第2話 チュートリアルさんが出てきた

 女神様に『バイバーイ』と言われ気付いた時には、見た事のない草木の生い茂る場所に立っていた。日の光が眩しく照り付けているので、お昼頃といったところだろうか。


 とりあえず警戒しながら周囲を散策しようかな。

 こういう場所で、いきなりモンスターに出くわすのは異世界転生あるあるだしな。


 周りに人気ひとけや危険がないことを確認していると……。

 突然女性に声をかけられた。


『はじめまして、アソト。私はあなたのスキル【ゲーム機能】のチュートリアルを任されている者です』


 当然、周りを見渡しても女性はいない。

 ってか俺のスキルについて話してくるってことは、脳内で俺だけに聴こえてるのか!

 しかも次はチュートリアルと来たか。確かにどのゲームにも必ずチュートリアルって付き物だもんな。

 女神様が嬉しそうに『アシスト機能も付けてます』と話してたのは、これのことだったのか。


「えっと……。異世界に来るの初めてだし、分からないことだらけだけどよろしくな」


『クスクス。私と会話する時は声に出さなくても大丈夫ですよ、アソト』


 あっ……そうなんですね。

 チュートリアルさんの声も周りに聞こえないってことは、俺は独りでブツブツ話してる怪しいやつになってたのか。


 もう一度周りに誰もいないことを確認し、ホッと胸を撫で下ろす。


(よし。まずは君の呼び方だけどチュートルは長いし、でいいかな?)


『構わないですよ。それではまずメニュー画面を開いて、操作してみましょうか』


 リアに言われるがまま行動するのも頼りきっている感が否めない。だがスキル【ゲーム機能】が唯一の頼れる剣であり盾でもある以上、使い方はきちんと覚えておく必要があるので仕方ない。


「メニュー画面!」


 満を持して意気揚々と叫ぶと、目の前には黄泉送りの部屋で見た画面と同じものが展開される。


『あの……アソト。ちなみにメニュー画面も叫ばずに脳内で呼び出せますので……』


 えぇ、まじですか?!

 女神様に叫べって言われたんだけど、あれってワザと恥ずかしいことさせられてたのか。

 もう会うことはないだろうけど、次に会った時は一発お見舞いしてやる……ぐぬぬ。


 リアから『次はマップを選択してくださいね』と言われたので、一旦女神様のことは忘れ《マップ》の項目を選択する。


 視界に周辺のマップが展開され、自分の居場所がマーキングされていた。どうやらこの辺りは草原で、近くにかなりの規模の街があるらしい。ちなみに、リア曰く人間は青色で表示され、モンスター等の害をなす者は赤く表示されるらしい。


『アソト、今私たちがいるエリアは《名もなき草原》という名前です。近くに人間が1人いるみたいですね』


(《名もなき草原》ってもはやただの草原じゃん。ちなみに性別は?)


『女性です』


(よし、後で会いに行こう。……いや、別にいやらしい気持ちはないよ?)


『女性と聞いた瞬間、いやらしい気持ちが脳内の92%を占有してましたよ?』


 脳内を勝手に分析しないでくださいぃぃぃ。

 俺も男なんです。心の中は今でも健全な男子高校生なんですよぉぉぉ。


 リアに『アソトは変態ですね』と笑われながら、次の項目である《ステータス》を選択する。



=====================

【ステータス】

 名前:アソト(LV.1)

 貯金: 0ガルド


 HP:100 / 100

 MP:100 / 100


 攻撃力: 1

 魔法力: 1

 防御力: 1

 敏捷力: 1

 幸運力: 10

=====================



 異世界での平均値がどれくらいか分からないが、これだけは分かる。

 俺……めっちゃ弱いわ。

 貯金も0ガルドって、これ今夜は野宿パターンですか?


 ……いや待て待て、落ち着け俺。

 肝心なのは他の項目。《装備》や《アイテム》。そして何よりも期待しているのは《魔法》だ。

 だってここは剣と魔法とスキルのファンタジー世界なんだからな。

 よし、まずは装備から見てみようか。


=====================

【装備】


 ※保有装備はありません。

=====================


 くっ……。ま、まぁいいさ。きっと《アイテムBOX》にすごい物が入ってるに違いないさ!


=====================

【アイテムBOX】


 ※現在アイテムBOX内は空です。

=====================


 な、なにもないだと!?

 ちくしょうううううう。

 ……最後の頼みの綱、お願いだ。きっと俺だけが使える最強の魔法があるはず!


=====================

【魔法】


 ※現在使用可能な魔法はありません。

=====================



 はい、俺の異世界生活はマジで凡人スタートが決定しました。

 これからどうしよう。まずは街にでも行って小屋にでも泊めてもらうか?

 野宿はやっぱり嫌だよな、うん。






 ——きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 自分の使えなさに落胆し色々考えていると、突然女の人の甲高い叫び声が響き渡る。


 ちょっとリアさん?

 俺、今超真剣に考えてるんですけど、さすがにおふざけがすぎませんかね?


『私ではありませんよ。この声は先程マップに表示されていた近くにいる女性ですね。マップで確認する限り、どうやらモンスターに襲われているようです』


 そんなまさか……と思いながらマップを展開すると、リアの話していた通り女性の襲われている様子が映し出された。


「これは大変だ。急いで助けに行かないと!」


 ……ただ、俺には武器も無ければ防具も無い。使ったことがなくても、せめて剣や弓が手元にあればどれほど心強いか。


 それでも助けないという選択肢はない。

 男なら黙って困っている女性に手を差し伸べ、格好良く助け出すことこそ正義なのだ。


 キザな雰囲気で呟いてはみたものの、内心めちゃくちゃビビりながら女性のいる方向に急ぐ。


『アソト。今日の《ログインボーナス》がまだ受け取れていません。もしかしたら、何か助けになる物が出てくるかもしれませんよ』


 なるほど。

 確かにゲームでも初日のログインボーナスは、かなり豪華なことが多いもんな。

 ……これは大いに期待してしまうな。


 俺は脳内でカーソルを《ログインボーナス》に移動させ、選択する。


『初日のログインボーナスを入手しました!』


 ……さぁ、何が出る?



 ワクワクと胸踊る俺の手の中には、白い輝きに包まれたが1つ出現するのだった。










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