第331話、団長
ペールという名の黒騎士の魔剣と、俺の持つ真魔剣がぶつかる。
ダイ様の超重量をも無効化する魔剣。こうやって切り結ぶのは、実に久しぶりな気がする。
そしてこの黒騎士、腕がいい。
全身を重甲冑で覆い、兜のせいで顔も隠れているからわからない。肌が灰色かはわからないが、おそらくハイブリッドだろう。
剣と剣がぶつかる。俺がペールを引き受けている間に、かつてのパーティーメンバーだったナウラことメールが、セラータと交戦。
そして、イラとネムが結界石を破壊するべく走り、残っている黒オークを倒している。
「っと!」
よそ見している余裕はなかった。黒騎士の魔剣――両手持ちの大剣型が、俺の頭めがけて振り下ろされたので、身を引いて躱す。
「セブンソード!」
俺の左手の神聖剣が七つの属性連続攻撃を繰り出す。こいつは止められるか!
光、炎――黒騎士は魔剣で捌く。
雷を弾き、水を裂き、氷、岩、風の刃を掻い潜った。
「マジか!」
七連続を避けやがった!
黒騎士が腕を突き出す。見えない風――突風が俺にぶつかった。やべぇ、体が浮いた。後ろへ飛ばされて、地面に背中から激突。
だが痛みを感じている余裕はない。黒騎士が人間離れしたジャンプで、俺のもとまで飛んできて魔剣を突き立てた。
横へ転がりながら回避。その勢いで起き上がり、身構える。黒騎士は魔剣を振り回して連続して斬りかかる。
真魔剣、神聖剣と交互に弾き返す。たぶん、こいつの一撃は相当重い。俺の持てるスキルの影響で、片手で防いでいられるが、普通だったら、弾くことも敵わず、両断されていたかもしれないな。
「でもなっ!」
黒騎士の上段からの一撃を真魔剣で払って逸らすついでに、左の神聖剣で一閃。黒騎士の頭をカウンターで狙う。
剣先が兜に切り込む。金属が切れる感触が手に伝わる。――くそっ、浅い!
それはつまり、兜だけで、中身には届いていないってことだ。
兜が割れる。黒騎士は飛び退いた。中途半端に切れたから、鬱陶しいのだろう。黒騎士は兜に手をかけて、脱いだ。
こぼれる金色の髪。灰色の肌。端正な顔立ち、青い目。――お前っ!
「レオル・フォンテ……団長、あなたなのか?」
王国軍セイム騎士団団長。第一回の討伐軍に参加した騎士。おそらく騎士団は全滅し、彼もまた戦死したと思われていた。
「……やあ、ヴィゴ君」
どこか棒読みくさい口調で、黒騎士――レオルは俺を見た。
「君も、ここに来たのか?」
「団長……?」
何だか様子が変だ。ナウラのようにはっきりした調子で喋るでもなく、どこか壊れているような印象を与える。
実際、壊れているのかもしれない。人間ではなく、ハイブリッドになった影響で。
ナウラは蘇ったと言っていた。一度死んだのを、人外へと改造されて蘇った――それがハイブリッドだとしたら、レオルもまた、すでに死んでいたと考えるのが自然か。
「すまないな。私はここを守らないといけないのだ。騎士は王国を敵から守るのが使命――だから、死んでくれ」
黒騎士レオルは魔剣を振り下ろした。まったく、親しくはないが、好意的な人だったから、やりづらい!
「レオル団長、あなたはウルラート王国の騎士だ。それが王国の敵に与しているのは如何なものか!?」
「王国の敵? 否、私は、ウルラート王国の騎士!」
再び剣がぶつかる。
「私は、このウルラート王国を守っている!」
これは、完全に頭のほうがやられているかもしれない。話が通じれば……。せめて剣を収めてくれれば……。いや、やってみるか。
俺は、一度距離を取り、真魔剣と神聖剣を鞘に収めた。
『ヴィゴ!?』
『主様よ?』
当然、抗議がきたけど、まあ待ってくれよ。
「レオル団長。お互い剣を収めて話し合いませんか? 俺はウルラート王国の敵ではない」
話し合いをするのに、武器を持ってはいけないだろう。まずはこちらからその姿勢を見せる。
「敵ではない……」
レオルは構えを解き、しかし魔剣を持ったまま、俺に近づく。
「ペール!」
セラータと戦うナウラ――メールが叫ぶ。
「そいつは、我々が仕えるウルラート王国の味方じゃない! 始末しろ!」
「……そうか」
レオルは思い出したような反応をとった。
「古きウルラートと新しきウルラート。名前が同じだから錯覚してしまった」
黒騎士は剣を振りかぶった。
「私のウルラート王国と君のウルラート王国は違う!」
そういうことね。
「今のあんたは、古きウルラート王国に仕えている、と」
魔剣の斬撃は、俺の右手で止めた。剣がなくとも、無力ってわけじゃないんだぜ。
「それじゃあ平行線ってわけだ。残念だよ、レオル元団長」
黒騎士は魔剣を引くが、俺の右手が掴んでいて微動だにできない。逆に俺は足で地面をしっかり踏みしめて、ぶん回す!
「おりゃああっ!」
俺は持てるスキルで、軽々と重装備の黒騎士を振り回し、そして地面に叩きつけた。レオルの片手が離れたが、もう片方がしっかり魔剣を掴んでいる。いや、放してくれないかな!
二度、三度と、団長の体ごと持ち上げては叩きつける。あんたが放さない限り、何度だって叩く!
しかし、レオルは手を放さなかった。何度も何度も地面にぶつけられても、まるで効いた様子もない。ハイブリッドの体にはダメージになっていないのではないか?
仕方ない。俺は左手で神聖剣を抜くと、魔剣を持ったレオルの右手を切り落とした。これで厄介な魔剣を切り離せた。……団長、今度こそ天国に逝ってくれ。
「オラクル!」
神聖剣が光輝く。その聖なる光をまとった一撃が、ハイブリッドとなったレオルを焼き、浄化していく。
「……団長」
俺とあんたは別に親しい間柄じゃなかった。ただ俺にも公平に接してくれたから、嫌いじゃなかった。
虚しい。そしてモヤモヤする。悲しくもあったが、涙は出なかった。
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