第3話 美少女を救ってみた

「あの……リアさん? これってただの木の棒にしか見えないんですけど?」


 小学校低学年の頃、手にして遊んだリーチの短い木の棒。まさしくそれにそっくりな物が《ログインボーナス》として、俺の手の中に握られていた。


『私にも木の棒に見えますが、立派な武器として固有名が付けられています。名前は《伝説の勇者の木の棒》です。詳細を表示しますか?』


 勇者なのに木の棒なの?

 普通そこは聖剣とかじゃん?!


 何の力も感じられない木の棒に悪態を吐露しながら、リアの質問に『YES』で返事をする。


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《伝説の勇者の木の棒》

 ★見た目はただの木の棒。まさか伝説の勇者の力が秘められているとは誰も思わない。


⇒固定ダメージ1,000を与える。

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 なるほどな。固定ダメージ系の武器か。

 俺のステータスは弱すぎだったし、確かに今の時点で最も頼りになる武器かもしれないな。

 ……見た目はダサいけど。


『そろそろ対象の女性が向かい側から来ます。アソトは異世界に来てから初の戦闘ですので、私から提案があります。チュートリアル機能の1つである《戦闘拡張モード》を起動しますか?』


(何その強そうなモード。それ起動するとどうなるんだ?)


『精神状態が高揚し、ためらわずに戦闘に参加することが可能です。また敵の動きの予測が視界に表示され、行動のタイミングは私が伝えるので完全回避が可能です』


 まじっすか?!

 リアさん有能すぎて怖いんですけど!!

 そんなの当然使うしかないでしょ!


『戦闘拡張モードを起動しました。気分が高揚状態になりますので、キザな発言等にはご注意ください』


 キザな発言なんて俺がするわけないじゃん?

 ……そう思うと同時に、俺の前に息を切らしながらくだんの女性が座り込んだ。


 肩くらいまでの金髪に、エメラルドグリーンの瞳が輝く端正な顔立ち。特徴的な尖った耳から、ラノベやゲームでも大人気の種族『エルフ』であることが連想された。

 ちなみに胸元には、程よく実った果実が2つ。……ぜひ味わってみたいものだ。


「ハァ……あの、助けてください。《シルヴァリアン・クイーンウルフ》が襲ってきてるんです!」


 うっわ……顔だけじゃなく、声も可愛いだと?!

 まさにエ、エエエエエエエエロフ! ……じゃなくてエルフ!!

 たまんねぇっす。タイプっす。好みでぇす。俺と友達からでいいんでお付き合いし——

 と口に出しそうになるのを堪えて、キメ顔を作る。


「それは大変だったねかわい子ちゃん。ここは俺に任せてくれよ」

「えっ……あ、ありがとうございます。武器は持ってなさそうですけど、あなたはプレイヤーさんですよね?」

「プレイヤーさん? いやいや、俺はあなただけの騎士ナイトですよかわい子ちゃん」


 プレイヤーというのは、よくある冒険者的な存在らしい。もちろん俺はプレイヤーでもなければ、騎士でもない。それでもこの瞬間だけは美少女エルフの専任騎士のつもりだった。


『アソト、顔が赤くなってますよ』


(そ、そそそんなことないって。それより彼女の後ろにいる狼みたいなやつが《シルヴァリアン・クイーンウルフ》ってやつか? ……大きさもデカいし、かなり強そうだな)


『はい。銀色の針のように尖った毛皮と、鉄製の剣ですら噛み砕くとされる鋭い牙が特徴のモンスターですね。この近辺の中ではボス的な存在です』


(異世界転生した凡人がいきなりボス戦かよ。やってやろうじゃん!)


 ——ガルルルルルルルッ!!


《シルヴァリアン・クイーンウルフ》は意気込む俺に向けて煽るかのように威圧してくる。


『アソト、3秒後に左へステップして、手にしている《木の棒》を思い切り振ってください』


(3……2……1……ここだ。えいっ!)


 リアの言う通りに行動すると、《シルヴァリアン・クイーンウルフ》の脳天に渾身の一撃が入る。


 ——ギャン!

 ——ズシャァァァァァ!!


 短く小さな声が響いたかと思うと、巨体が軽々と後方に吹っ飛んでそのまま動かなくなった。


 ……え。まじかよ。

 木の棒で1発殴っただけだけど?


『オーバーキルですね。対象の《シルヴァリアン・クイーンウルフ》は完全に沈黙しました』


(あはは。ちなみにこの狼ってレベルとかHPいくつだったの?)


『詳細を表示しますね』


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《シルヴァリアン・クイーンウルフ》LV.35


 HP: 0 / 300

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 はい、めっちゃオーバーキルでした。

 固定ダメージで1,000だもんな。


『おめでとうございます、アソト。今回の戦闘でレベルが上がりました。ステータス詳細を表示します』


 ……うんうん。

 まぁ、レベル1の俺が35のボス的なモンスターを倒しちゃった訳だしな。

 5つくらいは上がってもおかしくないよな。


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【ステータス】

 名前:アソト(LV.23)

 貯金: 0ガルド


 HP: 320 / 320

 MP: 320 / 320


 攻撃力: 70

 魔法力: 70

 防御力: 47

 敏捷力: 47

 幸運力: 115

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 ん? 何かレベル上がりすぎじゃない?


『【ゲーム機能】リリース記念キャンペーンのため、初回7日間は取得経験値が2倍、更には各種ステータスの数値の反映にボーナスが付きます』


 ヤバすぎだよ、これ。

 本当にゲームの機能が詰まってるんだ。

 ……もしこの数々のスキルを上手く使い熟せる俺なら、ゴミスキルなんかじゃなく、神スキルにできる気がする。


 ワクワクした気持ちで口元が緩む俺に向けて、エルフの美少女は驚いた目をしながら俺の両手を掴んできた。


「あ、あの助けていただいて、ありがとうございます。私はミラと言います。この近くの街のプレイヤーギルドで受付嬢をしていて、今日はお休みだったんですけど……」


 なるほど。受付嬢さんでしたか!

 こんな綺麗な受付嬢さんのいるギルドなら、さぞ賑わってるんだろうな。

 ……ん、ミラさんなぜかソワソワしてらっしゃるな。


「あ、あのですね。先程のあなたの動き、あれは《見切り》……いえ《未来予知》のスキルで回避したんですよね? それにあの一撃。あのドラゴンすら倒せると言われる《ドラゴンスレイヤー》のスキルに違いありません!」


 え、いや違いますよ。

 リアに言われるがまま動いて、木の棒で殴っただけなんですけど?


「お願いします! どうか私が受付をしているプレイヤーギルドに加入してください!」


 握られていた手に、更にギュッと力が込められる。

 ミラさんの手の温もりを感じた俺の答えは、当然一択しかなかった。







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