第6話 覇王祭が始まった
——《覇王祭》当日。
俺は3日ぶりにギルド『白星のミルキーウェイ』のホームに戻ってきた。
入り口前にはミラさんが立っており、俺の姿を見つけると全速力で駆け寄って来る。
「アソトくん、どこに行ってたのよ! 全然顔出しに来てくれないし、ものすっごく心配したんだから……ばかぁ」
涙ぐんだ表情ですら可愛すぎる!
まじで天使ですか。
しかも聞きました? 俺の呼び方『アソトくん』になってるよ?
嬉しくてつい引き攣ったようにニタニタしてしまう。
「その顔は反省してないでしょ! ダンジョンの5階層に変な格好をした変態プレイヤーが出現したって噂で持ちきりだったし、本当に心配したんだからね」
うっ、ごめんなさい。ミラさん。
……ところで5階層に現れた変態プレイヤーとは?
《オートプレイモード》だったとはいえ、3日間もダンジョンに篭ってたわけだし、そんなやつがいたらさすがに気付くと思うんだけど。
「護符を身体中に貼りつけて、目を閉じながら大量のモンスターと戯れる木の棒を握った男の人だったらしいよ。アソトくんは何か知ってる?」
……護符に木の棒?
え、ちょっと待ってよ。
その変態プレイヤーって、俺のことじゃん!
「うーん。俺は何も見ていないかな。そんなやつがいたんだ……ハハハ」
「見てないならいいんだけど。変態プレイヤーさんが、数えきれないモンスターたちと戦闘してたらしくて、萎縮したギルドメンバーがかなりいたの。だから《覇王祭》のエントリー人数が382人から3人になっちゃったんだよ」
はぁ? 少なっ!
3人って俺とあのジジイと、もう1人だけってことか。
「本当、運の良いやつだなクソガキくん。変態プレイヤーのおかげでライバルが減っちまうなんてよう。まぁ、せいぜい格の違いとやらを見せてやるよ、ガハハハハハハハハハ」
ニヤついた顔でそう話すのは、もちろんボッサリーノ。
俺に嫌味を伝えた後、ミラさんに向けてドヤ顔で下手くそなウィンクを炸裂させる。
相変わらず仕草の一つ一つが気持ち悪いやつだ。
……ところで、あと1人の参加者は誰なんだろう。
情報は大切な戦略に繋がるため、ミラさんに確認してみる。
「もう1人はゲーナム・ボボマルさんだよ。ギルド内でもボッサリーノさんの派閥に属していて、一番弟子って噂なの。今回の《覇王祭》は3人でのバトルロイヤルだから、アソトくんはかなり不利な状況かも……」
このギルド、変な名前のやつばかりじゃん。
……しかしまいったな。ミラさんの言う通り、もし2人がグルで俺を狙ってきたら、同時に相手をしないといけないのか。
《覇王祭》が開始される前に、どう立ち回り攻略するかを考えてみる。
俺の唯一無二の武器である《伝説の勇者の木の棒》。これは確実にオーバーキルしてしまう可能性があるため、使えない。
ちなみに頼りにしていたログインボーナスだが、2日目は《不死鳥の羽根》、そして3日目は《韋駄天シューズ》だった。
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《不死鳥の羽根》※レアアイテム
★自身の命が尽きた時に使用可能。【ゲーム機能】の1つ《コンティニュー》をアンロックする。
《韋駄天シューズ》※足装備
★見た目は超ダサいが足が速くなるぞ!
⇒装備時敏捷力が2倍。
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《韋駄天シューズ》は見た目は終わっているが、優秀な装備なので一応装備している。《見た目装備OFF》の機能があって良かった。無ければ今頃恥ずかしさで悶絶してしまっている。
《不死鳥の羽根》は優秀なアイテムだが、今回は出番なしだろう。
……あれ。俺素手で戦う事になるんじゃ?!
性能度外視でいいから、とりあえず武器屋に行って剣でも買っておいた方が良いよな。
そう思った束の間に、ミラさんは俺の手を握ってきた。
「ほらあと5分で《覇王祭》始まっちゃうから、早く行くよ!」
あと5分?!
そう言えば俺、開始時刻聞くの忘れてたわ!
「ぶ〜〜〜〜〜〜〜きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
俺の嘆願は聞き入れてもらえず、ミラさんに手を引かれながら《覇王祭》の会場へと向かうこととなった。
◇
《覇王祭》はギルドホーム地下に備え付けられている、決闘場で行われるらしい。
円形に観客席が準備されており、施設の中央には戦闘のための四角い盤面が敷かれていた。
既に観客席では、開始を今かと待ち望んでいるプレイヤーたちで大盛り上がりを見せており、地下とは思えない熱気で溢れていた。
「私、アソトくんのこと信じてるからね。もし勝ったら1つだけ何でも言うこと聞いてあげる」
ミラさんは屈託のない笑顔を見せながら、そう告げてきた。
……まじですか?
