第7話 《ガチャ》を引いたらまさかだった

「レベル223だと? まさかハッタリで動揺させようって魂胆かぁ。悪くねぇ……悪くねぇが、俺様がそんな嘘を信じるわけないだろうがぁ!」


 真実を話しているのだが、ボッサリーノは真っ向から否定してくる。

 あれほど自信満々だったし、信じれない気持ちも分かるけどな。


「俺様の必殺技で仕留めてやる。お前は知らないだろうが、俺様の代名詞でもあるんだ。技名は《ボッサリーノ・ローリングバスター》。覚悟しな!」


 ボッサリーノはダサすぎる技名をキメ顔で話すと、両手に持った斧を荒々しく振り回し構える。

 そして、それを確認した司会者は大興奮でその様子を会場でアナウンスした。


「今の、聞きましたでしょうか?! ボッサリーノさん、あの必殺技を繰り出すようです。一度ひとたびその技が出されれば、立っていられる者はおりません。最強の5連撃技です!」


 ——ワァァァァァァァァァァァ!!

 ——いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


 会場のボルテージは最高潮に達し、観客たちはまるでライブの合いの手を打つように右手を突き上げて声援を送っていた。


 うん……。

 せっかく《ボッサリーノ・ローリングバスター》がどんな技なのか少し楽しみだったのに、司会者が5連撃技だって全部ネタバレしちゃったよな。台無しすぎるわ。


「ガーッハッハッハッハッ。聞いただろ? 5連撃だぞ? あの剣聖すら凌駕する予定の最強の技なのだ」


 凌駕したんじゃなくて、するなのね。未来の話かよ。

 この様子だと、おそらく《黄之覇王・剣聖イクス》に会ったことすらないんだろうな。


「グダグダとお喋りはここまでだ。覚悟しろよクソガキ! これが《ボッサリーノ・ローリングバスター》の威——」


 ボッサリーノは必殺技を叫びながら、俺に向けて技を繰り出す。5連撃の猛攻は確実に成功するかのように見えたが、俺は最初の一撃目を片手で受け止めた。


「な、素手で受け止めた……だと?! しかも斧が動かせねぇ。何なんだこの力は」


 どんな連撃技も、初撃で止めてしまえば単発技にしかならないからな。それにこうしてしまえば俺のレベルも信じれるようになるだろう。


 手で掴んだ斧を力一杯握りしめ、俺は粉々に砕いてやった。ボッサリーノはその様子に、はちきれんばかりに目を見開き驚いていた。


「そんなに驚くことか? レベルアップしたんだし、たかが鉄ごとき砕けてもおかしくないだろ?」

「ば、ばかなっ! ありえんっ! これはミスリルで出来た斧だぞ!?」


 あれ、鉄製じゃなかったのか。

 俺もしかしてやっちゃいました?


 ——おいおい、ボッサリーノの斧って?

 ——あぁ、ミスリル製の高級品だぞ。

 ——ミスリルを手で砕けるなんて、あいつ人間じゃないぞ!


 あはは、観客に人外認定されてしまいましたわ。

 それにボッサリーノも、まるでこの世ならざる者を見るかのように怯え切った表情をしてるな。


 もはや勝負はついたも同然であり、俺の次の一撃で終わるかのように思えた。


『アソト、アソト! 大変です!』


(何だよリア。この勝負は俺に任せてくれって言ったはずだろ?)


『《デイリークエスト》の機能が開放されました。今日の報酬は《ガチャ》を回すための魔法石10個ですよ。10個で1回分回せるのでクリアしておきましょう』


 えぇ、そんな急に開放されるものなの?!

 ……いや、それよりついに《ガチャ》を回せるアイテムが手に入るのか!


 ——《ガチャ》の機能。

 それは全てのゲーマーにとって最大の至福と後悔が入り混ざる時であり、同時に最も興奮する場面の1つだ。

 前世ではガチャに人生を捧げ、多額の課金を行う者も少なくなかった。


 そして同然、俺にとってもガチャを引くことは大事だ。


(リア、デイリークエストの内容は?!)


 頼む、頼むからすぐ終わる内容であってくれ。

 無神論者だが、この時ばかりは神様に手を合わせて祈りを捧げる。



=====================

《デイリークエスト》

 ★腕立て伏せ×30回

 ★スクワット×30回

 ⇒クエスト報酬: 魔法石×10個。

=====================



 うぉぉぉぉぉぉぉ!

 悩んでる暇はねぇぇぇぇぇぇ!


《覇王祭》の途中であるにも関わらず、俺はすぐに腕立て伏せとスクワットを始めた。


「おーっと、人外な力の一端を見せたアソトさん。今度は何故か腕立て伏せを始めました! これは何かすごい必殺技を繰り出すための準備なのでしょうか?!」


 観客たちも急すぎる俺の筋トレの姿にポカーンっと目を丸くする。

 ただそんなことすらどうでもいいのだ。

 俺はガチャを回したい!

 そのための魔法石が欲しい!!


