第11話 決闘、VSリーゼ
工房を出ると、すでに日が傾いていた。
夜も依頼をこなす……ことなく、今日は解散するようだ。
「特別な依頼のときは行くけど、夜は周りが見にくいからねー」
マイアが目をパチパチ開閉させている。
ウィンクしてるみたいで可愛らしかった。
「明日からは、『シルバー』ランクの依頼を一緒にやっていきましょう。楽しみにしています」
「それじゃ、まったねー」
「…………」
「ああ、今日はありがとな」
ルナ、マイア、リーゼと別れる。
俺のランクアップに付き合ってもらったため、彼女たちとはあまり交流ができなかった。
明日は期待しよう。
彼女たちとの交流は『ヴレイヴワールド』の大切な要素のひとつだからな。
さて、今日の夜は、ウサギとイノシシ肉のディナーだ。
宿屋でメアがどんな料理を出してくれるか、楽しみだ。
……ザ、ザ……ザザザ!
「……」
………………つけられているな。
ルナたちと別れた直後からか。
かすかだが、足音が聞こえる。
このゲームには、魔法と練術の他に、動作を補助する『スキル』が存在する。
そのスキルには、相手の気配を察知するものもあるのだが、当然ながら初期段階では習得できない。
そんな俺に察知されている。
本職じゃないんだろう。
昨日倒した盗賊か。
はたまた、俺を疑う城の兵士がより近くで監視しようとしてきたのか。
通常のストーリーには組み込まれていないイベントなので、AIが考えたものだ。
面白い。
チェックしておこう。
俺は角を曲がると、瞬時に魔法を発動させた。
『アース・ブロック』。
地面から土でできた壁が生えてくる。
ランページボアを倒すときに使ったやつだ。
それを角を曲がってすぐのところに設置。
尾行者は俺の姿を見失わないように急いで角を曲がる。
そして……
「ぷぎゃっ!」
やけに可愛らしい声がした。
壁の後ろから、顔を出す。
すると……鼻を押さえた赤髪の少女が尻もちをついていた。
「リーゼ? 何してんだ?」
「むー!!」
睨まれた。
痛かったらしい。
相当勢いよく顔をぶつけたんだろう。
回復魔法って、初期の魔法だったっけな?
名前は覚えてるし、一応、やってみるか。
「近寄らないで!」
リーゼは立ち上がると、臨戦態勢を取った。
鼻をぶつけたことをそんなに怒ってるのか?
「壁のことは悪かったよ。追われてる気がしてさ……」
「フン! やっぱり追われてる自覚はあったのね!」
「まあ、あれだけ足音が聞こえればな」
「つまり、あたしの尾行に気づいたから、こんなトラップを用意したのね!」
「いや、リーゼじゃなくて、盗賊とか城の兵とかに追われてると思ったんだよ」
「えっ? アンタ、兵士に追われるようなことしたの?」
「してないけど」
「じゃあ、なんで警戒してるのよ。やっぱりあやしいわ!」
うーん……会話が空回りしてる感じがする。
少し面倒だと思う一方で、しかし、同時に感動していた。
このリーゼのセリフをAIが自動で生成していると考えると、すごくない?
だって、俺が言ったことを瞬時に解析して受け答えしてるんだろう?
絶妙に徒労感を覚えるレベルなところが、よくできている。
現代の技術ってこんなすごかったのか?
「アンタのこと、見極めてやる!」
ビシッと指さされる。
体は小さいのになかなか様になっている。
彼女がこの世界だと貴族の生まれだからだろうか。
まあ、それはさておき……
見極めるってどうやるんだろう?
「何するつもりだ?」
「あたしと勝負しなさい!」
おお!
突発のPVP……いや、プレイヤー対ノンプレイヤーだから、PVNか?
いいじゃないか。
盗賊との対人戦は、チュートリアルだったのですぐに終わったしな。
パーティメンバーと序盤に戦えるのは、プレイヤーの実力を知れる上でもありがたい。
どんな戦いになるのか、楽しみだ。
リーゼに連れられてやってきたのは、王都付近の北の森だった。
ホーンラビットを討伐した南の森とは違って、近くには他国へつながる街道がある。
最初に、盗賊が襲ってきた場所の近くだな。
しかし、この子……
あやしいと思っている人物に背を向けて先を歩くのはどうなんだろう?
背後から襲い掛かったら、たぶん一瞬だぞ?
まあ、遠距離戦になったら、リーゼに勝てる見込みはほぼなくなるんだけど。
「この辺りでいいわね」
そこは、森の中の開けた場所だった。
木々が生えておらず、草の背も短い。
ちょっとしたグラウンドのようになっている。
「あたしがよく魔法の練習をしているの。道から離れてるし、背の高い木に囲まれてる……何が起きても、誰かに見つかることはないわ!」
つまり、リーゼは誰かに見られたら困ることをすると?
「このことをルナとマイアは知ってるのか?」
「あの二人は知らないわよ。あたしが、確かめたいだけ」
だろうな。
あの2人は、俺の監視もかねているのだろうが、こちらに対して敵意はなかった。
対して、リーゼはいつも俺を疑っているような態度を取っていた。
ゲームの内部の好感度処理が偏っていたか……
それで発生したイベントかもしれないな。
「あたしが勝ったら、知ってることを何でもしゃべってもらうわ」
決闘のお決まりのセリフだな。
このゲームでも聞けるとは……それじゃあ、俺からも条件を出そう。
「わかった。それじゃあ、俺が勝ったら言うことを1つ聞いてもらおう」
「いいわよ。そんな未来は、絶対に訪れないから」
リーゼは、俺から距離を取って対面した。
持っていた杖を俺に向ける。
勝負開始だ!
