第4話 3人の少女
少女たちのあとをついていくと、大きな建物が見えてきた。
ヘイムダル王国。
200年ほど前に建国され、かつて存在した『勇者』にもゆかりがある……という設定の国だ。
ここ、王都が『ヴレイヴワールド』での最初の拠点となる。
街に入った俺は、一番大きな建物──王城へと招かれた。
とはいえ、いきなり王様に会えるわけではなく、待合室のような部屋に通される。
本来なら身分の確認がー、身体チェックがー、みたいなことをメイドさんのような人に言われつつ待つ。
体感にすると10分ほどだろうか。
部屋がノックされ、さきほど馬車で先導してくれた少女たちが入ってきた。
ここのイベントはどうだったかな?
まずは挨拶をして、彼女たちと交流する形で──
「ありがとぉぉぉぉ!!!」
イスから立ち上がると同時に、少女のひとりが勢いよく駆け寄って──いや、体当たりされた。
「本当に助かったよ! あの馬車には、すっごい偉い人が乗っててね! 難しい依頼だったんだけど、無事に届けることができた! キミのおかげだよ!」
「え……え……」
ぎゅっ! ブンブン!
体当たりされて倒れそうになった手を掴まれ……振り回される!
腕が……!
「マイア、落ち着きなさい。旅の方が困っているわ」
「あ、ごめんごめん……」
扉の辺りにいた別の少女に注意されて、手が解放される。
いきなり過度なスキンシップに驚いたが、それ以上にびっくりしたのが手を握る感触のリアルさだ。
目の前で舌を出す仕草も、本物の少女のように自然なものになっている。
おぉぉぉぉ……
これが、意識離脱型VR……!
「改めてお礼を。貴方のおかげで、私たちは無事に依頼を達成することができました。感謝します」
おっと、いかんいかん。
感激に打ちひしがれている間に、会話が先へ進んでいる。
止めてくれた少女が、小さく会釈した。
それに合わせて腰まで伸びた白い髪が、ふわりと自然に揺れる。
「私は、ルナ。ルナ・アリアンフロドと言います」
顔を上げると、こちらを見ていた赤目が敵意のないことを示すように、優しく細まる。
これは……本物の少女と見分けがつかないな。
ちなみに、ルナは、ゲームの『プロローグ』で馬に乗って街へ来るように言ってくれた盾持ちの少女でもある。
少女たちのリーダー格に当たる。
「はいっ! 助けてくれてありがとぉ! ボク! マイア・ロペスです!」
先ほどのブンブン少女が、右手を挙げてアピールしている。
「キミ、本当にすごいよね! 魔法をいっぱい使って、その上で剣も使ってたもんね!」
マイアが「すごいすごい」と悪意のない笑顔を向けてくる。
うん……こういう子なのは、事前に設定書で知っていたが、実際に目の当たりにすると文字だけでは読み取れないものもあるな。
「他にもいろいろできる? ちょっと見せてほしいんだけど……」
「……マイア、待って。紹介をすませるのが先よ」
再び俺に接近しようとしたマイアを、ルナが止める。
飼い主とペットみたいだ。
さて、その紹介だが……
「…………」
残っているのは、ひとり。
先ほどから腕を組んだまま、俺のことをじっと見ている少女がいた。
「……リーゼ」
ルナに名を呼ばれて、赤髪の少女が渋々と言った様子で口を開いた。
「リーゼ・ペルサキス……」
…………
あ、それだけか。
「他にはないの?」
「フン……一応は、感謝してあげるわ」
赤髪を揺らして、リーゼはそっぽを向いてしまった。
彼女は、盗賊と戦ったときに、俺に食って掛かってきた少女でもあった。
「すみません、彼女は……」
「いいさ。気にしてないよ」
キャラクターと会話を合わせつつ、ふと考える。
はてさて、ここからどう反応するべきか。
ヴレイヴワールドのキャラクターの会話パターンは、AIで判定されている。
そのキャラクターの性格や生い立ちの情報から、それに近い会話パターンを膨大なデータから選定し、掲出する。
もちろん、ストーリーを進める上で、強引に会話パターンを絞ることもあるが、日常会話程度なら、数時間話して過ごしても問題ないほど組み込まれているはずだ。
この技術は、一人暮らし世帯や病院などで会話相手が必要となったことから開発されたもので、それをゲームに転用した。
つまり、ここで俺がどう答えようと、会話は進んでいく。
答えない場合でも、キャラクターが察してくれる。
まあ、せっかくなので、会話していくか。
テストの意味合いもあるが、純粋にゲームを楽しみたいというのが本音だ。
「俺は、ミツキだ。よろしくな」
自己紹介はこんな感じか?
さすがにプレイヤーではないので、プレイヤーカードの交換などはしない。
「ミツキ、さん……ですね。先ほどはありがとうございました。見たところ、旅の方のようでしたので、お礼に宿を用意しています。案内します。こちらにどうぞ」
「こっちこっち!」
「…………」
ルナ、マイア、リーゼが、宿へと案内してくれる。
設定の少しのミスはあったが、ゲームは順調に進んでいる……
このときは、そう思っていた。
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