第368話、討伐軍の帰還


 子供が欲しいか? その問いに対して、俺はクレハさんたちに返した時と同様に答えた。


「男の子も女の子も欲しいな」


 ルカとシィラとヴィオ、3人の奥さんがいる。よっぽど偏りがなければ、どちらも……と思ったけど、そういえばボークスメルチ氏の家は、3人とも女の子だったっけ。こちらも夫人3人のロンキドさんの家は、両方いたけど。


「どっちもかぁ……」


 ヴィオが目を細める。


「うん、男の子でも女の子でも可愛いんだろうなぁ」


 ルカもシィラも目を閉じる。その顔は、自分たちの子供を思い浮かべているのかな。髪色や肌の色も影響するんだろうな。……んで、将来は『お父さん』とか『親父』って呼ばれるんだろうなぁ。


「後は素養かな」


 ヴィオは首を傾けた。


「僕は聖剣使いの血が流れている。僕とヴィゴの子は、もっと強い聖剣使いの素養を持っているかもしれない」

「案外、魔剣使いのほうかもしれんぞ」


 シィラが挑むように言った。


「ヴィゴは魔剣使いでもあるからな」


 ここにダイ様とオラクルがいたら、小うるさく自分の優秀さアピールをしていただろうな。


 ヴィオは微笑した。


「でもそれを言ったら、シィラやルカの子供も、魔剣か、聖剣使いの素養を受け継ぐかもしれないよ?」

「それはある」


 シィラはニンマリした。


「自分の子が強い素養を持っているかもしれないって、ワクワクするな」


 ……あんまり期待値あげると、もし素養がなかったらどうするんだ。俺はなくても構わないけど、周りのそういう声って子供を傷つけるじゃないか。


 聖剣とか魔剣の素養を持っていたとしても、自分にはないほうが、たとえば聖剣使いの素養があっても魔剣使いがよかったとか、その逆とかで、持っていない方が僻んだりとか、心配になる。


 そう考えると、怖くもあるわけだ。……今から不安がっても仕方がないことなんだけどさ。


 これは素養どうこうって話だけじゃなくて、育てるってこと全般に言えることだろう。多かれ少なかれ、どんな親でも不安に思いつつ、それでも向き合っていることなんだ。


 家庭を持つというのは、そういうことだ。


 そして家族ということは、生活と養育のための環境とお金がかかる。お義父さんお義母さん方は、はやく孫の顔がみたいとかプレッシャーをかけてきそうではあるけど、ルカたちと話して、それなりに子供を育てるとなれば、その分費用がかかる。


 子供に貧しい思いをさせてはいけない。もちろん、妻たちにもだ。


 冒険者として成功して、ここ最近の報酬額が凄いことになっているけど、それだけで一生食っていけるという保証はない。


 俺は冒険者だけど、このままそれを続けるのか……? ここらで考えておかないといけない。家庭を持つなら、ね……。



  ・  ・  ・



 討伐軍が王都カルムに到着する頃に、俺たちはドゥエーリ族の集落を離れて、討伐軍に合流した。


 王都への凱旋は、つめかけた住民たちの祝福と共に迎えられた。戦士たちの帰還を熱狂的に祝う民。国を脅かしていた敵の存在は、ここのところ災厄続きのウルラート王国の民にとって暗い影を落とさせていたから、反動は大きかった。


 討伐軍を率いたマルテディ侯爵には賞賛の声がかけられ、従軍した騎士や兵たちにも感謝の言葉が絶え間なく降りかかった。


 そして俺たちリベルタが王都に入ると、周りがドッと沸いた。


 神聖騎士の帰還。


 魔の巣窟となったラーメ領の敵を粉砕し、魔王の娘を討伐した勇者。王都の娘たちの黄色い声援が俺の耳に届いた。


 詰めかけた民衆たちに、知っている顔がいたので手を振ったら、さらに沸きだった。……ここまで熱烈な反応と歓喜の声は記憶にないから、ちょっとビビる。


 こんな歓迎の形はなかったからな。


『照れておるのか、ヴィゴよ』


 様々な声が飛び交う中での、ダイ様の声がした。このうるささでは周囲には聞こえていないだろう。


「照れてないよ」

『嘘つけ!』

『絶対、照れておるのじゃ、主様』


 オラクルまで……。いやまあ、な。


「耳をすませば、俺の名前が連呼されてるんだぜ? これで何も感じないほうがどうかしていると思うぞ」


 老いも若きも、男も女も、俺の名前を何度も呼びかけてくる。ちら、と後ろの仲間たちを見れば、リベルタへの賞賛や、王都で知っている人たちからそれぞれ声をかけられて、照れたり、手を振ったり。……前者はルカ、後者はシィラだな。こういう時、さも堂々としていられるシィラには、俺も見習わないとな。


 やがて、王城前の広場に、討伐軍は整列した。そして王城から、ウルラート国王陛下が姿を現した。


「ラーメ領に遠征した勇者たちよ、よくぞ無事に帰還した!」


 国王の声が響き渡る。それなりにお歳なのだが、これがよく響く。……そこまで体調がよくなっているのだろう。


「敵は強大だったと聞く。多くの同胞が倒れたが、諸君らは敵に打ち勝った! 諸君らの忠義と、王国を守った愛国の志、余は感銘に打ち震えておる。その功を労い、報酬をもって礼を尽くそう。よくやってくれた! 諸君らはウルラート王国の誇りぞ!」

「国王陛下、万歳!」


 マルテディ侯爵が声を張り上げた。


「ウルラート王国、万歳!」

『国王陛下、万歳!! ウルラート王国、万歳!!!』


 騎士たち、そして兵士たちにそれは伝播した。王城前が、王国の明るい未来を願い、また無事に帰還できた喜びと感謝の声で満たされる。


 うん、勝ち戦というものはいいものだ。これで、ラーメ領を巡る騒動は、本当に終わったんだな。


 少し、ゆっくりして、今後のことを考える時間もとれるだろう。


 ……などと考えていたら、城から遣いがきて、報告と報酬の件も含めて、王城に入城するように、と言われた。


 肩をすくめる俺に、アウラが笑う。


「アナタは神聖騎士だもの。呼ばれないわけがないわ」


 まあ、そうかもしれない。

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