 その一心で腕立て伏せと、スクワットを終わらせた。


「ふぃー。ギリギリセーフ」

『お疲れ様です、アソト。魔法石×10個を獲得しました』


 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 これで《ガチャ》が回せるんだよな。

 普通は10連分の魔法石が貯まるまで待って、10連ガチャをするところなんだけど、初めてのガチャだし単発で引いてもいいよね?


 自分の中の興奮を抑えきれず、俺は《ガチャ》の画面を開いた。



======================

《ガチャ》

 ★最高レアリティURの限定星霊キャラ12体の確率UP中! 強力な星霊キャラを仲間にして冒険を有利に進めよう!


 ★他にもSSR装備やレアなアイテム等が当たります!

======================



 まさかキャラまで当たる仕様だなんて。

 しかも召喚するタイプで、URキャラなんてめっちゃ強そうだな。

 他の装備やアイテムもかなり良さそうだし、今引いちゃえ!


 俺は期待を胸に《ガチャ》の1回まわすのボタンを押した。


 目の前に巨大な光の柱が現れ、一筋の銀色の輝きを放つ。

 そして、銀色の輝きは金色へと変化した。


 この演出はまさか……。

 来てしまったのか!? 最強URの星霊キャラが!


 ——パァァァァァァァァァァァ。


======================

 SRアイテム《タワシ・ボム》を入手しました。 ======================



 はぁ? タワシ・ボムって……タワシの爆弾?!

 いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 っざけんなよ、めっちゃ期待したじゃん?

 初めての《ガチャ》でタワシって、商店街のガラガラじゃねぇんだからちくしょぉぉぉ!


 俺がまさかそんなことで悔しがっているとは、他の誰も気付くはずもない。

 ボッサリーノはむしろ完全にナメられたと思ったらしい。


「俺様を無視して筋トレだと? しかもその後の悔しそうな表情はなんだぁ? 俺様のことナメやがって!」


 残っていたもう1本のミスリル製の斧を手に、ボッサリーノは瞬足で距離を詰めてくる。そして俺に向けて斧を大きく振りかぶった!


「うるせぇぇぇぇぇぇぇ! 今はそれどころじゃねぇぇぇぇ!」


 期待してまわしたガチャで当たりを引けなかった瞬間の虚しさと、脱力感がどれだけ悲しいか。


 その思いの丈を全て拳に乗せて、俺はボッサリーノにパンチをする。


「フゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


 ボッサリーノの巨体は軽々と宙に浮き、円形の観客席サイドの壁に激突し、めり込んでしまった。



「こ、ここここれはものすごいパンチだアソトさん! ボッサリーノさんは動くことすらできません。勝者はアソトさんだぁぁぁぁぁ!」


 ——オォォォォォォォォォォォ!!

 ——何だあのパンチ、すごすぎるぞ!

 ——僕の分析結果だと、あの腕立て伏せに意味がありましたね。

 ——アソトさんかっこいいいぃぃぃぃ!


 観客たちは立ち上がり、皆が俺の戦いを讃えて褒めてくれる。1人自信満々に間違った解釈をしてる人もいるみたいだけど……まぁいいか。


 ……それよりも。

《ガチャ》の結果に気を取られて、つい何も考えずにボッサリーノ殴っちまった。


「アソトくぅぅぅぅん!」


 声のする方を向くと、ミラさんが全速力で俺のところに走ってきて、そして飛び付いた。


 サラサラの髪が絹のように輝き、そして良い匂いが辺りに充満する。


 その一方で、俺はダンジョンに篭って帰ってきたところだったんだ。

 3日間も風呂入ってないんだけど、絶対臭いよな。


 今更ながら自分が臭いことを自覚した俺は、自ら打ち明けてみる。


「アハハ、ちょっと臭うよね。ミラさんも一緒にお風呂入る?」


 ここはあえてフラグを回収しておこう。

 ヒロインから『ばかぁ!』とか『エッチ!』とか言われて、頬にビンタされる大事な瞬間なのだ。


「はわわ……。今すぐには無理だけど、いいよ。アソトくんとなら……」


 へ? 何ですと!?

 いいよって言われたの俺?


 聞き間違いかと思ったが、ミラさんが顔を真っ赤にさせて全身でモジモジしている様子が全てを物語っていた。


「そ、それよりも! アソトくん、すごかったよ。信じてたけど、本当に勝っちゃうんだもん。一緒に、でぇとしようね!」


 ダイヤモンド級のスマイルに、美少女エルフからの『でぇとしようね』の言葉。もはやこれに勝るご褒美はないだろう。


 ……お風呂の件は誤魔化されたが、まぁ予想外の返事だったしな。俺、もしかしたらミラさんに結構好かれてるんじゃね?


 そう自惚れていると、《ガチャ》で当たりを引けなかったくらい些細なことに思えてくる。

 もっと良いものミラさんの笑顔が見られたんだしな。



 こうして《覇王祭》で勝利を果たした俺は、《白之覇王》の名で呼ばれることとなる。

 他の覇王たちとも会う機会はこれからあるだろうが、次なる俺の戦場はミラさんとの初デートになるのであった。

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