第367話、将来の話
「やっぱり、皆、子供は欲しい?」
寝室にて聞いた俺に、ルカ、シィラ、ヴィオはキョトンとした。
一応ベッドは分けてあるが、気づけば皆が俺のベッドに来るので、もう何も言わない。でもお触りまでで、その先はやっていない。健全。なんというか肌の熱を感じているだけで温かいから、当面はそれでもいいかなー、と思っていたり。
お互い自重しているからそれで済んでるところはあるけど、もしそうでなければ、収まってないよな絶対。
閑話休題。
お互いラフな格好で、ベッドに座り込んでの、将来的な子供の話。
「……顔が赤いぞ、ルカ」
「へ? あ、いえ……」
大丈夫? 熱でもある?
「ムッツリなことを考えていたんだぞ、ルカの奴」
シィラが意地悪な顔になった。ルカはブンブンと首を横に振った。
「ち、違いますっ! そんな変なことは考えてません!」
「変って、何を考えた?」
ヴィオまで、からかうように言った。ベッドに寝転がりながらの彼女の視線に、ルカはそっぽを向く。
「知りません……!」
「結婚するまでしないとか、変に義理立てするからだぞ」
そういうシィラは隙あらば、って雰囲気をかもしているけど、案外いくじなしだったりする。皆が寝静まっている間に、俺を襲うとか、そういうところはないのは、自重なのか、抜け駆けする度胸がないのか。
「それで、どうなんだ?」
改めて問うと、まずシィラが手を頭の後ろに回しながらベッドに沈み込んだ。
「そりゃあ、欲しいよ」
「男の子、女の子?」
「男」
シィラは即答した。
「もちろん女でもいいが、うちの家、女ばっかりだったからな。男の子兄弟というのが気になる」
「あ、それはあるかも」
ルカが頷いた。
「一人くらい弟がいてもいいかなーって思ってた」
「親父は言わなかったけど、周りは男の子欲しがったよな。うちが女の子ばかりだったから特に」
「ルカも男の子派?」
「一人は欲しいかな、と思いますけど、私は、最初の子は女の子がいいなぁ、と」
ルカははにかんだ。……最初? 複数決定ですか。
「意外だな」
シィラが首を傾けて、視線だけ姉を見た。
「妹ばかりだったから、女はもういいって言うと思ったのに」
「そんなことないわよ。妹ばかりだったから、むしろ女の子なら安心して育てられるかなって思っただけ」
ルカは胸もとに手を当てた。
「男の子でも女の子でも、どちらでも私は構わないわ」
「ふぅん。……ヴィオはどうだ?」
シィラが視線をやると、自分のベッドでゴロゴロと転がるヴィオ。
「僕のところは……男の子かなぁ」
「何故?」
「僕が貴族の家の生まれってこともあるんだけど、何はなくても、一人は男の子が欲しいみたいなところがあるんだよね。女の子だと、早くから政略結婚の道具になっちゃう傾向があるし……。もちろん、男の子がいないなら、女の子でも後を継ぐんだけど」
貴族社会ってやつか。冒険者だと、そういうのはないんだけど、後継ぎというと男の子優先な社会って傾向。もちろん、女性が強いところもあるけど。
しかし何気に政略結婚とか聞いて、俺も不安になってくる。
「そういえば、ヴィオのとこって兄弟っているの?」
確か妹はいたけど、男の子は?
「弟と妹がいるよ。僕が聖剣を受け継いだから、侯爵家を継ぐのが僕か弟かはわからなかったんだけど――」
「お、ヴィオが侯爵になる可能性があったのか」
シィラが相好を崩す。ヴィオは目を回してみせた。
「まあね。でも、僕の相手がヴィゴだから、たぶんマルテディ家に迎えるよりは、僕がヴィゴのところにいって、弟に家を継がせたほうが得って、父上は考えると思う」
……そうか。俺が侯爵家に入らなくていいわけか。貴族社会には馴染めそうにないと感じていたから、それはそれで気分が楽になる。
というか、俺、ルカとシィラとも結ばれるわけで、それはつまり――
「なあ、ルカ。ドゥエーリ族の族長って、どう決まるんだ?」
族長の娘と結婚したら、俺に回ってきたりする? それとも、実の娘であるルカとシィラのどちらかがなるとか?
「ドゥエーリ族の族長は、強さで決まります」
ルカが言えば、シィラは笑った。
「最強。それが族長に必要な素質だ。一族では親父が最強だから族長をやっているが、もっと強い奴がいれば、次の族長はそいつだな」
ぐるんと、仰向けからうつ伏せに体勢を変え、シィラが俺を獲物を見る肉食獣のような目になる。
「まあ、いま強さで言えば、ヴィゴさえその気なら、次の族長はお前だな」
わぉ……。俺にきますか。ルカのお母さん、クレハさんも相当強いんですけど?
「その気なら、って言った?」
「基本は志願だ。やる気のない者に押しつけることはしない。族長候補に名乗り出て、その素質があるか審査し、それで族長と戦い、勝てば晴れて族長交代。現族長を超えられなければ、出直せってことになる」
「審査があるのか。一族じゃないと駄目、とか?」
「いや、普通にリーダーシップがあるかとか、判断力や公平さとか、人格面だな。腕力があるからといって、馬鹿だったり、頭のおかしな奴をリーダーにはしたくないだろう?」
「そういうことね」
常識の範囲内で、まともであればよさそう。そりゃそうだ。馬鹿や無能のリーダーの下にはいたくないもんな。
特にドゥエーリ族は戦闘民族。命にかかわる判断を族長は握るわけだからな。
「その点、ヴィゴは次の族長候補としては申し分ない。……気をつけろよ、親父はお前に族長の座を譲って、悠々自適な生活を狙っているぞ」
ボークスメルチ氏……。まあ繰り返すが戦闘民族を率いる族長となれば、弱いところは見せられないし、決断を強いられることも多々あるだろう。それでも引っ張っていくってなると――
「頭が下がるな。凄いよな、シィラたちの親父さんは」
「お、おう……」
シィラが照れたように頬を染めた。父親を褒められて嬉しかったのだろう。ルカが口を開いた。
「でも、皆を引っ張ってきたといえば、ヴィゴさんも一緒ですよ。リベルタクランを引っ張って――」
「強力な邪甲獣とか黒きモノとかやっつけて」
ヴィオが言った。
「神聖騎士として、討伐軍の期待を背負って、ウルラート王国の民のために戦った。ヴィゴだって凄いよ」
「……」
まさか褒められて逆襲されてしまうとは。むず痒くて、言葉も出なかった。
「それで――ヴィゴは子供は欲しいの?」
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