第337話、汚染精霊樹の中


 カパルビヨ城よりも巨大になった精霊樹。大きな木を切り倒すのも普通に大変なのに、百人が斧で切れ込みを入れても、倒すのにどれくらいかかるか見当がつかないほどの巨木である。


 真魔剣でどうにかしようと考えてここまでやってきた俺たちだけど、精霊樹の中に入る通路のようなものを発見した。


 出てくる邪甲獣を払いのけつつ、俺たちはその通路のような入り口へと走る。


「精霊樹をくり貫いているのか?」

「神殿でしょうか?」


 イラが言えば、シィラは口元を緩めた。


「案外、ダンジョンだったりしてな!」

「これだけ大きいと、それもありそうだよね」


 ヴィオが同意した。アウラが目を鋭くさせる。


「気をつけて。中から精霊の力を複数感じるわ」

「複数だって?」


 一本の精霊樹に、一体の精霊じゃないのか?


「これだけ大きいとね」


 アウラが薄ら笑みを浮かべた。


「本体といえる精霊は一体とは思うけれど、実がなるように複数の下級精霊を宿している可能性もあるわ」

『お主ら、忘れておらんか?』


 真魔剣が言った。


『こやつは汚染された精霊樹だ。何がどうなっているのかなどわからん。むしろ何が起こっても不思議ではない。その複数の精霊とやらが全部本体の可能性だってあるぞ』


 あんまり考えたくないな、それは。


 入り口らしき穴――普通に神殿の正門くらいの大きさがあった。一列になる必要もなく、俺たちリベルタクランは精霊樹の中へと侵入する。


 壁も天井も床も木だ……。外から見た時、葉は黄金だったけど、幹は普通に木の色をしていた。内部も黄金ではなく、やや黒みを帯びた木である。


『ヴィゴ、これは全部精霊樹だ。一応、適当に我で斬っておけ』


 真魔剣の能力の一つ、傷つけた対象から魔力を吸収する。暗黒煉獄剣――ダーク・プルガトーリョの力だ。


「うりゃ!」


 壁に寄って、真魔剣で斬撃。汚染精霊樹に比べたら、蚊の一刺しといったところだろう。


「どうだ?」

『おお、魔力が勝手に増える!』


 ダイ様が声を弾ませる。これで撃ち放題だぞ。


 ルカが声を張り上げた。


「通路、抜けます!」


 さあて、この先にあるのは集会場か神殿か。俺たちは踏み込む。


「穴……!」


 精霊樹の中は空洞だった。下はぽっかりと大きな穴が開いていて、逆に上も天井が暗くて見えないくらい高い。


 てっきり葉は黄金だから光って見えるかと思ったが、そんなこともなかった。


「邪甲獣が飛んでやがる……」


 アルバタラスと思われる飛行邪甲獣が、のんびり飛んでいるように見える。それだけこの空洞が巨大過ぎるのだ。


「ヴィゴ、下だ!」


 シィラが大穴を見て叫んだ。


「何かいるぞ……。大きい何かが」


 一体何だってんだ。俺も穴の底へと目を凝らす。淡く、球体が光っているような……?


「っ!?」


 誰の悲鳴にならない声かは、とっさにわからなかった。木が動いた。


 否、木のように見えたそれ。


 黄金色の髪のように見える長い葉。灰色の肌の女の顔、上半身――しかし巨人かと思えるほど大きなその体。その下半身は地中に埋まっているように見えた。


 違う! 埋まっているのではない。下半身は多数の根だ。まるでドレスのスカートのように肥大化した膨らみにも見えたそれは、多数の根の集まり。


 そして体の所々に、邪甲獣の装甲が継ぎ接ぎのようについている。


 アウラが息を呑んだ。


「これが、この精霊樹の精霊……!」


 邪甲獣を取り込み汚染された精霊。


「木もデカけりゃ、精霊もまたデカいってか……!」


 こんなのと戦わないといけないのか。俺は手にある真魔剣と神聖剣を握り込む。そうとも、やれるはずだ。この剣がなければ、本当にどうしようか迷うところだった。


 汚染精霊樹の精霊が、うっすらと目を開いた。侵入者である俺たちの、ちょうど正面に陣取っている。下から俺たちを見上げ、精霊は口を開いた。


 それは不快な音。思わず耳を塞ぐ。


 声、なのかもしれない。だが少なくとも人間には意味がわからない。


 すると淡く光る人型が幾つか現れ、宙に浮いた。飛び方がフェアリーくさいが、そんな可愛いものではなく、光っているのっぺらぼうが、ヒラヒラと飛んでいる。


「これも精霊よ!」


 アウラが注意を飛ばした。その光る人型精霊は、両手を突き出すと、それを伸ばしてきた!


「!」


 それは植物のツタのようだった。ツタはみるみる肥大し鞭のように俺たちに襲いかかった。


「散開!」


 俺たちは回避した。伸びてきたツタの鞭が地面を叩き、表面を削った。当たったらそれなりにダメージがくるやつだ。DSGアーマーなしで食らったら、軽く吹っ飛ばされるくらいに。


「問答無用ってか!」

「あちらからしたら、ワタシたちは不法侵入だからね!」


 アウラが苦笑し、手から炎のついた飛剣を投擲した。


「どの道、ワタシたちはこの汚染精霊樹を倒しにきたのだけれど!」


 精霊に突き刺さる飛剣。直後、仕込まれた爆裂魔法が発動、直撃を受けた精霊が爆発した。


 人型精霊たちが向かってくる。数もどんどん増えていく。


「ヴィゴ、下のデカブツがおそらく本体よ!」


 アウラが叫んだ。


「下っ端精霊たちは、ワタシたちで引き受けるから、本体をお願い!」

「わかった!」


 ルカやシィラ、ヴィオ、カイジン師匠たちが前に出て、人型精霊を迎え撃つ。その間に、俺は巨大精霊を討つ!


「ダイ様、オラクル、やるぞ!」

『応さ!』

『任せろなのじゃ!』


 真魔剣と神聖剣が答える。まずはお目覚めの、ダブルブラストッ!

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