第5話 《セーブ》と《ロード》が有能すぎた
大都市ホワイト・ノヴァより東に数キロメートル。
神社の鳥居に似た建築物を
中央の奥にはダンジョンと呼ばれる巨大な塔が聳え立ち、入り口は魔法陣のようなものが描かれている。詳しい仕組みは知らないが、ギルドに登録されたプレイヤーのみが魔法陣を通り抜けれるらしい。
そして周辺にはダンジョンへ挑むプレイヤーのためのショップが、屋台のように立ち並んでいた。
ふむふむ、鍛冶屋にアイテム屋に宿屋、そして食事屋か。
もしかしたらかなり使える有能なグッズがあるかもしれないし、アイテム屋を覗いてみるかな。
お金はミラさんから少し貰っていたので、所持金は1万ガルドある。
「いらっしゃい、お兄さん。護りの護符はもう買ったかい? うちは最安値で取り扱ってるから、まだならぜひ買ってってくれよ。1つ10万ガルドだよ」
ふっくらアンドぽっちゃり体型の女性が、護りの護符を手に握り左右に振りながらセールスをしてきた。
ってか値段高すぎだろ!
護りの護符って防御力が上がるみたいな、すごいアイテムなのか?
……俺の素朴な疑問を察知したリアが即座に答えてくれる。
『違いますよ、アソト。護りの護符を所持していると、ダンジョン内でモンスターから狙われにくくなる効果が得られます』
うん、まじでいらないじゃん。
レベル上げたいのに、狙われにくくなったら本末転倒だし。
「いりません。それの逆の効果が得られるアイテムがあれば、欲しいですけど」
まぁ、そんなアイテムあったらみんな使うだろうし無いんだろうけど。
「逆ってまさか、呼び寄せの護符のことかい?! ……あんたダンジョンでそんなもん使っちまったら死んじまうよ?!」
たくさん敵を湧かせて一気に叩く。
これがレベリングの定石だと思うんだけど、ゲームとは違って失敗したら命取りになるからこの世界では使わないのか。
でも俺はミラさんとの約束を果たすためにも、3日以内にレベルを上げなければいけない。この方法が何よりも近道なことに変わりはないので、多少危険でもするしかない。
「その呼び寄せの護符をあるだけ全部ください」
「正気かい……。忠告はしたからね? 呼び寄せの護符なんて欲しがるプレイヤーはいないし、1ガルドでいいよ。全部で500枚あるけど、そんなに持ち歩けないだろうから10枚くらいにしとくかい?」
俺には《アイテムBOX》がある。500枚でも余裕で収納できちゃうのだ。
「あんた、かなりレアと言われる《異空間収納》のスキル保持者だったんかい! ダンジョンは5人パーティーで挑むのが普通だし、《異空間収納》持ちのあんたは荷物持ち要員ってわけかい。納得したよ」
《異空間収納》ではなく、《アイテムBOX》なんだけどな。
それより、ダンジョンってパーティー推奨なのか。
まぁ、当然俺は1人で行くけどな。
「誰も待ってませんよ。俺はこれからこの呼び寄せの護符を500枚全部使ってソロで篭るんで!」
目玉が飛び出るのでは……顎が外れるのでは、そう思うほど見開いたおばちゃんの表情を背中に、俺はダンジョンの入り口である魔法陣を通過したのだった。
◇
ダンジョンに入ると、すぐ近くの地面に別の魔法陣が敷かれていた。
ん、これ奥進むタイプじゃないのか?
……俺が想像していたダンジョンは、モンスターを倒しつつ奥へ進み、階層ボスを攻略して上の階を目指すタイプだったが、どうやら違うらしい。
『アソト。このダンジョンは最初に階層の選択をするみたいです。1階層から10階層まで存在していて、数字が大きいほど出現するモンスターのレベルが高く設定されているようですね』
ふむふむ。事前に自分のレベルに応じた階層を選べるのはありがたいな。ただ選ぶ階層を間違ったら確実にヤバいな。
『アソトの現在のレベルと、能力値を限界まで考慮すると5階層が妥当ですね。ちなみに10階層は《覇王》ですら圧倒されてしまうレベルのようです』
うわぁ……。めっちゃ覗いてみてぇ。
だって《覇王》クラスもビビる難関階層だよ?
