第338話、ヘルダイバー
精霊樹の本体である、精霊が命を失えば、木も消える。逆もまた然り。
であるならば、本体とおぼしき汚染精霊を倒せば、黄金の精霊樹もまた枯れる!
俺は、右手の真魔剣、左の神聖剣を、下の大穴にいる巨大精霊に向けた。インフェルノブラストとディバインブラストを同時発射!
赤と白の輝きが、上半身は女、下半身が木の化け物のような姿の汚染精霊に注がれる。しかし、精霊が腕を前に突き出すとダブルブラストが、見えない壁に弾かれた。
「防がれた!?」
『強力な防御魔法だ……!』
ダイ様が唸れば、オラクルが続けた。
『あやつは魔力も豊富じゃかろうのぅ。あれを破るのは難儀じゃろうて』
「厄介だな」
『なに、飛び道具が駄目なら、近づいて直接殴ればよいのだ』
ダイ様は自信たっぷりだった。
『我が真魔剣は、触れた魔力を吸収できる。防御魔法も例外ではない!』
なるほど、なら話は決まったな。
「下へ降りる! ……でも結構深いな」
飛び降りて助かる高さとも思えない。
「ダイ様、使い魔だ」
ダークバードを召喚! 出現した闇鳥に飛び乗って、突撃だ!
グンと加速して一直線に……行かない! まず地面に降りるべく、穴の外周をなぞるように下降する。
『突っ込まんのか、姉君よ?』
『阿呆! そのまま突っ込んだら防御魔法の壁に激突だ!』
そんなわけで下降。その間も、俺は汚染精霊を見る。下半身が地面に埋まっているなら、このままグルリと回れば、あいつの死角に回れるんじゃないか。……っと!?
『来るぞ!』
下から根っこが触手のように伸びてきた。ダークバードが回避をとり、俺は振り落とされないように、使い魔の背中にしがみついた。
「まあ、そうだよな。そう簡単にやらせてはくれないよな」
俺はオラクルセイバーを振るう。光の刃が飛んで、ダークバードの進路を阻む巨大根を切り落とす。
二本、三本。壁からも生えて襲ってくる!
「地面はまだか?」
『思いのほか深い!』
どんどん下へ下へと降りている。これもう、地下だよな?
「さすがに降りすぎじゃないか?」
『そうだぞ、姉君。もう汚染精霊の上半身が見えぬ』
『だって、まだ地面につかないんだ!』
どこまで深い穴なんだよ?
「さすがに潜りすぎだ! 上昇だ上昇!」
『やむを得ん』
ダークバードは翼を羽ばたかせて上り始める。動いている根が、こちらを阻む。
「邪魔だ! インフェルノブラスト!」
真魔剣から地獄の業火が噴き出して、触れた根を瞬時に溶かす。
「もうこのまま、上昇しながら攻撃だ! 防御魔法? 知らん知らん!」
防がれたらその時はその時。汚染精霊の異常に長い下半身――これは果たして下半身かは知らないが、本体に繋がっているならこれも攻撃だ。
ディバインブラスト、インフェルノブラストを交互に撃ち込み、向かってくる根を消滅させつつ、本体にもドラゴンブレスに匹敵する攻撃を浴びせる。
焼けて溶ける木の下半身、吹き飛び、破片を撒き散らす。しかし、固いな……。これ本当に本体? 効いている気がしないんだけど。
視界が明るくなってきた。ようやく、上半身が見える位置まで戻ってこれたが――仲間たちは?
人型精霊とリベルタクランは戦っていた。
シイラの風竜槍が渦を描いて敵を吹き飛ばし、ルカの氷竜剣が周囲の蔦を瞬時に凍らせ、砕く。逆にセラータの炎竜の槍が、灼熱のブレスの如く敵を燃焼させれば、カイジン師匠の魔断刀が、イラやネムら後衛を守りつつ、敵を切り捨てる。
一進一退。膠着状態のようだ。
敵はどんどん下級精霊を出してきていて、数が減らない。こりゃ本体を早くどうにかしたいな。
『ヴィゴ!』
ダイ様の声。汚染精霊が俺のほうに手を向けていた。そこからドバッと土石流のような勢いで大量の枝が吐き出された。
ダークバードが急回避を試みて、俺は落とされないようにしがみつく。何とか掻い潜ったが、壁面に木の束が突き刺さり橋がかかる。
そして橋のように繋がった太い木から、無数のツタが伸びてきた。
ヤベェ、あれで貫かれるか、絡め取られる。
俺はとっさに、ダークバードの背中から飛んだ。わずかに遅れて、使い魔のダークバードが無数のツタに貫かれた。
間一髪……。なんて行っている場合じゃないんだよ、落ちるっ!
『主殿、我を真上に向けよ!』
神聖剣の声。う、上ってこう?
『風を切れ! ブレイブストーム!』
オラクルセイバーを構成する七つの聖剣のひとつ、風のブレイブストームが、吹き荒れた。
「うおっ!? 引っ張られ――」
神聖剣が飛んだ。凄い力で引っ張られるような感覚だが、何とか離さずに済んだ。たぶん持てるスキルのおかげだろう。
俺は神聖剣に引っ張られて、空を飛んだ。まるで垂直の滝を登っているような感覚だ。
汚染精霊が、先ほど壁面へ伸ばした腕――橋のようになっていたそれを引き戻して、急上昇する俺へと手を向けてくる。
今度こそ、その腕で叩き潰そうってか?
「オラクル!」
『駆け抜けろ! ライトニングスピナー!」
雷の聖剣の力が神聖剣に迸る。瞬間、俺たちは稲妻となった。怒濤の勢いで向かってきた汚染精霊の巨腕に、正面から突っ込み、そして貫通した。
はっはっー! 凄ぇ! ……と感心している暇はなかった。俺たちの勢いが凄まじ過ぎて、精霊樹の天辺まで飛ぶ勢いで上昇している。あっという間に、あれだけ巨大だった汚染精霊が小さくなっていく。
「飛び過ぎだ……!」
また真っ逆さまに墜落ってか!
「ダイ様、新しい闇鳥を――」
『面倒だ。もうこのまま、あやつの真上から突っ込めぇー!』
「おいおい、マジか――」
俺の体は重力に引かれて落下を始める。
『我をあやつの頭に向けよ。激突前に最大級のインフェルノブラストを放って、落下の勢いを落とし、神聖剣の風で離脱する! ……それでどうだ!?』
「なるほど名案だ。やってみよう!」
迷っている時間はない。たぶんに勢いだが、もう落ちているので、即決だ。
俺は頭からダイブ。一直線に、汚染精霊を目刺し、真魔剣を向ける。
直上、急降下!
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