「『フレア』!」
リーゼの杖の先端から拳大の炎が膨れ上がり、射出された。
「『アクアボール』」
こちらも魔法で指先から水の球を作成して、対抗。
炎と水の球は空中で激突し、熱と水蒸気をまき散らして消滅した。
「『フレア』! 『フレア』!」
しかし、リーゼは炎の魔法を連打。
魔法比べをするつもりか?
それとも、魔法を連続使用させることで、俺の魔力切れを狙ってるのか?
リーゼは魔法特化型のキャラクターだ。
魔力の量はプレイヤーの初期値より高く設定されている。
とはいえ、俺のレベルは、大量のホーンラビットや、『シルバー』ランクの冒険者が苦労して倒すランページボアを狩ったため、それなりに上がっているはずだ。
魔力量もレベルに合わせて増えている。
『プレイヤー情報』が見られないから、正確な値はわからないが、初期の魔法を撃ちあっているだけなら、負けない。
「チッ! 粘るわね……でも、これなら、どうよ!!」
リーゼの周りにいくつもの炎の球が同時に出現する。
炎のレベル2の魔法だ。
「『メテオ・フレア』!」
複数の炎の球が同時に殺到する。
うーん……これを全部撃ち落とすのは『アクア・ボール』じゃ無理だな。
それじゃあ、こっちもレベル2を出そう。
「『アクア・フロウ』」
俺の周囲にいくつもの水の帯が出現し、向かってくる火球を呑み込んだ。
水蒸気が大量に発生し、視界が白く染まる。
リーゼの姿が、見えない……
PVPの形式で、相手の状況がわからないのは相当やばい!
調子に乗って水を飛ばしすぎたな……
「風で吹き飛ばすか……」
……ボワッ。
何かが燃えるような音が……
げっ。
後方と左右から炎の壁が迫ってきてる!?
「『フレア・ウォール』か……やるな」
壁で挟んで、逃げ場をなくす。
リーゼは確実に俺を仕留めに来てるな。
それとも、俺ならこの状況をどうにかできると思ってるのか?
あ、前からも炎の壁が迫ってきた。
けど、まだ抜け出す隙間がある。
「うわっと!」
突然、炎の球が前方の壁を突き抜けてきた。
当然、リーゼが放ったものだ。
『アクア・フロウ』で防御。
そのまま炎の壁を崩しにかかるが……ダメだ、熱量が高くて、水が一瞬で蒸発してしまう。
純粋な魔力勝負だと、俺よりリーゼのほうが上だな。
少し悔しい反面、コンセプト通りになっていて、考えた側としては満足だ。
そうこうしている間にも壁が迫ってくる。
あっつい!
仮想世界の表現のはずなのに、本当に体を火であぶられているような気がする。
このままだとつぶされるな……
「……ま、そうはならないけど」
『アース・ブロック』を足元に展開した。
地面からせりあがってくる土。
それに乗って、俺は炎の壁を乗り越えた。
「よっと……」
壁は高さが3メートルくらいあったが、プレイヤーの身体能力なら問題ない。
さてと、リーゼは……
あ、いた。
炎の壁から少し離れた場所で杖を握っている。
水蒸気と炎の壁で俺が脱出したところは見えなかったようだ。
追撃とばかりに、誰もいなくなった監獄に、リーゼがその魔法の名前を口にする。
「『ヘル・フレア・プリズン』!」
ゴォォォォォォバァァァン!
炎の壁は一つになったあと、爆音とともに大きな火柱を上げた。
レベル3に分類される炎の魔法だ。
あと少し脱出が遅れていたら危なかったな。
リーゼの奥の手なので当然の火力だが、序盤で仲間になるNPCが持っていい魔法じゃない気もするな……
ログアウトしたら調整を……
あ、いや、リーゼがその場に倒れこんだ。
魔力をほぼ使い切った疲労が襲ってきたんだろう。
一回限りの技なら、このくらいの威力もありだな。
リーゼのステータスはこのままでいこう。
それじゃ、考えるのはこのくらいにして、勝負を終わらせよう。
「リーゼ、大丈夫か?」
「はぁはぁ……大丈夫なわけないでしょ。コレ、やると結構しんどくて……ッ!?」
あ、気づいた。
「な、ななななななんでいるのよ!」
「ログインしたから?」
「意味わかんないわよ! アンタには魔法が直撃して……」
「してないぞ。穴があったからな。避けさせてもらったよ」
「そんな……」
「それで、どうする気だ? 勝負は続ける?」
「当たり前でしょ! あたしはまだ戦える! アンタなんて距離さえ取ってしまえば……きゃっ!」
リーゼが飛び退った直後に足を滑らせて、すっころんだ。
無理もない。
『魔力切れ』は、全力でフルマラソンを走り切ったレベルの疲労が蓄積されてる設定だ。
リーゼは大量の汗を流しながら、肩で息をしている。
立っているのもつらいだろう。
しかし、その赤い目には、まだ戦意が残っている。
自分の実力を信じているんだろう。
それなら、ちょっと痛いだろうが、気絶してもらおう。
額を狙って、土の魔法を準備する。
そのときだった。
「グオォォォォォォォォォォ!!!」
森を突っ切って、大きな影が乱入してきた。
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