第332話、ハイブリッドの女たち


 俺が、ペール――レオル元団長を倒した時、イラとネムは結界石を盾にしていた。気づけば黒きモノの増援がきて、彼女たちと射撃戦を展開している。


 また、討伐軍の後続部隊も追いついてきて、黒きモノたちめがけて突撃を敢行した。


 そっちの敵を何とかしたいが――セラータは?


 アラクネである彼女は、元同僚であるナウラ――メールと戦っていた。蜘蛛のようにピョンピョン跳躍して、周りを跳ねるセラータに、ナウラは苛立つ。


「うざったいんだよ、クモ女!」


 振り回す魔剣は空を切る。と、滞空するセラータが蜘蛛の胴体から糸を飛ばした。ナウラは飛び退く。


「完全に蜘蛛じゃねえか! ダークボール!」


 闇の玉を具現化させ、それを飛ばすナウラ。セラータは跳躍回避を続ける。


「くそっ、戦う気があるのか! お前も騎士に憧れたんなら、正々堂々と戦ったらどうだ、この卑怯者!」

「見ないうちに、ずいぶんと言葉遣いが汚くなりましたね、ナウラ」


 セラータは着地すると、炎竜の槍を構えた。


「かつては仲間だったから、どう説得しようか考えたのですが、やめることにします」

「冷たいじゃねえか、アルマよ」

「その名で呼ぶな!」


 セラータは一喝した。


「あなたはナウラの皮を被った別のモノ。本物のナウラはもう死にました。ええ、死んだのです!」

「確かに一度死んだと思うよ」


 ナウラは自身の体に手を当てた。


「だが、こうして蘇った。私は、ナウラだ」

「人は蘇らないのです。――メール!」


 セラータの槍の穂先が炎を纏う。


「これ以上、戦友の体を弄ばないで!」


 ファイアブレス――炎竜の槍が、ドラゴンブレス級の炎柱を吐き出した。



  ・  ・  ・



『気をつけろ、ガストン!』


 カイジンは叫んだ。


『その娘の糸は、人をも操るぞ!』

「くっ」


 とっさに糸のようなものが見えた騎士ガストンは、盾を投げ捨てた。糸はハイブリッドの少女フィーユから飛ばされ、捨てた盾が宙を浮いた。


「ゴッドフリー! トレ!」

「……う、動か……ない!」


 ヴィオ付きの騎士であるゴッドフリーとトレは、糸に取り付かれた。フィーユが指を動かすと、二人は、カイジンとガストンに剣を向けた。


「わたしは人形使いなの」


 フィーユは両手の指を動かす。


「大人しくわたしの糸に捕まるの。そうすれば、殺し合いをしなくてすむの!」


 ロックゴーレムと大岩、そしてゴッドフリーとトレが向かってくる。ガストンは皮肉げに口元を歪める。


「これは少し、厄介ですね」

『まさに』


 カイジンは魔断刀『陽炎』を構えた。


『ガストンよ。気を抜くでないぞ!』

「はい!」



 ・  ・  ・



 ヴィオは聖剣スカーレット・ハートを手に、ハイブリッドの少女魔術師サールの猛攻を凌いでいた。


 サールの両手が、騎兵槍のような形を取り、それぞれ突いてくる。魔術師ローブ姿に見えて、距離を問わず仕掛けてくる。


「どうしたのぉ? さっきからワタシが攻めてばかりなんだけど?」

「くっ!」


 ヴィオは防戦を強いられる。それもこれも相手が騎兵槍で突いてくるからだ。ヴィオが聖剣を振り回そうとも届かない距離。しかしサールの槍の先は、余裕で届く。


 懐に飛び込もうと外側から回り込もうと仕掛けたら、騎兵槍で横へ薙ぎ払われた。彼女は、一定の距離から踏み込ませないのだ。


 かといって距離を取ろうとすると、地面から金属のスパイクを放ったり、刃を飛ばしてくる。それを凌いでいる間に、サールは距離を詰め、槍による突きで、ヴィオを自身の間合いに捉える。


 消耗させられている。息が上がってくる。ヴィオは傷こそ負っていないが、追い詰められているのを自覚した。


 このままではいずれ、槍に突かれて終わる。


「聖剣使いといってもこの程度なのねぇ。間合いを支配されるの、どんな気持ち? ねえ、どんな気持ちぃ?」


 煽るサール。清楚に見えて、品性は下劣だ。負けられない――ヴィオは奮起する。


「あんまり僕を侮るなよ!」


 聖剣が光った。アンデッドを浄化する光――もちろん、アンデッドでなければ通じない。だがその輝きを比較的近くで浴びれば――


「ちぃっ!」

「目が眩むだろう!」


 ヴィオは槍の間に踏み込んだ。このわずかな隙を逃がさない!


 一気に距離を詰めて切りつけて――


「ごめんなさい、お姉ちゃん!」

「え……!?」


 ヴィオは戸惑った。急に懇願するような泣き顔になったサール。だがその戸惑いが命取り。


「なあんて――ね!」


 両手の槍を解除したサールが、ヴィオに抱きついた。


「甘ちゃんなんだなぁ、聖剣使い様はぁ」

「離れろ!」


 接触は危険と勘が言っている。抵抗するヴィオだが、サールはすぐに離れた。そのまま振り上げた聖剣を振り下ろすが、サールにその刃を両手で挟まれ阻止されてしまった。


「ダメだよ、そんな腰の入っていない攻撃は」


 サールはニンマリ笑った。


「そんな悪い子に、聖剣はあーげない! 鉄になっちゃえ!」

「!?」


 ふっと、ヴィオの腕の中で、スカーレット・ハートの重さが変わった。自分の愛用の剣が、別のものになったような。


 急に聖剣との繋がりが消えたようで、ヴィオは焦った。


「なに、これ……?」

「これが私の能力」


 サールは笑った。


「私が触れたものは、自由に金属に変えることができるのよ。この場合は安物の鉄かなぁ――」

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