デートしたい。デートしたい。ミラさんとデートデートデートデート!
「でぇと? ……が何か分からないけど、いいよ。アソトくんとでぇとする!」
いぇす! イェス! YES!
もはや、俺はやる気しかねぇ!
やってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
……素手だけど。うん、素手だけどやってやるよ!
気合い充分。気力も充分。
《覇王祭》司会進行役のアナウンスが響き渡り、俺は中央の決闘場へと移動した。
「さーて、いよいよ《覇王祭》が始まります! 栄光ある《白之覇王》となるのは誰なのか。プレイヤーを紹介していきます! ……まずは『気鋭の新人アソト』。プレイヤーランキングは現在なしです」
——ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
——お呼びじゃねえ、帰れ、帰れ!!
観客席からは見事にブーイングが放たれる。
「あまり期待はされていなさそうです。続いては『薬草採取の覇者ゲーナム・ボボマル』。プレイヤーになって15年、これまでの受けてきた依頼は全て薬草採取という異例のプレイヤーです。プレイヤーランキングは98位です」
——きたぁ! ゲーナムやっちまえ!
——今日もあの技見せてくれよ!!
ただの冴えないヒョロ男かと思ったが、ゲーナム・ボボマルは思ってる以上に期待されているらしい。
俺と歓声が全然違うじゃん。ちくしょう。
「そして『白星のミルキーウェイ』と言えばこの人。《双斧の怪物ボッサリーノ・ボルボッサ》。レベル78の真の実力者、プレイヤーランキングは44位です」
——ボッサリーノ! ボッサリーノ!
——いけぇ、ボッサリーノ!
——きゃぁぁぁ。ボッサリーノ様カッコいい!
え、まじかよ。
ボッサリーノめっちゃ人気じゃん。
こいつのどこがそんな魅力的なんだ?
観客に向けて手を上げて応えるボッサリーノ。
その表情は勝利を確信している様子だった。
「三つ巴のバトルロイヤル。最後まで立っていた者が勝者です。それでは準備はよろしいでしょうか? ……《覇王祭》スタートです!!」
——ワァァァァァァァァァァァァァァ!!!
司会者の合図と共に、これまでで一番の歓声が上がる。
ボッサリーノはまだ一歩も動いていないな。
……あれ、ゲーナム・ボボマルはどこに行ったんだ?
それは一瞬のことだった。
どうやら完全に見失ってしまったらしい。
『アソト。そのまま左に一歩ズレて、右手で裏拳です』
リアの突然の指示に迷う事なく従い、俺は左横にズレてから裏拳を放った。
——バキッ!!
右手に固い感触が伝わったかと思うと、何かがとんでもないスピードで飛んでいくのを感じた。
……まさか?
と思い確認すると、鼻血を垂れ流し気絶状態のゲーナムが横たわっていた。
「おーっと、これはすごい! ゲーナムさんがスキル《透明人間》を発動させていたにも関わらず、アソトさんは後ろを確認する事もなく裏拳を炸裂させ一撃で仕留めた! まるで後ろに目が付いているかのような動きだぁぁぁ」
——えぇぇ?! どうなってるんだよ?
——アソトってつい最近ギルドに来た新人だろ?
——まさか、かなりの実力者なのか?
——いやいや、まぐれだろ。
どうやら、観客席では何が起こったのかを懸命に話し合っているようだ。
本当、今まで神技を連発出来てるのもリアのおかげだよな。リアさん様々だよ。
『どういたしまして。残りの1人も私がいれば安心ですよ』
うん、そうかもしれないな。でも……。
(悪いけど、ボッサリーノは俺自身の力で倒したいんだ。だからリアは手を出さないで欲しい)
『……そうですか。分かりました。アソト、必ず勝ってくださいね』
(あぁ。ありがとうな、リア)
これで俺はあの男と正々堂々一騎討ちで勝負が出来るって訳だ。
少し面食らった表情で固まっていたボッサリーノだったが、ようやく口を開いた。
「驚いたな。まさかゲーナムのやつを下しちまうとは。けどよぉ……お前がレベル23である以上、絶対にこの俺様には勝てねぇんだよ! ガーッハッハッハッハッ」
そうだよな。お前からしたら俺はまだレベル23の存在なんだよな。
「悪いけど、俺はもうレベル23じゃないんだ。この3日間本当に死ぬ気でレベリングに励んだからな」
「ハァ? たかが3日間レベル上げを頑張ったからってせいぜい1か2程度だろ? その程度じゃ俺様を超えれねぇぞ?」
せいぜい1か2程度だ?
残念だったな……ボッサリーノ。
「悪いな。今の俺のレベルは223だ」
俺はそう告げると、ボッサリーノに攻撃を仕掛けるべく右手を強く握りしめた。
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