ゲーマーの血が騒ぐでしょ。
ただ10階層を選択して、速攻で戦闘に巻き込まれれば間違いなくお陀仏な気がする。
セーブとかロードできる機能があれば、便利なんだけどなぁ。
さすがにそこまでゲームっぽい機能はないよな、うん。
『……ありますよ』
あるんかいっ!
それ早く教えてよ。普通のゲームなら初期時の必須機能ですよ?
『チュートリアルである私を使い続けることで、未実装の機能がアンロックされていく仕組みになっていますので』
さいですか。知らない間にアンロックされてたんですね。
とりあえず使えると分かったなら、今の時点をセーブして10階層を覗いてみよう。
『現在の時刻と場所を《セーブ》しました』
よしっ。
思ったんだけど《セーブ&ロード》機能って、時間巻き戻してるみたいになるんだよな。
自分に不都合だと思ったら巻き戻せるなんてチートじゃね?
思い通りの効果が得られるのか……。《ロード》の効果を試す為にも、俺は10階層へと移動するのであった。
——10階層。【混沌ト霊魂ノ円環】。
マップを表示するとそのような不気味なエリア名が付けられていた。
奥には見上げるほど巨大な漆黒の甲冑を装備した黒騎士の姿。
右手には禍々しい霊気を宿した大剣が握られている。
ビリビリと痺れるような威圧に動くことすら許されず、それほど圧倒的な強さであることを物語っていた。
(リア、あいつのステータスって見れるか?)
『これは……かなりヤバいです。詳細を表示しますね』
======================
【破滅ト混沌ノ神徒 オブシディアン】LV.999
HP: 9,999 / 9,999
MP: 7,777/ 7,777
攻撃力:#*88
魔法力:○♢66
防御力:6□♤5
敏捷力:$3*4
幸運力: 0
【保有スキル一覧】
《剣神》《心眼》《霊魂ノ逆鱗》《不動ノ盾》
《縮地》《大地ノ怒り》《威圧》《不浄ナル混沌》
《天空破断》《開闢ノ終焉》《影召喚》
《自然再生》《不滅ノ魂》《呪魂ノ叫ビ》
《呪界降誕》《聖光ノ死滅》《亡者ノ怨霊》
《装備一覧》
武:霊魔剣セレンディバイト
頭:混沌ノ騎士兜(UR)
体:混沌ノ騎士鎧(UR)
手:混沌ノ騎士籠手(UR)
腰:混沌ノ騎士腰当(UR)
足:混沌ノ騎士脛当(UR)
======================
いやいやいやいやいや。
何その数値おかしいでしょ!
ステータス表示バグってるし、スキルの名前も全部怖すぎるわ!
『バグではありません。現在のレベルでは相手の詳細をこれ以上確認できませんので』
いらないです。もう確認しなくてよろしい。
頭おかしいレベルで強いことは分かったからさ。
リアに推奨された通り、大人しく5階層に戻ってレベリングに励もう。……と少し移動したその時!
気付いた時には、オブシディアンが俺に向けて剣を振り下ろしていた。
洗練された一撃はまるで時が止まっているかの如くゆっくりに見え、そして着実に俺の頭蓋へ当たる寸前にまで迫っていた。
……これは間違いなく死んだわ。
そう頭では分かっていても、妙に魅入られてしまい動く事ができない。
『危険を察知したため《セーブ》したポイントを《ロード》します』
そう話すリアの声と同時に俺の姿はその場から消え、ダンジョン階層を選択する魔法陣の上へと戻ってきた。
『ギリギリでしたね、アソト。ゲームオーバーになるところでしたよ』
……っあぶね。
まじでリアが助けてくれてなかったら終わってたわ。
あんなヤバいのには二度と関わらないでおこう。
今度こそ5階層に移動した俺は、呼び寄せの護符を500枚使用してレベリングに励むのであった。
もちろん、リア推奨の《オートプレイモード》で目を完全に閉じたまま……。
身体中の至る所に護符を貼り付け、木の棒を握りしめ、目を閉じながらモンスターと戦い続ける。
この滑稽すぎる姿で3日間ダンジョンに居続けた俺は、後に王国の伝説として後世に語り継がれる事になることをこの時は知らなかった。
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