャー」


 リーゼが語尾にまだ「ニャー」をつけている。


 反省しているってことかな。


「本当に気にしないでくれ。俺としては、君たちとパーティを組んで、冒険するのを楽しみにしてるんだからさ」


 少し露骨すぎるくらいに、「問題ない」と伝えておく。


 これが原因でおかしな方向にストーリーが分岐してもつまらない。


「ありがとうございます……私としても、ミツキとは良好な関係を築いていきたいと思っています」


 ルナの言葉が硬いが、これ以上の謝罪は不愉快にすると思ったのか、顔を上げてくれた。


 リーゼの頭は下げさせたままだったけど。


「それじゃあ……冒険者ギルドに行こうぜ」


 話題を切り替えると、ルナたちはうなずいてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る