第335話、黄金城、突入
黄金城を取り巻く結界が破壊された。
ハイブリッドによる迎撃に手こずらされたが、仲間たちは上手くやってくれただろう。
無事を祈りつつ、俺は仲間たちと合流。怪我でやばかったのはガストンだったが、一命は取り留めた。カバーンも治癒魔法でまだ戦えると言った。
ヴィオのグループもハイブリッドと戦いになったが、何とか退けたという。ヴィオ、何かいい顔しているけど、いいことでもあったのか?
ともあれ、これで精霊樹にかかれるな。
が、その前に俺は黄金城絡みでもうひとつ仕事をしないといけない。俺は仲間たちと黄金城の城門へと移動する。
結界はなくなったが、跳ね橋が上げられて城内への侵入を阻んでいる。城壁には敵がいて、堀の向こう側にいる討伐軍に矢や魔法を浴びせている。
討伐軍もまた盾持ちが、門の前に集まり、弓兵が反撃をしている。しかし、高い城壁が相手では、高所から撃てるほうが有利ではある。
「ヴィゴ殿!」
討伐軍に参加しているアール伯爵軍の騎士隊長が、俺が来たのに気づいた。
「お待たせした。今、こじ開ける!」
俺は真魔剣と神聖剣を、カパルビヨ城の城門へ向けた。
『インフェルノ――』
『ディバイン――』
ブラストォッ! 炎と光が駆け抜け、カパルビヨ城の巻き上げられた跳ね橋を貫通し、城門をも吹き飛ばした。おそらく城門の裏にいた連中も、ダブルアタックを前に蒸発しただろう。
ついでに剣先を上へ逸らし、城壁も溶かして、そこにいた敵兵も巻き込んだ。城門の上が消滅すれば、真上から矢や岩、熱湯をぶっ掛けるなどの攻撃もできない。
「ええーいっ!」
真魔剣を右に、神聖剣を左に動かす。城壁に開けた穴を左右に押し広げるがごとく開き、正面の防備を削り取っていく。破壊によって瓦礫が崩れて、堀へとなだれ込むが、まだまだ埋めるには足りない。
そんなこともあろうかと、堀を埋める土砂は、ダイ様の収納庫にあるもんね。
城壁前の隙間を土砂で埋めて道を作る。黄金城の外側の城壁が崩れるのを呆然と見守っていた騎士隊長が我に返る。
「それ! 勇者様が道を作ってくださったぞ! 城内へ突撃ぃーっ!」
討伐軍の騎士、兵士たちが、俺が埋めた堀を直進し、崩壊し、城壁ですらなくなった残骸を踏み越えて、城内へと侵入を果たした。
中にいた黒オークやゴブリンが出てくるが、討伐軍の兵士たちは一気呵成に攻めかかる。
よしよし……これで、ここでの俺の役割は終わりだ。
城の制圧は討伐軍に任せて、汚染精霊樹を叩く。
「皆、まだ行けるな?」
俺が確認すると、ルカが「はい!」と答え、シィラが頷いた。
「ああ、当然だ!」
ヴィオもアウラも笑顔で応じる。皆、戦意はある。それじゃあ行こうかね、精霊樹へ!
・ ・ ・
ガガンが、黒オークたちを蜂の巣にした。
マルモは一息つき、まだ敵がいないか周囲に目を凝らす。
三階建ての民家から突き抜けて生えている水晶柱。その前は制圧されつつある。
カメリアがミスリル剣で、黒ゴブリンの生き残りを始末し、ニニヤが建物にいた敵を部屋ごと吹き飛ばした。
周りを討伐軍の兵士たちが駆けて、敵の掃討にかかる。
その間に、ラウネとファウナが水晶柱に近づく。浄化のための書き換えだ。箱からドラゴンオーブを取り出して、今度はドリアードであるラウネがオーブを使用した。
願いを叶えるドラゴンオーブは、魔力を消費する。さすがにエルフで姫巫女であるファウナをもってしても、一人でその役割を担うのは難しい。
ドリアードも魔力が豊富で回復も早いから、二人で使っていくとなっていたが、きちんと機能しているようだった。
空気が綺麗になったような気がする。瘴気を拡散していた水晶柱は、汚染を浄化する大気を吐き出し、それが広がっていく。
マルモは駆け寄る。
「あと幾つくらいあるんです?」
「さあね」
ラウネは心なしか疲れた顔で言った。やはりオーブを使うと、魔力をごっそり削られるのだ。
「でもこの分だと、あと1、2個くらいで、黄金城の周りは一周するんじゃないかしら」
カパルビヨ城包囲網。町中の水晶柱を解放していけば、町のかなりの範囲が瘴気を防ぐ結界範囲になるだろう。
黒きモノは弱体化し、討伐軍の兵たちにとっても安全領域は心の安定を呼ぶ。この役割は大事だ。
「ヴィゴさんたち、上手くやっていますかね?」
「まあ、やってくれるんじゃない」
ラウネはどこか他人事のようだった。
「あの人たちにできなければ、たぶん誰がやっても無理でしょうよ」
「……必ず、守護者様はやり遂げます」
か細く、しかし芯のこもった声でファウナが言った。ヴィゴ命という感じのエルフにとって、それは絶対らしい。
その時、黄金城のほうで大きな爆発音がした。
「たぶん、ヴィゴね」
ラウネがそちらへと視線をやる。もうもうと煙が上がっている。
「さすがですねぇ」
思わず笑みを浮かべるマルモ。だがその時、側頭部に衝撃が走った。
「あ……」
近くに矢が飛んできて刺さった。それで察した。撃たれた。敵が近くにいる。
「こなくそーっ!」
マルモはガガンを、矢が飛来した方向に向けて、撃ちまくった。近くの二階建て民家――元は三階建てだっただろうが、壁が崩れていたそこに黒ゴブリンアーチャーが2、3体。矢を撃ち込んでくるので、猛烈な弾幕でお返しする。
「ファウナ!」
ラウネの声。ゴブリンアーチャーを片付けたマルモが視線を向ければ、エルフの姫巫女の肩に矢が刺さっているのが見えた。
「……大丈夫、です」
気丈に答えるファウナだが、痛むのか表情が歪んでいる。……無表情エルフでも、こういう時は顔にでるのか、とマルモは思った。
「衛生兵! って、彼女か」
ディーが離れているので、回復役は撃たれたファウナだったりする。ラウネが叫んだ。
「マルモ、矢を引き抜いて!」
「かしこまり!」
ガガンを置いて、ファウナの肩の矢に手をかける。――ごめんね、ファウナ。
「これ抜いて大丈夫ですか?」
「大丈夫、血管は切らないわ。むしろ毒が仕込まれていたら怖い」
「抜きます! せーのっ!」
「ぐぐっ」
ファウナが呻いた。抵抗はあったが、見た目に反して力のあるマルモは素早く矢を引き抜いた。ファウナに膝枕するラウネが、さっそくドリアードの治癒を使う。
「ちょーと、普通とは違うけど、大事にはならないから安心して」
少し休憩、とラウネは言った。周りでは討伐軍の兵士が忙しく駆け回り、敵の掃討と即席の陣地作りを始めていた。
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