第307話、聖剣 対 魔剣


 ヴィオ・マルテディは聖剣を手に、二体の黄金騎士と対峙した。


 さすがにベスティア級を相手に二体同時は厳しい。後ろからユーニたちが援護してくれているが、黄金騎士にダメージは入っていない。


 ――そっちへ行かれたら、マズイよね……!


 敵の魔剣が直撃すれば、仲間たちは武器で防げない。防御の魔法ならどうだろう、と思うが、ヴィオはそこまで詳しくないので、何とも言えなかった。


 一体が肉薄してくる。振り上げられた魔剣を回避! カウンターを――仕掛ける前にもう一体が連携して動いてくる。


 攻撃を狙えば、やられる。ヴィオは仕方なく回避に専念する。自分がやられてしまえば、ヴィゴしか対抗できなくなる。


 それは彼が相手をしている一体を倒すなりしない限り、黄金騎士が自由にリベルタクランを攻撃できるということ。そうはさせない。


 ――たとえ倒せなくても、時間を稼ぐことはできる……!


 一対二ではあるが、ヴィゴが一体を仕留めてくれれば、二対二だ。幸い、この黄金騎士たちは連携はすれど、回避できる隙はある。


 攻撃させなくても、こちらを仕留めるまではでき――


「あぶなっ!?」


 黄金騎士たちが攻撃を連続させた。一体が攻撃し、ヴィオが避けたところに、別に一体が攻撃。それを避けるとすぐに最初の一体が仕掛けてくる。


 完全に攻撃する隙がない。あと、回避を間違えたらやられる! 


 ヴィオは焦る。仲間たちの方へ逃げては巻き込んでしまうので、そちらに近づかないよう全体の位置を、刹那にこなす。悠長に見ている間はなかった。


 黄金騎士の上からの斬撃を、飛び退いて躱す。床にヒビが入り、黄金の欠片を飛ばした。一瞬、ヴィオの意識はその破片に向いてしまう。


「しまっ――」


 わずかな遅れ。しかし回避のタイミングを逃す致命的な遅れ。


 だが、踏み込んでくるはずの黄金騎士は来なかった。


 見れば白騎士――マスター・カイジンのベスティア2号が、一体の黄金騎士の背後に組み付き羽交い締めにしたのだ。


 ――しめた! 背中に取り付けば、もう一体が動かなければ魔剣の攻撃はない!


 そのまま一体を拘束してもらえれば、こちらも一体に集中できる。さすが、ヴィゴのお師匠様!


 今のうちにもう一体を――連携するはずの相方が来なくても、黄金騎士はヴィオに追撃を放つ。


 だが、間があった分、躱せる!


 そしてカウンター! ヴィオのスカーレット・ハートの剣先が、黄金騎士の喉元をかすった。


 僅かに届かなかった。だが黄金騎士が慌てて距離を取った。


「ふふ、確かにその騎士の動きは人間より優れているみたいだけど、僕もしっかり見ているんだよね……!」


 ヴィゴのように強くなりたくて、そのお師匠であるマスター・カイジンに剣を教わった。ベスティアボディの動きも、しっかり把握している。この手のゴーレムとか人型機械の動きについては、そこらの騎士たちよりわかっているのだ。


「今度はこちらから行かせて――」


 もらう、と言いかけたところで、ヴィオの視界の端に、唐突に白騎士が倒れたのが見えた。


 マスター・カイジン!?


 羽交い締めにしていたはずの白騎士が、何かされた様子もなく倒れ、黄金騎士が動き出す。


 ――え、え……? 何があったの?


 わからない。確かなことは、相手をしている黄金騎士がまた二体に戻ったこと。


「……っ!」


 振り出しである。ヴィオはギリッと奥歯を噛み締める。また時間稼ぎをしないと――


 奥の黄金騎士が動いた。前の黄金騎士に続いての連続攻撃を仕掛けてくるに違いない。回避方向を間違えると今度こそ、避けきれない!


 後ろの黄金騎士が前の黄金騎士に重なるように隠れ――と、その瞬間、黄金騎士の振り上げた魔剣が、前の黄金騎士の背中を強襲した。


「!?」


 回避のために踏み出す足が止まってしまうヴィオ。


 ――今、味方を攻撃した?


『フフ、やはり魂のない人形。乗っ取るのも容易いわ!』


 後ろから倒した黄金騎士から、マスター・カイジンの声がした。ということは――


「マスター!?」

『うむ、ヴィオよ。今のワシはこちらの黄金騎士の方だ』


 ゴーストであるカイジンが、敵黄金騎士を乗っ取ったのだ。白騎士――ベスティア2号を動かす要領で憑依したのである。


 そういえば、この黄金宮の鎧甲冑も、ゴーストが憑依して襲ってきていた。マスター・カイジンに同じことができないはずがない。


『この、離すのよ!』


 マスター・カイジンの黄金騎士の手にある魔剣が声を荒げる。自分が操っていた人形を取られてお怒りの様子だ。


『せっかく掴んでいるのだ。そう簡単に離しはせんよ!』


 これで一体の動きを封じ込めた。倒れていたもう一体が起き上がる。――そうはいかない!


 ヴィオは起き上がる黄金騎士の首に、スカーレット・ハートを叩き込み、刎ねた。


『くっ、やられたのだわ』


 黄金騎士が倒れ、その手から離れた魔剣が少女の姿になる。そうだった。こっちが本体だった。


 ヴィオから放れた魔剣少女は、カイジンの黄金騎士へ向かう。しまった。片割れを助けるつもりだ。慌てて追おうとするヴィオだが、間に合わず、少女は手に魔剣を出すと、黄金騎士に一撃を入れた。


 手の中で暴れる魔剣のせいで、マスター・カイジンの動きはほぼ封じられていたから、回避ができなかったのだ。結果的に、黄金騎士の手から逃れた魔剣も、少女の姿となり、周囲を高速で滑るように駆け抜けた。


 そしてヴィゴと戦っていた魔剣少女と合流する。


『案外、やるものだわ』

『正直、意外だったわ』

『切り札を使うのだわ』


 三人が背中合わせに集まった。次の瞬間、少女たちは長い白い髪の女性に変わった。そして剣はひとつに。


 顕現する、暗黒煉獄剣――ダーク・プルガトーリョ。


「ここからが本当の勝負なのだわ」

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