第363話、これは告白


「ヴィゴさん、大事なお話があるのですが……」

「何だい、ルカ?」


 神妙な面持ちで言われると、何かやらかしたのではないかとドキリとするのは、俺がビビりだからなのか。


 セラータの処置が終わり、元の人間の姿に戻った。下半身が蜘蛛から人間に戻り、セラータは友人のイラに抱きついて嬉し泣きをしていた。……辛かったな、ここまで。よく頑張ったよ。


「よかったな、戻れて」

「ヴィゴ様……っ」


 うっ、と涙を流したまま、セラータは今度は俺に抱きついてきた。


「ありがとうございますっ、……ありがとう、ございますっ!」


 ああ、本当に。ポンポンとその背中を叩き、なだめる。イラもルカも、その場にいたアウラも優しい目で、仲間の回復を喜んでいた。


 処置したペルドルと助手を務めたハクが言うには、しばらく経過観察が必要とのことだが、走ったり飛び跳ねたりと激しい運動も問題なさそうとのことだった。今のところ後遺症などもなく、魔法戦士として復帰もすぐらしい。


「この度は――」


 落ち着いた後、セラータは俺の前に跪いた。


「私を拾ってくださり、ありがとうございます。ここに改めて、ヴィゴ様の下僕として、生涯お仕えすることを誓います。貴方の一部下して、この命を捧げます」


 オーバーだよ……。俺は騎士じゃな――神聖騎士だった。部下がいても問題ないって位である。


 実家からも見捨てられてるし、戻るところがないんじゃ、助けた責任というやつで、面倒をみましょう。


「お前はそれでいいのか?」

「はい。どうかお側で、仕えさせてください」

「わかった。じゃあ、セラータ。お前を、俺の騎士として仕えることを許す」

「騎士……! ありがたき幸せ!」


 セラータは頭を下げた。


 最初の頃は、ルース一筋で、俺のことなどどうでもいい存在として見ていなかった彼女も、変われば変わるものなんだな。運命の皮肉というか、こうなるなんて、あの頃は思いもしなかった。


 そういえば、セラータ――アルマは騎士になりたくて、でも家が認めてくれなくて、でも諦めきれなくて冒険者になったんだったな。


 家では駄目だと言われた騎士――それが俺のところで叶うとか、これもまた皮肉っぽいな。彼女を追い出した家への嫌味になったか……?


 どんな形であれ、夢が叶ったってことでいいのかな。



  ・  ・  ・



 さて、ルカが大事な話がある、というので場所を変えて――と、そこにはシィラがいた。


「抜け駆けはなしだぞ、ルカ」

「シィラ!?」


 抜け駆けとか、これはいよいよアレかな。いくら鈍い俺でも、何となく予想がついてしまう。……これで思っていたのと違っていたら、とんだ自惚れだが。


「ヴィゴさん」

「ヴィゴ」


 ルカとシィラが、俺に真剣な目を向けてきた。頬が赤い。これはアレだろ、アレだよな。マジか、俺まで緊張してくる。


「好きです」

「好きだ」


 真っ直ぐに、ルカは恥ずかしいのか目を閉じて。シィラはこれ以上ないほど緊張して。


「俺も好――」

「結婚してくださいっ!」

「結婚してくれ!」


 俺の声は掻き消えた。ふたりの長身女子は、さすがに赤面して、俺の返事を待っている。


 相手は複数婚約よしのドゥエーリ族。だから、二人はどちらかを選べなんて野暮なことは言わない。それを理解していなければ、俺は答えに窮していただろう。どちらか選ばないといけないと熟考し、死ぬほど悩んだだろう。


 だが残念。ウルラート王国は、一夫多妻または、一妻多夫も問題ない。そしてちゃんと俺は、お義父さんに確認済み。そしてお義母さんから了承されている!


 そして、ドゥエーリ族の告白の形も


「ルカ、シィラ」


 すっと手を広げる。モテなかった俺。モテたいと思っても、異性に対して自信がなかった俺。もうそういうのはいいだろう。好きなら好きって言っても。


 ここまで俺を支えてくれた二人。彼女たちは、俺を笑わない。馬鹿にしない。だから俺も、正直になっていいんだ。……覚悟は決めた。


「俺も好きだ。俺はお前たちを幸せにする!」


 その言葉を聞いてか、それとも俺が手を広げたからか、二人は感極まった顔になり、そして飛び込んできた。


 よっしゃ来いやぁー! 長身女子二人の渾身のタックル。それを受け止めるのが、ドゥエーリ族の告白の形! 相手を受け止める強さこそ、愛の形!


 ……いや持てるスキルなんですけどね。俺は二人から抱きしめられた。大きなお胸さーん! 身長の差もあって、油断するとこれは別の意味で死ぬかもしれない。それは持てるスキルの対象外だ。


 日頃、神様にお祈りしてきて幾星霜。ついに、その日がきた。……ひょっとして、持てるスキルは、この時のために与えられたのでは……?



  ・  ・  ・



「いやいや、おめでとう、ヴィゴよ」


 ダイ様は機嫌がよさそうだった。


「主様も、ようやく結ばれたか。長かったのぅ」


 オラクルは、上から目線である。


「このまま一生、すれ違いのようなことを続けるかと、一時はヒヤヒヤしておったわ」

「何でお前たちがヒヤヒヤしてるんだよ?」


 魔剣と聖剣だろうに。剣の神様の加護で、こう会話できるけどさ。別にお前たちにとっては、俺が誰と付き合ったり結婚しても、関係ないでしょうが。


「まあ、そうなんだけどな……」

「とはいえ、お互いに好きあっているのに、ちっとも関係が進まないのは、見ていてしんどいものじゃぞ」

「……」


 そう、そうね。まあ、俺も非常に消極的だったのは認めるよ。ベッドに潜り込まれて、気づかなかったこともあったけど、最後なんて寝たフリしてやり過ごしてしまったからな。


 だけど、相手がそのつもりだってわかって、このままというのは、さすがに駄目だと思った。


 だから、ラーメ領の一件が片付いたら、前に進もうって思っていたんだ。……言わなかったのは、戦いの前に言ったらよくないことが起きるような気がしたからってのもある。

 そう、嫌な予感ってやつ。

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