第9話 BBQ
町へ戻ると『ランクスキップ申請』が認可され、俺は晴れて『シルバー』ランクの冒険者になった。
ホーンラビットとランページボアの毛皮などの素材は、ギルドで買い取ってもらった。
町の店を回って、素材を欲しがっている商人に売ると、高く買い取ってもらえる。
しかしその場合は、交渉のイベントなどが発生して価格が上下し、失敗すると売値が下がってしまうのだ。
その点ギルドなら価格が均一で、そこまで安いわけじゃない。
今回は、できるだけ先までテストを進めたいこともあったので、そうした。
ほとんどの素材は売り払ったが、肉だけは手元に残した。
せっかく食べられるんだから、食べたいよな。
そんなわけで、宿屋のメアに頼んで、宿の従業員たちと共に即席の竈をセットしてもらった。
石を重ねて、網を置き、その上に肉をのせて、焼いている。
ウサギと猪肉のバーベキューパーティーだ!
お昼時にギルドの近くの広場で始めたので、他の冒険者も寄ってくる。
……食べたい?
もちろん、食べていいぞ。
すぐに許可を出す。
今日は俺が冒険者になった記念日だ!
どんどん食ってくれ。
そんなやり取りをしながら、肉を焼いていたら、いつの間にか王都の冒険者たちに囲まれていた。
みんな、そんなにウサギとイノシシが食べたいのか。
森まで行けば手に入るのに。
「失敗したら命の危険がありますから」
ルナが教えてくれる。
あー、そうか。
弱点がわからないと、群れで襲われたとき、大変だしな。
倒すことはできても、うまくやらないと素材が手に入らないし。
だからこその人だかりか。
別に肉を渡すイベントではないが、プレイヤーが何かやるとキャラクターが反応してくれるのは嬉しい。
集まってきた冒険者に受け答えしていると、肉が焼けた。
自分の分を取り置きして、肉を冒険者たちに渡していく。
最初はルナたち。
「ありがとうございます」
「わー、いい匂い! ありがとね!」
「…………フン」
俺がすぐに『シルバー』になれたのは、彼女たちのおかげだ。
まあ、ゲーム開始早々、いきなり『シルバー』にランクアップしてしまうイベントが発生するのは、ゲームの進行に影響が出るので少し困るけど……
だが、それはログアウトしたあとに、考えればいい。
今は……好きなだけ食べてもらおう。
そして、宿屋のメアたちにもおすそ分け。
「竈を作ってくれてありがとな」
「どういたしましてぇ。お肉おいしかったです!」
にぱー、と、元気いっぱいの笑顔を見せてくれる。
子供の邪気のない笑顔は、癒されるなー。
「肉はまだ余ってるから、おみやげに持って帰るといいよ」
「本当っ!? ありがとぉ!」
残ってる肉を受け取ると、メアは宿屋のほうへと走っていった。
きっと晩御飯のメニューに、ウサギやイノシシの肉が追加されるだろう。
さっき食べたのは、塩と胡椒の味付けだけど、凝った味の料理が出るかもしれない。
楽しみだなぁ。
「ミツキ」
気づくと、ルナたちが近くに来ていた。
「食べ終わったら、私たちと一緒に来てもらえませんか?」
「いいけど、どこへ?」
その問いには、ルナではなく、マイアが答えた。
「お肉のお礼だよ!」
どうやら、次のストーリーに進行するようだ。
俺は、当然ついていくこともルナたちに伝えた。
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