第308話、真なる魔剣


 三つに分かれた魔剣が一つになった。


 だが実際のところ四つなので、どうあがいても一つ足りない。俺は右手に神聖剣、左手に魔竜剣を持って、暗黒煉獄剣、ダーク・プルガトーリョと対峙する。


「ダイ様、あっちは自分で自分を持っているぞ、どうなってるんだ?」

『ヴィゴよ、自分で何を言っているのか理解しているか?』


 もちろん、理解しているとも。剣が本体なのに、人間姿の魔剣が、手にさらに魔剣を持っているのはどういうことなんだ?


『実に、器用だのぅ』


 オラクルが他人事のように言った。


『さすがの姉君でも、あんな芸当はできまいて』

『できらぁ! あ、嘘です。できません……』


 急に大人しくなるダイ様。やっぱテンションおかしいぜ、今日は。


『冗談はともかく、たぶんあれだ。3体おるのだから2体が剣、1体で人型を形成しておるのだろう』

「んな馬鹿な」


 三人で合体って雰囲気だったのに、それじゃ中途半端じゃないか?


『さすがは妹なのだわ』

「如何にも。剣に二体、人に一体だわ」


 あっさり認めやがった! あー、そうですか。


「ただし、合体した分、この魔剣は2倍の力を発揮するのだわ!」

『そりゃ四つのうちの二つだ。一つの時の倍になるのは当然だな!』


 ダイ様は笑う。


『しかし、四分の一が四分の二になったとて、我の半分にしかならんのだ! わっはっはっ!』


 魔竜剣様は自信たっぷりである。正直、互いに知っている頃とは違うのだから、本当に数字通りなのか、怪しいと思うのは俺だけだろうか? ま、こっちは神聖剣もあるから、そこまで負けていることもあるまい。


「ならば、試してみるのだわ!」


 白い髪の女剣士が、魔剣を手に飛びかかってきた。黄金騎士の時よりも断然速い!


 魔竜剣で迎撃。横からの薙ぎ払いはしかし、空を切った。


『ふふ、馬鹿め』

『こっちが分裂しないと』

『思っていたのかしら?』


 一瞬で元の少女三人に戻り、両手に剣を出した状態になった。取り囲まれて、四方から六つの剣で集中攻撃!


 カイジン流旋風! 全周への高速一閃。二刀流だから、師匠のほぼ倍の斬撃を繰り出す。金属同士の衝突音が連続する。確かに囲まれての攻撃は厄介だが、師匠の娘さんのクレハさんは、もっと速かったぜ!


「これは――!」


 攻撃を弾かれ、魔剣少女は再び合体。そこへ俺は左手の魔竜剣を投擲とうてき


『まーたお主は我を――!』


 何か文句っぽい声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。女剣士は飛んでくると思わなかったのか、思い切り腹部に直撃を受けて魔剣を手放し、壁へとぶつかった。


 だが手放した魔剣が、床に落下する途中で剣先を俺のほうに向けて飛んできた。俺がダーク・インフェルノを投げたから、こっちも突撃ってか?


『主様よ!』

「大丈夫」


 飛来したダーク・プルガトーリョ。しかしその刃は俺のフリーの左手に捕まった。


『止められたッ!?』

『そんな馬鹿な!?』


 今の魔剣は二つ分だっけか。でも残念。俺の手の届くところに飛んできたのがオチなんだよ。


「俺、持てちゃうからさ」


 剣先から軽く上に投げ、秒で落ちてきたダーク・プルガトーリョの柄をキャッチ。


「これが暗黒煉獄剣か。ダイ様より軽くない?」

『聞こえたぞー!』


 壁の方からダイ様の声。俺の左手にある魔剣は驚いている。


『おかしいのだわ! 動けない!?』

『持たれてしまっているわ!』


 ひょっとして俺の手から脱出しようとしている? 全然そういう動きとか感じられない。何とも大人しいものだ。


 持ち主以外には暴れ馬よろしく抵抗するのかもしれないが、持てるスキルがきっちり保持しているんだよな。


「いいぞ、ヴィゴ。そのまま、そやつらを持っておれ」


 人型に戻ったダイ様が歩いてきた。……ん?


「その手に持っているものは何?」

「あ? ああ、プルガトーリョの欠片」


 さっき俺が魔竜剣をぶん投げたことで、直撃を受けた女剣士――ダーク・プルガトーリョの人間形態、その成れの果ては寂れた魔剣の欠片になったらしい。


「……お前、喰った?」


 以前、ゴブリンキングが持っていた魔剣エクリクシスを取り込んだように。


「ああそうだよ。姉妹剣とはいえ、欠片のひとつを魔王の娘が持っておるのだろう?」


 そう言ってたな。ここにいるのは四つに砕けた魔剣のうちの三つだって。


「敵対することがわかっている奴のもとに、万が一、欠片が集まって真のプルガトーリョが復活しても面倒だからな。それならば我が喰ろうて糧にしてやるのだ。……覚悟せよ」

『魔剣殺しなのだわ!』

『妹のくせに生意気!』


 俺の手の中のダーク・プルガトーリョ――およそ半分の剣が不満を爆発されたが、ダイ様はニヤニヤしながら、魔剣に近づいた。


『我と我が主をコケにした罰だ。因果応報、弱肉強食なのだ!』


 何か適当言ってない、ダイ様?



  ・  ・  ・



 魔竜剣ダーク・インフェルノは・魔剣ダーク・プルガトーリョの四分の三を取り込み、さらなる進化を遂げた。


「その名もっ! 真・暗黒地獄剣! 真・魔竜剣ダーク・インフェルノォォ!!!」


 ダイ様は大変威勢がよかった。だが――


『それはどうかと思うのだわ』

『イタ過ぎるのだわ。これが妹とか』

『正直、勘弁して欲しいと抗議するのだわ』


 ダイ様の中で、ダーク・プルガトーリョの欠片たちの意識が文句を垂れた。取り込んだにも関わらず、その意識が残っていたのだ。


「なんでじゃーっ!」


 絶叫するダイ様。マニモン曰く、魔剣の格が同等だったから、片方の意識を完全に消滅させることはできなかったらしい。


 とはいえ、力はプルガトーリョのほうが劣っていたようで、メインはダイ様、サブでプルガトーリョになった。……長いな。以後、マニモンに倣って、ダープルと呼ぼう。


 ダープルたちは文句は言えど、口が減らないだけで、その力の行使はダイ様の支配するままだった。


 結局のところ、魔竜剣のパワーアップなのは間違いない。神聖剣が七つの聖剣でできているように、ダーク・インフェルノも、複数の魔剣の力を持つ真・魔竜剣となったのだ。


「真・魔竜剣は長い。真魔剣でよい」

「そうか」


 ダイ様がそれでいいと言うなら、いいんだけどさ。

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