第305話、魔剣少女たち


 ダーク・プルガトーリョ。


 暗黒煉獄剣とも呼ばれた魔剣。そしてダーク・インフェルノこと、ダイ様と同じ時に作られた姉妹。


 俺も驚いたが、ダイ様はもっとビックリしていた。


「何と! 我の片割れと思うておった魔剣が、実はさらに三つ子だったとは!」


 そこかよ……。いや、間違っていないか。ひとつの魔剣なのに、出てきた人型は3人だもんな。


『人の話を聞かない子なのだわ』

『ダメな妹なのかもしれない』

『姉かもしれないけど……』


 ダイ様によく似た姉妹たちは、相変わらず口を動かさずに声をぶつけてきた。ダイ様は応じる。


「4人でも3人でも大して変わらんだろ! というか、何故に欠片などになったのだ? 勇者にでもやられたか?」

『『……』』

『図星なのだわ』

「やられたんかい!」


 ダイ様が突っ込んだ。マニモンが玉座に腰掛けたまま、頭を振っている。


「ダープルちゃんは、魔王と共に勇者と戦い、そして敗れた。その戦いで、剣は砕け、四つになったのよ」

「聖剣に砕かれるとは、魔剣の面汚しよ」

『酷いのだわ、妹よ』

『姉さんは悪魔だわ』

『魔剣なのだけれど』

「やかましいわ! おい、マニモン。我かこいつら、どっちが姉かはっきりさせぃ!」


 ダイ様が創造主に文句をつけると、ドレス姿の少女たちがわずかに眉をひそめた。


『ワタシたちのセリフを削るつもりね』

『慈悲はないらしいわ』

『……』

「もうひとり削られとるやないかい!」


 ダイ様の突っ込みが止まらない。何かテンション高くない? 妹だか姉と遭遇して、はしゃいじゃっているのかな?


 マニモンが嘆息した。


「ダープルちゃんたちは、ダーインちゃんの姉か妹、どっちがいい?」

『姉』

『姉』

『妹』

「どっちだ!?」


 魔剣姉妹のほうでも意見が割れている。マニモンは肩をすくめた。


「2対1で、ダープルちゃんたちは、ダーインちゃんの姉になりました」

「ちょっと待てぃ!」

「ダープルちゃんたちの総意ということで――」

「だから、待てというだろうに! 総意というなら、1人足らんだろ? こいつらは4人のはず――」

『いない姉妹の話をし出したわ』

『イマジナリー・シスターだわ』

『ワタシたちの妹が幻を見てる』


 早速お姉さん風を吹かせるダーク・プルガトーリョ姉妹。俺たちは、この魔剣と大悪魔のやりとりをどうしたものかと見守る。アウラやヴィオ、セラータも戸惑っている。


 ダイ様は、大悪魔を見た。


「マニモン」

「4つ目の欠片のこと? ふふ、知りたぁい?」

「もったいぶるな、マニモン。我と妹がお主をぶっ飛ばすぞ」


 ダイ様が威圧すると、俺の手元から、オラクルが飛び出した。


「呼んだかえ?」

「呼んどらんわ!」

「あらま、神聖剣にも魂が宿ってる……?」


 マニモンが口もとに手を当てて驚いている。まーた、めんどくさいことになりそうだぞ。


『妹なのだわ』

『妹が増えたわ』

『知らない妹だわ』


 案の定、魔剣少女たちがざわついている。マニモンは苦笑する。


「砕けた欠片、4人目はここにはいないわ。おそらく、ウルラちゃんが持っているんじゃないかしら」


 魔王の娘が、ダーク・プルガトーリョの欠片、4つ目を持っている。これから俺たちが攻略する領主町にいるかもしれない、魔王の娘が伝説の魔王の魔剣が。


「まあ、言っても4分の1だし」


 ダイ様はどこか投げやりな調子になった。


「敵対したとて、我の4分の1だろ」

『本当にそうかしら?』

『それは侮り過ぎだわ』

『昔と今では全然違う』


 少女たちは冷淡に言い放った。


『力をつけたようだけど』

『昔と比べると……まだ弱い』

『ワタシたちも、あの頃とは違う』


 1000年前の大地を砕き、大群を蹴散らしたと言われる伝説の魔剣だった頃とは。

 魔王の力、破壊に満ちた闇の力が足りない。


「ほほぅ……」


 ダイ様が獰猛な笑みを浮かべる。


「面白いことを言うな、お主たち」

『試してみる?』

『お姉さんは、怒なのだわ』

『生意気な妹は、修正してやるのだわ』


 玉座の間に、プレッシャーが満ちる。ミシミシと大気が震える。


「ちょっと、ダイ様?」


 アウラが不安げな声を出せば、カバーンやディーも蒼白になる。そしてそれは、マニモンも同様で。


「ちょっと、あなたたち! ここで争わないでぇ!」


 巻き添えはごめんよ!――と大悪魔でさえ慌てる。


『『『サーバント、召喚!』』』


 少女たちのいる床に魔法陣の光が走り、黄金甲冑の騎士がそれぞれ浮かび上がる。その姿は、ベスティアに似ているような。


 プルガトーリョの少女たちは剣に変わると、騎士たちの手に収まる。


「なあ、ダイ様、これ俺が戦わないといけないやつ?」

「そういうことだ。どちらが姉かわからせてやるまいて」

「仕方ない。長姉のためにわらわも手を貸してやるのじゃ」


 オラクルもニヤリとした。


「どちらが真の妹か、わからせてやるのじゃ」

「いや、お前関係ないからね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る